IBTimes-2012年12月10日
記事:RYAN VILLARREAL、翻訳:橋本あかね |
族長の義理の娘は、父が農場の下男たち4人にライフルの銃身で殴りつけられ、ついに息絶えて土の上に横たわるのを見た。
「私はマルコスが殺されるのを見ました。彼らの殺人を許すことは出来ません」と、ブラジルの先住民、グアラニー族の1人ゲイザリア・ヴェロンは話す。
マルコス・ヴェロンの死から8年経って 、容疑者のうち3人は殺人については無罪、代わりに誘拐、拷問、犯罪の企図の罪で起訴され、それぞれに比較的寛大な12年の禁固刑が言い渡された。4人目の男はついに見つからなかった。
彼らの雇用主である裕福な農園主ジャシント・オノリオ・ダ・シルヴァ・フィリオは、何の罪にも問われなかった。彼の牧場はブラジル西部マトグロッソ州のグアラニー族の父祖の地にある。
殺されたマルコス・ヴェロン(72歳)は、その土地を再度占有した100人の村人たちの長だった。村人たちは道具を手にやってきて、家畜が放牧されている牧草地に家を再建し始めた。農園主のシルヴァ側は、銃を取って対抗した。年老いた族長は、この土地は自分の命・魂であり、離れることは出来ないと言っていた。彼の亡骸は、守ろうと命をかけた土地に埋葬された。最後の抵抗だった。
牧場主やサトウキビ農民が毎年、奥へ奥へと侵入するなかで、マイケル・ヴェロンのような例はグアラニーの土地のあちこちで起こっている。伐木業者や探鉱夫、ガス掘削人夫たちも来る。今や世界第6位の経済大国となったブラジルの現実だ。
いつもいつも殺人や暴力が行われるわけではないが、命を支える川を殺虫剤や炭鉱の流出物で汚染されたり、土地を奪われることで貧困に苦しむ人々もいる。
先月、マトグロッソのグアラニー族は、上流の農場との土地争いの最中、主要な水源である川が大きな白い泡だらけにされたと不服を申し立てた。彼らはこの川を「飲み水、水浴、調理、洗濯に利用していた。今では使えない。非常に恐ろしい」と少数民族の支援を行っているサバイバル・インターナショナル(Survival International)に語った。
グアラニー族の問題は資源のために土地を利用する個々人のみならず、それを支援する企業にもある。時には外国企業が経済的な後押しをしている場合もある。エタノール生産の原料となるサトウキビ栽培の広がりが、森林伐採とグアラニー族追い立ての原動力となっているのだ。
ワシントン大学セントルイス校で社会文化人類学を研究するブレット・グスタフソン(Bret Gustafson)教授は、先住民族排除の問題は特に、ボリビア国境に近いマトグロッソで広く見られると言う。「サトウキビと大豆栽培のブームによって、土地所有者は地域の政治力を自分たちの利益に適うように動かしてきました。『地方ロビー(rural lobby)』とも呼ばれる動きです」と教授は言う。先住民の土地を保護しようとする連邦政府の取り組みにもかかわらず、地元の政治家が抵抗を見せ、係争地の土地所有者に占有継続の許可を与えるのだ。
また、多国籍企業が土地所有者にビジネスを提供する例もある。米国のバンジ社(Bunge)は、砂糖とエタノール生産のため、ブラジル政府がグアラニーの土地として区画手続き中の土地にある農場から、サトウキビを買い付けている。
「ここが先住民の土地であることは明白です。単に手続きだけの問題です」とサバイバル・インターナショナルのブラジル研究家フィオーナ・ワトソン(Fiona Watson)氏は言う。サバイバル・インターナショナルは、すでに先住民の土地として定められた土地にある農場とのサトウキビ契約を解消するよう、バンジ社に働きかけている。
バンジ社広報のスーザン・バーンズ(Susan Burns)氏は、土地が正式に区画されれば撤退するが、このプロセスは土地所有者のアピールのため、長引く可能性があると言う。「弊社は、ブラジル・マトグロッソ・ドソルにある工場で使用するサトウキビの一部を先住民族が所有を主張している土地の農場から買い付けていますが、これは当局が区画を認めたものではありません。このサトウキビ購入の複数次契約はバンジが工場を取得する以前に行われたものであり、バンジは合法的にそれを受け取ることを求められています。この契約は2013年からの数年以内に期限を迎えます。法律的には完全に合法ですが、弊社は契約を更新しないことを決定しました」とバーンズ氏は電子メールで回答を寄せた。
バンジ社は、法的には土地が公的に先住民族のものと認定されるまではサトウキビを買う権利を持っているが、倫理的には今撤退することだと、サバイバル・インターナショナルのワトソン氏は言う。契約終了は、バンジのような大企業から仕事を請け負ってはいない、先住民の土地を利用している他の農場主にも「メッセージを送る」ことになろう。
