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先住民族関連ニュース

先住民族関連のニュース

土門拳賞受賞の大竹英洋さん写真展 故・星野道夫さんの足跡追う

2023-10-21 | 先住民族関連

毎日新聞 2023/10/20 17:23(最終更新 10/20 17:27) 473文字

 第40回土門拳賞(2021年)を受賞した大竹英洋さん(48)の写真展「ALASKA-星野道夫の足跡を辿(たど)って-」(キヤノンマーケティングジャパン主催)が20日、キヤノンオープンギャラリー1(東京都港区)で始まった。アラスカの大自然や人々、ザトウクジラやカリブーなどの未発表作品を含む29点が展示されている。

 大竹さんは写真家の故・星野道夫さんが撮影したアラスカの写真に出合ったことから写真家を志し、20年にわたり北米大陸中北部で先住民や野生動物を撮影してきた。今回は、初めてアラスカに渡り、星野さんの足跡を追いながらゆかりある人々や場所を訪ねた作品を集めた。星野さんが30年前に撮影したザトウクジラとの奇跡的な出会いもあったという。大竹さんは「アラスカの地のいたるところに星野さんの存在を感じた。見る人に、星野さんの魂が『終わりのない旅』を続けていると感じてもらえたら」と話している。

 11月21日まで。入場無料。開館時間午前10時~午後5時半。日曜、祝日休館。問い合わせは、キヤノンギャラリーS(03・6719・9021)。【宮武祐希】

https://mainichi.jp/articles/20231020/k00/00m/040/165000c


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レオナルド・ディカプリオ×マーティン・スコセッシで映画化。油田の権利を巡って起きた先住民殺人事件の謎に挑む

2023-10-21 | 先住民族関連

ダ・ヴィンチ2023/10/20

『タクシードライバー』や『ウルフ・オブ・ウォールストリート』など、代表作を並べ始めたらきりがない巨匠マーティン・スコセッシ監督ですが、新作の『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』が10月20日から公開されます。この記事では原作のノンフィクション歴史小説『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン オセージ族連続怪死事件とFBIの誕生』(デイヴィッド・グラン:著、倉田真木:訳/早川書房)をご紹介します。

 19世紀終わり、アメリカ南部オクラホマ州に住む先住民・オセージ族が住む土地は、豊富な原油を埋蔵していることがわかった。油田を開発する権利を石油会社に売ることで、オセージ族は巨万の富を手にする。そこに抜かり無く目をつけた白人たちは、オセージ族に関わり始め、やがてその金欲は殺意へと変わっていく。

 そして1920年代、「恐怖時代」と呼ばれる時が訪れる。オセージ族20人以上が次々と殺されていくが、犯人は捕まらない。被害者遺族たちは私立探偵を雇うも、良い働きをする者はおらず真相は解明されない。政府当局も、先住民の人権を無視する白人で占められている。事件が全米で注目を集め始めたとき、現在のFBI(連邦捜査局)の前身となる組織「Bureau of Investigation」が動き出す……

 映画では、白人のアーネスト・バークハート(レオナルド・ディカプリオ)とオセージ族のモリー・カイル(リリー・グラッドストーン)とのロマンスが前面に出ていますが、小説はどちらかというと題名にもある通り、FBIという組織が、いつ、なぜ、どうやって現在のような知名度・ポジションを得るようになったのかのルーツを辿っています。当時は、組織名に連邦(Federal)が付いておらず、科学的な捜査手法も確立されていない状態で、警察制度もまだ十分に整備されていませんでした。

法執行官はこの時代、まだ素人同然だった。訓練学校に通った者も、指紋や血痕パターンの分析など新進の科学的捜査手法に通じている者も、ほとんどいなかった。とくに辺境の法執行官はそもそも、銃撃戦や追跡のほうが得意だった。期待される役割は、犯罪を未然に防ぎ、札付きのガンマンをなるべく生きたまま、必要なら殺しても捕らえることだった。

 この注目事件を解決して、権威を高めようと局長官のエドガー・フーバーは目論みました。そして、彼が送り込んだ捜査官たちは良い働きをして、FBIが誕生する流れが醸成されたのですが、事件自体には現代に至るまで多くの謎が残されているといいます。

