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北海道新聞2024年1月14日 11:15
国家的プロジェクトで次世代半導体を製造するラピダス(東京)の拠点が千歳に昨年9月着工した。先端産業が道内にどう影響を及ぼすのか関心は高い。
「ラピダスのスピード感に恵庭市はついていけるのか」「外国人技術者と地域をどうつなぐ」。先月20日に恵庭で開かれたフォーラムでは、経済人や市民らが原田裕市長やラピダス幹部に疑問や注文をぶつけた。
同様のセミナーは千歳以外でも道主催で旭川、釧路などで開かれている。恵庭の特色は市と地元北海道文教大の地域創造研究センターが主催した点だ。
道文教大は主に外国語や医療福祉を学ぶ私立大だが、本年度に市と連携し政策課題を解決する場としてセンターを作った。
センター長は小磯修二北大大学院客員教授。25年前にも釧路公立大の地域経済研究センターを立ち上げた経験を持つ。
道央圏ではラピダスを核にIT産業拠点をつくる「北海道バレー」構想が浮上する。米西海岸シリコンバレーがモデルだ。
フォーラムで小磯氏は「具体的に恵庭市に何ができるか考えたい」と述べ、市長は新たな市街地開発の可能性に言及した。
ラピダスが進出したのは千歳であり恵庭は隣町にすぎない。原田市長が目指すのは「集まったソフトウエア技術者が住みやすい環境をつくる」ことだ。
米シリコンバレーは半導体素材のシリコンを冠した産業拠点の総称。元々はサンタクララバレーという農業地帯である。
米社会学者アナリー・サクセニアンは30年前の著書「現代の二都物語」で、東部工業都市ボストンの衰退と対比する形でその発展要因を分析している。
閉鎖的な大企業が多いボストンに対し、1970年代のシリコンバレーは起業家たちが地域のあちこちのバーに「アイデアを交換したりうわさ話を楽しんだりするたまり場」を作った。
それが製品開発や分業生産などの相乗効果を生み、インテルは最大手メーカーに成長。アップル、グーグルといったソフトウエア関連の勃興につながる。
今や情報交換はネットでできるが実際に住めば起業や転職の人脈づくりは広がる。ラピダスから10キロ超の距離に位置し、田園都市の環境を備える恵庭が交流の場となる可能性はある。
ただし新産業による人口増は逆に街づくりを難しくする面も否定できない。自動車関連が立地し市内東部が発展した苫小牧では中心部の空洞化が目立つ。
街の一体感を保つよりどころが必要だろう。道文教大センターが重視するのは文化政策だ。
かつては文化財保存のイメージが強かった文化政策だが、7年前の文化芸術基本法施行前後に大きく様変わりした。
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