オーディオ愛好家にとって今やネットオークションは欠かせないツールの一つになっているが、お互いに顔の見えない同士の取引とあって、どうしてもいくばくかの博打的な要素が伴うのは否めない。
そういう中、「この出品者なら絶対に間違いなし」という定評のある方が居られるが、古典管マニアの間で取り分け折り紙付きなのが関西の老舗のショップさんで、仮に「Eさん」としておこう。
このEさんが出品されたときはアラート登録しているので常にメールで教えてくれるが、いつもスタート価格がリーズナブルだし、品質もたしかとあってたいへん重宝している。
そして、このほど出品されたのが、いわずと知れた泣く子も黙るほどの「WE300B刻印」。画像と解説文を見てみよう。
「WE ウエスタンエレクトリックの直熱3極出力管WE300Bです。言うまでもなくWEの代表的銘球で、出品していますのはWE300Bでも最初期の刻印ベースのものです。
どちらも新品元箱入りで、WE300B刻印の未使用品は今では現地でも入手困難になっています。1940年前後頃の製品。
プレート上部側面の3枚のマイカ板が長い長方形になっている点やプレート下部のマイカ板の中央部だけに白いマグネシアを塗布してある点(劣化の進行を防ぐため)など刻印時代の特徴が見られます。どちらも大型のO型ゲッタリングのものです。
内1本(各画像左側)の足ピン表面に多少浮きサビが見られますが、問題になるようなものではありません(もう1本はぴかぴかの状態)。
どちらも新品元箱入りで(片方の元箱には裏ぶたが無くなっているなどいたみやシミが見られます)、WEオリジナルのWE300Bの動作例などが記載されたデーターシートもそのまま残っています(片方のシートにはいたみが見られます)。
特性はTV7/Uにより確認済みです。 測定値は基準値58に対しどちらも77となっています。入札価格は2本セットの価格です。」
スタート価格は10万円で入札終了日は12月10日(日)を設定。
このEさんは、老舗だけあって独自の輸入ルートがあるとみえ2年ほど前の12月にも300Bの刻印を出品されており、その時の落札価格はたしか100万円近い額だったと記憶している。
同じ「12月」に出品されるというのは偶然かもしれないが、比較的ふところが豊かになる「ボーナス」時期を当て込んでのことかと、つい勘繰りたくなるし(笑)、また落札終了日は誰もがオークションに時間を割きやすい日曜日の設定だし、背後に緻密な計算が垣間見えるような気がする。
何しろ100万円近い取引なんだから、もし自分ならそうする!(笑)
結局、入札結果は激しい競り合いの末「933,000円」で決着をみた。たった真空管2本の値段がそんなにするのかと驚かれる方も多いことだろう。
もはや現代の技術をもってしても再生産が不可能な「300B刻印の人気衰えず」といったところだが、一説には通貨「元」の不安を見越して、高価で安定的な物品に換えておくために投機筋が動いているという噂もあったりして、可能性としてはかなり高いと思う。
趣味の世界に投機が持ち込まれるのは愛好家にとって不幸極まりないが、品物そのものにとっても使われることもなく仕舞い込まれるのは実力が発揮できなくて可哀そうである。
そうはいうものの、300B刻印を100万円も出して買うほど音質的に価値があるのかというと、個人的には首を傾げざるを得ないと思っている。
わが家ではやや「へたり気味の300B」(1951年:せいぜい市価30万円程度だろう)とエレハモ(ロシア製:市価2万円程度)をときどき入れ替えて聴いているが、とてもお値段の開きほどの音質の差は感じない。せいぜい「音に品があるかないか」程度のものである。
ところが「品が一番大切だ!」と言われると切り返す言葉がないが(笑)。
それはさておき、むしろ100万円もあればスピーカーに投資した方がずっと好みの音に近づけるような気がするのも事実。アンプ(真空管)とスピーカーは持ちつ持たれつの関係だが、スピーカーが主人公であり、アンプは召使だという思いはずっと変わらない。
なお、一昨日(17日)の落札日を迎えオークションに出品されていた「PX25ナス管」(イギリス:未使用)をずっと注視していたが、結局お値段が伸び悩んで落札価格が「146,200円」に留まった。
300B刻印とは月とスッポンの差だ。かっては直熱三極管の両雄だと並び称されていたのにどうしてこんなに差が開いたのだろう。
PX25のファンとして実力が正当に評価されていないことに一抹の寂しさを覚えるが、まあ、予備球が比較的安く手に入るのは歓迎というところだ(笑)。