「SHOGUN 将軍」も手掛けた日本の気鋭監督。アイヌの伝統漁法を復活させたシゲさんに魅せられて

水上賢治　映画ライター　2/8(土) 12:15

「アイヌプリ」より

　題名の「アイヌプリ」とは、「アイヌ式」という意味になる。

　その言葉通りに本作は、変わりゆく時代と社会の中で、「アイヌ式」の伝統や文化を受け継ぎ、実践して生きるアイヌのある家族に焦点を当てる。

　主人公として登場するのは、シゲさんこと天内重樹さん。北海道・白糠町で暮らす彼は、現代の生活を送りながら、自分のスタンスでアイヌプリを実践して、祖先から続く伝統の鮭漁の技法や文化を息子に伝えている。

　作品は、シゲさん一家の日常生活に密着。自身のルーツを大切にしながら今の時代を生きる現代のアイヌ民族のリアルな実像が浮かびあがる。

　手掛けたのは、「リベリアの白い血」「アイヌモシリ」「山女」と過去発表した長編映画がいずれも国際映画祭で高い評価を受け、大反響を呼んだ海外ドラマ「SHOGUN 将軍」（第7話）の監督を務めるなど目覚ましい活躍を見せる福永壮志監督。

　「アイヌモシリ」に続いて再びアイヌというテーマと向き合った彼に、シゲさんにも話に加わってもらう形で、撮影の日々を振り返ってもらった。全四回／第二回

シゲさんのような姿勢でアイヌ式を実践している方に会ったことがなかった

　前回（第一回はこちら）は、本作の主人公となるシゲさんとの出会いについて語ってくれた福永監督。

　では、初めて会ったときのシゲさんの印象は？すぐに撮りたいと思ったのだろうか？

福永「初めて会ったのは阿寒だったのですが、シゲさんの住んでいる白糠で最初にお会いしたときの印象の方が自分の中では強く残っています。
　マレプ漁は、アイヌが昔から使ってきた長い銛を投じてサケを獲る。

　シゲさんは、当時誰もやっていなかったこの伝統漁法を2011年に復活させて以来、誰に見せるわけでもなく粛々と続けている。しかもすごく楽しそうなんです。

　アイヌ文化を消さないためにとか、アイヌの伝統をつなげていくためにとかいう文化の継承者みたいな姿勢ではない。

　シゲさん本人が純粋にやりたいからやっている。好きだからやっているだけだが、それが結果としてアイヌ文化や伝統の継承につながっていく。

　そんな風に僕の目にシゲさんの姿は映りました。そして、そのことに感銘を受けました。

　これまでシゲさんのような姿勢でアイヌ式を実践している方に会ったことがなかったんです。

　それで、シゲさんの姿を映像に収めたいと思いました」

「アイヌモシリ」が完成した後にドキュメンタリーの撮影を相談
　すぐに撮影の打診をしたのだろうか？

福永「いや、シゲさんに撮影のお願いをしたのは少し時間が経ってからでした。
　白糠でマレプ漁を見させてもらった光景がとても印象的で、その翌年『アイヌモシリ』が完成した後にドキュメンタリーの撮影を相談しました。

　アイヌの人の中には、過去に心ない取材を受けたことがあったりするので、取材となると構える方もいれば難色を示す方もいる。

　ですから、どうかなと思いましたが……。

　あくまで僕の主観ですが、シゲさんは快く受けてくれました」

「全然いいよ！」って感じでした（笑）

　実際のところ、福永監督の申し出を、シゲさんはどう受け止めていたのだろうか？

天内「『全然いいよ！』って感じでした（笑）。

　実は、福永監督から話が来る前に、フランスのテレビでマレプ漁が取り上げられたのが話題になったのか、なんかいろいろなところから撮影をさせてほしい、取材をさせてほしいという話がいくつも来たんです。

　ただ、オファーの仕方が失礼というか。『明日行ったらマレプ漁やってますか？』とか『明日マレプ漁撮らせてください』とか、こっちの都合より自分たちの都合で聞いてくる。

　それで、『自分はマレプ漁を生業にしているわけではない。普通にほかの仕事をしていて、その中で仕事終わりとか仕事前とか、休みの日とかにマレプ漁をしている。川の状態によっては漁ができないこともある。そんな簡単なものではないですよ』といったようなことを言って断ったこともあったんです。

　ただ、福永監督は『アイヌモシリ』の撮影時に初めて会って、そのあと、白糠で会っての中で、一度も嫌な気持ちになることがなかった。

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