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【解説】アイヌ先住権訴訟 歴史的背景や裁判の論点など

2024-04-18 | アイヌ民族関連

NHK04月17日 18時20分

3年半あまりにおよんだアイヌの先住権をめぐる裁判。歴史的背景や先住権に関する動きをまとめました。
【アイヌとサケ漁】
毎年秋に大量に川に遡上してくるサケはアイヌにとって1年分の食料になるほか、衣服や靴の材料にもなり、暮らしを支える大切な魚として「カムイチェプ=神の魚」と呼ばれました。
しかし、和人の入植が進み、漁業者が増える中でサケが激減、明治政府は資源保護などを理由に川でのサケ漁を段階的に禁止し、十勝川の下流では、明治16年に漁ができなくなりました。
生活の糧を奪われた多くの人々が飢餓に見舞われたほか、農場などに雇われて働くようになり、アイヌの社会を大きく変えるきっかけにもなりました。
国は2019年に「アイヌ施策推進法」を施行してアイヌ民族を初めて「先住民族」と認め、独自の文化を生かした地域振興などが進められることになりましたが、土地や資源に対する権利は、法律に盛り込まれませんでした。
【海外で進む先住民族の権利を認める動き】
世界各国では、先住民族が同化政策などで政府から抑圧を受けてきた歴史をへて、権利を認める動きや、不平等を是正する政策が進められてきた事例があります。
アメリカでは、西部ワシントン州で1974年インディアンと呼ばれる先住民族がサケの捕獲権の回復を求めて州政府を相手取った裁判で勝訴しました。
先住民族以外の人たちと平等の漁業権が認められたほか、先住民族がみずから資源管理を行う漁業委員会が設立されました。
カナダや北欧ノルウェーなどでは憲法に先住民族の規定が明記され、土地や資源を使用する権利や自治権などが認められています。
またニュージーランドでは、英語のほかに先住民族マオリの言葉、マオリ語を公用語に定めていて、漁業をめぐってもマオリの権利を保障する専門機関が設けられています。
一方、最近の動きでは、オーストラリアで去年10月、先住民族のアボリジニなどの声を国の政策に反映しやすくするための専門機関の創設を含む、憲法改正の是非を問う国民投票が行われました。
投票の結果、反対多数で否決され、先住民族をめぐる課題解決の難しさが浮き彫りになりました。
【原告の思い『アイヌとして胸を張って生きたい』】
原告の「ラポロアイヌネイション」は、十勝川下流域のアイヌの団体で、多くの人が太平洋でのサケの定置網漁などに携わっています。
ことし2月には名誉会長を務めていた差間正樹さんが判決を待たずに病気のため73歳で亡くなりました。
裁判を引き継ぐことになったおいの差間啓全さん(57)は「もともとあった権利が国に理不尽に剥奪され、今は漁をしてはいけないことになっています。原点に戻って権利を認めてもらい、サケに付加価値をつけてラポロアイヌネイションのブランドとして販売していきたいというのが私たちの思いです」と話していました。
その上で「国が北海道にアイヌがいたということは認めても、アイヌの権利は認めないのはおかしいことで、国はちゃんとした策を講じていくべきです。アイヌとして胸を張って生きていけるような人生になればと思っています」と訴えました。
また、団体の前の会長の長根弘喜さん(39)は「アイヌとして魚をとりたいという思いももちろんありますが、生活を安定させる意味でも権利を認めてもらうことを求めるのは当たり前のことです。アイヌが主体となって川の資源を管理し、和人の人たちと共存するルールを自分たちで決められるようになればと思っています。今回の裁判をきっかけに各地のアイヌの人たちも自分たちの権利を求めて立ち上がってほしいです」と話していました。
【詳しく裁判での双方の主張と論点】
3年半あまりにわたった裁判で原告側はアイヌの歴史的な背景に触れ、サケを取る権利を認めるよう訴えてきました。
現在、川でのサケの捕獲は、原則、禁止されていて、アイヌの儀式など文化の継承や保存の目的や漁業者の採卵の目的に限って道の許可を得て行われています。
しかし十勝川付近では古くからアイヌがサケ漁を行っていたことが文献などに記されていて、先住民族としてサケを取る権利があるのに明治以降、政府がそれを無視して漁を禁じたとしています。
その上で、漁を禁止する法的な根拠はなく、経済活動としてのサケ漁を認めるべきだと主張しています。
これに対し被告の国と道は、川で産卵するサケの特性から規制は必要で、漁は認められないとしたうえで、儀式での漁は認めており、アイヌの文化を享有する権利にも配慮しているとしています。
一方で原告側が主張する歴史的背景については「認否の限りでない」とし、一貫して認識を明らかにせず、訴えを退けるよう求めています。
また、原告側は、先住民族の権利回復は国際的な流れだとして、平成19年に国連総会で採択された「先住民族の権利に関する宣言」でも「先住民族は伝統的に所有するなどした自然資源に対する権利を有する」と規定されていると指摘しています。
これに対して被告側は、宣言に法的な拘束力はなく、各国の状況に照らしても国際社会で原告が主張するような権利が確立されているとは認められないとしています。
【先住民族の権利に詳しい専門家は】
今回の裁判について鹿児島純心大学の廣瀬健一郎教授は「国はアイヌを先住民族と認めたが、権利については承認することを避けてきた。先住民族として認めるというのは、一体何をもって認めたと言えるのか。先住民族であるが故に受けた不公正や差別を正していくためには権利の保障が必要だ。アイヌには固有の権利があるということを日本社会が認めるのか、無視していくのか、そこが問われる裁判だと思う」と話しています。
海外では裁判を通じて先住権の確立が進んでいった歴史もあり、こうした議論が遅れているとも言われている日本で裁判所がどのような判断を下すのか注目されます。
【取材班】釧路局・佐藤恭孝 帯広局・青木緑 札幌局・森永竜介

https://www3.nhk.or.jp/lnews/sapporo/20240417/7000066355.html

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