バンジ社はブラジルでサトウキビ工場を運営しており、基本的にブラジル市場向けの砂糖とエタノールを生産している。バンジ社のウェブサイトには、「ブラジル国内の弊社3工場は、社会・環境・経済的に安定したサトウキビ生産を目指す業界団体ボンスクロ(Bonsucro)の認定を受けています。すべてのサトウキビ工場が認可を受けられるよう働きかけています」とある。
しかし、バンジの買い付け先農場にはそのような基準はないようだ。 多くのグアラニー族の人々が、そうした農場の低賃金労働に携わる結果となっている。「彼らはグアラニー族を安い労働力に変えてしまいました。これは非常な重労働です。マチェーテ(南米先住民族の長刀)で一日12時間サトウキビの刈り取りをするのです。こんな仕事は長続きするものではありません」と社会文化人類学者のグスタフソン教授は言う。教授はまた、この産業が部族の生活様式にも大きな影響を与えていると指摘した。多くの人が土地を追われ、政府の補助金に頼って道端の込み合ったキャンプで生活することを余儀なくされている。こうした状況下で、グアラニー族の社会の一体感に亀裂が入り、自殺やアルコール依存、自暴自棄な行為が目立っているという。
グスタフソン教授は、法的な解決策はあると言う。ブラジル政府が土地所有者に補償を出し、土地をグアラニー族に返すのだ。しかし連邦政府は先住民族の権利保護よりも、経済発展により力を注いできた。
サバイバル・インターナショナルは、大企業であるバンジ社への働きかけに力を注いできたが、グアラニー族の保護に十分な措置を取らなかったとしてブラジル政府をも批判している。特にワトソン氏は、政府が「土地所有者にもっと積極的に働きかけるべきだ」と言う。条例を順守し、先住民族の権利を尊重すべきだというのだ。「グアラニー族に対する人権侵害と人種差別をなくすことが、ブラジル政府の倫理的・法的な責任です。迅速で効果的な措置が取られなければ、さらに多くのグアラニー族が苦しみ、死に至ることになるでしょう」とサバイバル・インターナショナルの代表ステファン・コリー(Stephen Cory)氏は声明で述べた。
この記事は米国版International Business Timesの記事を日本向けに抄訳したものです。
http://jp.ibtimes.com/articles/38153/20121210/404598.htm
記事:RYAN VILLARREAL、翻訳:橋本あかね |
族長の義理の娘は、父が農場の下男たち4人にライフルの銃身で殴りつけられ、ついに息絶えて土の上に横たわるのを見た。
「私はマルコスが殺されるのを見ました。彼らの殺人を許すことは出来ません」と、ブラジルの先住民、グアラニー族の1人ゲイザリア・ヴェロンは話す。
マルコス・ヴェロンの死から8年経って 、容疑者のうち3人は殺人については無罪、代わりに誘拐、拷問、犯罪の企図の罪で起訴され、それぞれに比較的寛大な12年の禁固刑が言い渡された。4人目の男はついに見つからなかった。
彼らの雇用主である裕福な農園主ジャシント・オノリオ・ダ・シルヴァ・フィリオは、何の罪にも問われなかった。彼の牧場はブラジル西部マトグロッソ州のグアラニー族の父祖の地にある。
殺されたマルコス・ヴェロン(72歳)は、その土地を再度占有した100人の村人たちの長だった。村人たちは道具を手にやってきて、家畜が放牧されている牧草地に家を再建し始めた。農園主のシルヴァ側は、銃を取って対抗した。年老いた族長は、この土地は自分の命・魂であり、離れることは出来ないと言っていた。彼の亡骸は、守ろうと命をかけた土地に埋葬された。最後の抵抗だった。
牧場主やサトウキビ農民が毎年、奥へ奥へと侵入するなかで、マイケル・ヴェロンのような例はグアラニーの土地のあちこちで起こっている。伐木業者や探鉱夫、ガス掘削人夫たちも来る。今や世界第6位の経済大国となったブラジルの現実だ。
いつもいつも殺人や暴力が行われるわけではないが、命を支える川を殺虫剤や炭鉱の流出物で汚染されたり、土地を奪われることで貧困に苦しむ人々もいる。
先月、マトグロッソのグアラニー族は、上流の農場との土地争いの最中、主要な水源である川が大きな白い泡だらけにされたと不服を申し立てた。彼らはこの川を「飲み水、水浴、調理、洗濯に利用していた。今では使えない。非常に恐ろしい」と少数民族の支援を行っているサバイバル・インターナショナル(Survival International)に語った。
グアラニー族の問題は資源のために土地を利用する個々人のみならず、それを支援する企業にもある。時には外国企業が経済的な後押しをしている場合もある。エタノール生産の原料となるサトウキビ栽培の広がりが、森林伐採とグアラニー族追い立ての原動力となっているのだ。
