不適切な表現に該当する恐れがある内容を一部非表示にしています

先住民族関連ニュース

先住民族関連のニュース

(書評)『アイヌ通史 「蝦夷」から先住民族へ』 リチャード・シドル〈著〉

2021-10-10 | アイヌ民族関連
朝日新聞 2021年10月9日 5時00分

■「対抗の物語」を自身で紡ぐ道程
「アイヌとして生きるか」、日本人に「同化するか」。90年ほど前、アイヌの青年が出した結論は、どんな「人種」も「平等」であり、「寧(むし)ろアイヌたるを誇り得る様になるべきである」という決意だった。著者が証そうとした、近代を生きるアイヌの葛藤が、そこに凝縮している。
 長い間、彼らは「滅びゆく民族」と呼ばれた。本書は、支配する側が作ったアイヌ像をアイヌ自身が反転させ、「先住民族」へと再定義する道程を描く。主要な時期は、明治から1997年のアイヌ文化振興法成立の前後まで。それを、グローバルな歴史の一環として論じる点が最大の特徴だ。
 西洋由来の人種概念で、差別を正当化する論理は根本的に変わる。古代以来の「夷人(いじん)」観から、他の帝国による植民地主義と「本質的な類似性」を持つようになる。「開拓」がアイヌを貧困に追いやっても、法制度から観光案内まで、日本社会は、それこそが自立できない彼らの「劣等性」の証拠だと決めつけた。
 これに対して、アイヌ自身が「対抗の物語」を紡ぎだす過程が、本書の中心をなす。先の青年の発言のように、戦前から被差別等の解放運動に衝撃を受けて、民族性の自覚が進む。戦後、福祉で矛盾を糊塗(こと)した国家に、新たな立法を求めた背景にも、世界の先住民族との交流があった。
 原著は四半世紀前の出版だが、著者の懸念は現在も有効だ。今、アイヌを先住民族と明記した法律は確かにある。だが過去の被害の賠償や自己決定権を認めぬままで広がる「文化振興」は、現実とかけ離れた「伝統文化」の維持を、アイヌに押しつけてはいないか。著者の問いは、「アイヌという全体は和人のイメージで作られていくばかりだ」という、半世紀以上前の警告とともに、いよいよ切実に響く。著者の教え子でアイヌ近現代思想史の専門家による訳業は、解題や訳注により、その先駆的意義をいっそう引きだしている。
 評・戸邉秀明(東京経済大学教授・日本近現代史)
     *
 『アイヌ通史 「蝦夷」から先住民族へ』 リチャード・シドル〈著〉 マーク・ウィンチェスター訳 岩波書店 5830円
     *
 Richard Siddle 59年、スリランカ生まれ。11~19年、北海道大特任教授(アイヌ近現代史、多文化主義)。
https://digital.asahi.com/articles/DA3S15070694.html?pn=2&unlock=1#continuehere
この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 人生のとき 詩に込めたアイ... | トップ | アイヌ民族からみた北海道命... »
最新の画像もっと見る

アイヌ民族関連」カテゴリの最新記事