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学びの集大成としての修学旅行~探究心を育む、令和の修学旅行の「作り方」~

2024-06-19 | アイヌ民族関連

日本教育新聞2024年6月17日 10面記事

東京都練馬区立開進第二中学校
「前向き」「活動的」「双方向」を取り入れ、実感を伴った経験に

 生徒の学びの深化や人としての成長につなげるため、座学では得られない体験ができる修学旅行を「学びの集大成」として活用する取り組みが注目されている。そこで、まさにそうした意図のもと、今年度から「国際化に柔軟に対応し、多様性を受容して共生すること」をテーマに掲げ、北海道への修学旅行(3年生)を実施した練馬区立開進第二中学校の牧野英一校長に、令和の修学旅行を計画する上で重視したポイントや事前・事後学習について聞いた。

1年時から継続する人権教育の集大成に

 同校の修学旅行はおおむね10年間隔で行先を変更してきており、震災学習をテーマにした東北地方への修学旅行が節目を迎えた3年前から、1学年の教員を中心として、次代を担う生徒にとってのより良い修学旅行にするための話し合いを行ってきた。
 牧野校長自身も10年後を見据え、全国各地の修学旅行先を視察。その中で、関東圏は他の地域と比べて航空機の利用率が低いが、横浜市では約25%の中学校が利用していることに気付いたという。
 こうした検討を重ねた結果、今年度から北海道「ウポポイ(民族共生象徴空間)」を中核とした修学旅行へと舵を切ることになった。現3年生は、国際理解教育の一環として1年時に実施した「イングリッシュキャンプ」以来、阿波踊りやアフリカの民族音楽等の異文化理解学習を継続しており、その学習の集大成としてアイヌの文化を学ぶことができるからだ。

“また行きたい”と思わせる仕掛けが重要

 その上で目指したのが、生徒が「また行ってみたい」と思えるような実体験ができる、令和型の修学旅行。牧野校長は、「それには人間、自然、文化、歴史の四つの原理を旅行の行程に上手く当てはめることが必要です」と指摘。そのために重視したのが、POSITIVE(前向き)、ACTIVE(活動的)、TWO―WAY(双方向)を取り入れた実体験を伴うプログラムを作成することだった。
 「従来型の観光地巡りや一方的に情報を受け取る体験では、“また行きたい”とは思わない。もっと生徒たちが現地の自然や文化とダイナミックに触れ合える機会、すなわち、実感を伴った経験を与えてあげることが大事になると考えました」と牧野校長は振り返る。

なぜ航空機を利用するのか~意図を明確に~

 もう一つ、今回の修学旅行では従来の新幹線から航空機へと交通手段が変わることが大きな変化になる。「航空機への変更に際しては、なぜ航空機を利用するのかを保護者にもきちんと納得してもらう必要がありました」と話し、説明資料を見せてくれた。
 まず、候補地の選定では、北海道は約1・5時間と沖縄や九州よりもフライト時間が短い。次に、費用も5月の連休明けなら修学旅行割引により、京都・奈良と同程度の料金で済む。また、安全性はもちろん、航空機を利用するための搭乗手続きや機内マナー、離着陸時の緊張感などが、国際化が進む中での将来への確かな経験となる。
 一方で、北海道は現地に着いてからの移動に時間がかかるのがネックとなる。そこで、「地図を用意し、新千歳空港を起点に訪問先と宿泊先をトライアングルで結び、それぞれをバス便で、約1時間程度で巡れるように工夫しました」と牧野校長。
 このような周到な計画・準備のもと、実施へと漕ぎ付けた北海道修学旅行の目的は、次のようなものになる。

 (1)「ウポポイ(民族共生象徴空間)」で、アイヌの文化を実体験することを通して、多様性を受容し共生することの意味を実感する。
 (2)宿泊行事等の経験を活かし、北海道の大自然を実体験するとともに、札幌の班行動を自ら企画して実行する。
 (3)国際化の一層の進展に柔軟に対応するきっかけとして、航空機の安全性やおもてなし、空港の利用方法について理解を深める。