ワシントン大学セントルイス校で社会文化人類学を研究するブレット・グスタフソン(Bret Gustafson)教授は、先住民族排除の問題は特に、ボリビア国境に近いマトグロッソで広く見られると言う。「サトウキビと大豆栽培のブームによって、土地所有者は地域の政治力を自分たちの利益に適うように動かしてきました。『地方ロビー(rural lobby)』とも呼ばれる動きです」と教授は言う。先住民の土地を保護しようとする連邦政府の取り組みにもかかわらず、地元の政治家が抵抗を見せ、係争地の土地所有者に占有継続の許可を与えるのだ。
また、多国籍企業が土地所有者にビジネスを提供する例もある。米国のバンジ社(Bunge)は、砂糖とエタノール生産のため、ブラジル政府がグアラニーの土地として区画手続き中の土地にある農場から、サトウキビを買い付けている。
「ここが先住民の土地であることは明白です。単に手続きだけの問題です」とサバイバル・インターナショナルのブラジル研究家フィオーナ・ワトソン(Fiona Watson)氏は言う。サバイバル・インターナショナルは、すでに先住民の土地として定められた土地にある農場とのサトウキビ契約を解消するよう、バンジ社に働きかけている。
バンジ社広報のスーザン・バーンズ(Susan Burns)氏は、土地が正式に区画されれば撤退するが、このプロセスは土地所有者のアピールのため、長引く可能性があると言う。「弊社は、ブラジル・マトグロッソ・ドソルにある工場で使用するサトウキビの一部を先住民族が所有を主張している土地の農場から買い付けていますが、これは当局が区画を認めたものではありません。このサトウキビ購入の複数次契約はバンジが工場を取得する以前に行われたものであり、バンジは合法的にそれを受け取ることを求められています。この契約は2013年からの数年以内に期限を迎えます。法律的には完全に合法ですが、弊社は契約を更新しないことを決定しました」とバーンズ氏は電子メールで回答を寄せた。
バンジ社は、法的には土地が公的に先住民族のものと認定されるまではサトウキビを買う権利を持っているが、倫理的には今撤退することだと、サバイバル・インターナショナルのワトソン氏は言う。契約終了は、バンジのような大企業から仕事を請け負ってはいない、先住民の土地を利用している他の農場主にも「メッセージを送る」ことになろう。
バンジ社はブラジルでサトウキビ工場を運営しており、基本的にブラジル市場向けの砂糖とエタノールを生産している。バンジ社のウェブサイトには、「ブラジル国内の弊社3工場は、社会・環境・経済的に安定したサトウキビ生産を目指す業界団体ボンスクロ(Bonsucro)の認定を受けています。すべてのサトウキビ工場が認可を受けられるよう働きかけています」とある。
しかし、バンジの買い付け先農場にはそのような基準はないようだ。 多くのグアラニー族の人々が、そうした農場の低賃金労働に携わる結果となっている。「彼らはグアラニー族を安い労働力に変えてしまいました。これは非常な重労働です。マチェーテ(南米先住民族の長刀)で一日12時間サトウキビの刈り取りをするのです。こんな仕事は長続きするものではありません」と社会文化人類学者のグスタフソン教授は言う。教授はまた、この産業が部族の生活様式にも大きな影響を与えていると指摘した。多くの人が土地を追われ、政府の補助金に頼って道端の込み合ったキャンプで生活することを余儀なくされている。こうした状況下で、グアラニー族の社会の一体感に亀裂が入り、自殺やアルコール依存、自暴自棄な行為が目立っているという。
グスタフソン教授は、法的な解決策はあると言う。ブラジル政府が土地所有者に補償を出し、土地をグアラニー族に返すのだ。しかし連邦政府は先住民族の権利保護よりも、経済発展により力を注いできた。
サバイバル・インターナショナルは、大企業であるバンジ社への働きかけに力を注いできたが、グアラニー族の保護に十分な措置を取らなかったとしてブラジル政府をも批判している。特にワトソン氏は、政府が「土地所有者にもっと積極的に働きかけるべきだ」と言う。条例を順守し、先住民族の権利を尊重すべきだというのだ。「グアラニー族に対する人権侵害と人種差別をなくすことが、ブラジル政府の倫理的・法的な責任です。迅速で効果的な措置が取られなければ、さらに多くのグアラニー族が苦しみ、死に至ることになるでしょう」とサバイバル・インターナショナルの代表ステファン・コリー(Stephen Cory)氏は声明で述べた。
この記事は米国版International Business Timesの記事を日本向けに抄訳したものです。
http://jp.ibtimes.com/articles/38153/20121210/404598.htm