事前学習で興味関心を高める

 修学旅行は、社会や生活と自己の関わりから、自分で課題を見出して解決策を考える機会になる。同校では、そんな修学旅行の経験を一人一人の成長につなげるため、「総合的な学習の時間」や「意見発表会」などを利用した事前・事後学習にも力を入れている。
 事前学習では、アイヌの人々に対する理解を深める人権学習、支笏湖の自然、札幌の班行動に関する調べ学習、航空機の安全性やおもてなし、空港の利用方法などについて学んだ。
 「その中では、公益財団法人アイヌ民族文化財団のアドバイス派遣事業を活用して、都内近郊に住むアイヌにルーツを持つ方々から話を聞く機会を設けていただくなど、貴重な体験もありました。また、空港ではパイロットやCAだけでなく、さまざまな人たちが働いていることを知ることで、現地ではそうした人たちの姿に自然と目が留まるなど、興味関心を高められたと思っています」と振り返る。

実体験で感じたことを伝える3つのステップ

 事後学習では、ウポポイでアイヌの歴史や文化に触れ、水中遊覧船で支笏湖ブルーを見て、班行動で札幌の街や名所を巡った実体験を、自分の言葉で下級生に伝えることがテーマになっている。そして、そのために重要になるのが、自分の考えをいかに分かりやすく相手に伝えるかだ。
 現在は、インターネットで簡単に北海道の情報や映像を見ることができる。しかし、そうした時代だからこそ、自分が実体験して感じたことを、実感を込めて相手に伝えることが、これからの時代を生きる生徒たちにはより一層求められている。
 こうした意図から、牧野校長は「自分の考えを相手に伝える」ためのステップアップに向けて、三つの課題を用意した。最初は、さまざまな実体験の中から一番感動したことや印象に残ったことなどを相手に伝え、なぜ、そう思ったのかを説明すること。二つ目は、実証。班行動などで、なぜ、そこに行きたいと考えたのか、事前の調査ではどのように予想していたのか。そして、実際に行ってみてどう感じたのかを、予想と実体験を比較して実証し、自分の考えを伝える。
 三つ目は、テーマ。「例えばアイヌの方々の文化、支笏湖、航空機などのテーマを決め、事前の調査による予想(仮説)と実体験して分かった事実に基づいて、自分の当初の考えから何か変化があったかを、聞く側の立場に立って説明できるようにすることを目指します」と示してくれた。

日程全体で大きなストーリーのある学びに

 このように令和の修学旅行の「作り方」は、探究するテーマを明確にした上で、生徒たちに実感を伴った経験をさせるためのプログラムを作成し、旅の日程全体を通して大きなストーリーのある学びにすることがカギになる。それにはやはり、引率する教員や旅行会社・協力機関等と何度も話し合いを重ねるなど、時間をかけて用意周到に準備することが大事になるようだ。
 今回が初めてとなった北海道への修学旅行は、こうした甲斐もあって、満足できるものになったと牧野校長。「今年度の成果や課題を踏まえ、次年度にさらにより良い修学旅行となるように活かしていきたい」と力強く語った。

ウポポイ(民族共生象徴空間)見学の様子

北海道修学旅行の行程 2泊3日

1日目 学校(バス)→羽田空港(航空機)→新千歳空港→北海道白老町「ウポポイ」(バス)→支笏湖(丸駒温泉泊・秘湯温泉体験・夕食北海道ご膳)
2日目 支笏湖周辺(遊覧船)→札幌(バス)→札幌(班活動・夕食ジンギスカン)→札幌(ホテル泊)
3日目 札幌(朝食海鮮バイキング)→北海道開拓の村(見学)→新千歳空港(航空機)→羽田空港→学校(バス)

https://www.kyoiku-press.com/post-280306/

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