この謎を解こうとする取り組みは、ことごとく頓挫した。匿名の脅迫のせいで、治安判事は直近の殺人事件に関する審問の中止を余儀なくされた。治安判事は恐怖におののき、事件が話題になるだけで執務室に引っ込み、扉にかんぬきを掛けるほどだった。新任の郡保安官は、犯罪を捜査するふりさえ止めた。

 著者は2017年に出版された本書の執筆に際して古い捜査記録を丁寧に読み込み、新たな真相をも浮き彫りにしていきます。そのため、本書は20世紀初頭から2010年代までという時間幅の描写が含まれています。著者は当時生きていなかったのに、なぜ現場を目の当たりにしているかのように描写ができるのか不思議ですが、題名の付け方で少し納得がいきました。

「キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン」の改題前のタイトルは「花殺しの月」と言いますが、これはオセージ族の言葉で5月を指します。4月に咲く小さな花が、5月になると背の高い花に枯らされてしまうことからそう呼ばれているといいます。おそらく、その光景というのは、まだ見ることができるのではないでしょうか。きっと著者はそうした小さな手がかりからでも、無限大の想像力を発揮させられる方なのでしょう。本書を手にとって、その世界にぜひ浸ってみてください。

文=神保慶政

https://ddnavi.com/review/1197204/a/


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フランス発・グローバルニュース : パレスチナ紛争で加速する米外交政策の蟻地獄

2023-10-21 | 先住民族関連

レイバーネット2023.10.20

2023年9月からの新連載「フランス発・グローバルニュース」では、パリの月刊国際評論紙「ル・モンド・ディプロマティーク」の記事をもとに、ジャーナリストの土田修さんが執筆します。毎月20日掲載予定です。同誌はヨーロッパ・アフリカ問題など日本で触れることが少ない重要な情報を発信しています。お楽しみに。今回はパレスチナをめぐる問題です。(レイバーネット編集部)

●フランス発・グローバルニュースNO.2(2023.10.20)

パレスチナ紛争で加速する米外交政策の蟻地獄

 パレスチナ自治区ガザ地区を実効支配するイスラム抵抗組織ハマースが10月7日、イスラエルに対して数千発のロケット弾を発射するとともに、戦闘員がガザ地区を取り囲む壁を乗り越えて越境攻撃し、イスラエル兵や市民1400人以上を殺害、約200人を人質にした。これに対し、イスラエル側はハマースに対し宣戦布告し、一晩で1000回を超える空爆を実施してパレスチナ人数百人を殺害した。その後も攻撃の応酬は続いておりガザ地区の死者は19日現在3478人に達している。イスラエルのガラント国防相はガザ地区を完全に包囲し、電気や食料、燃料の供給を遮断し、「われわれは人間の顔をした野獣と戦っている」と宣言。ネタニヤフ首相は野党を合流させた「戦時内閣」を結成し、過去最大の30数万人の予備役兵を動員、ガザ周辺に戦車や軍用車両、兵員を集結させ、地上侵攻の準備を完了している。

 こうした状況に対し、欧米諸国はイスラエル支援で一致しているが、それ以外の国からはイスラエルの対応を非難する声が上がっている。「ホロコーストを再現するつもりか。ガザが強制収容所と化すのを容認する民主主義者は、世界に一人もいない」(コロンビアのペトロ大統領)、「イスラエルによるパレスチナ人の権利や富の剥奪と残虐行為を非難することなしには和平は達成できない」(パキスタンのアルヴィ大統領)、「パレスチナ人に対する絶え間ない嫌がらせ、彼らの生命と財産と安全の無視、彼らの家と土地の押収を含むイスラエルの政策は、紛争と不安を引き起こすだけであり、最終的にはパレスチナ人とイスラエル人双方の安全を脅かすものだ」(トルコのエルドアン大統領)などだ(10月11日長周新聞)。

■足元から揺らぐアメリカの外交政策

 10月17日夜、ガザ北部の「アル・アハリ・アラブ病院」で大きな「爆発」があり、471人が死亡した。ハマースはイスラエル軍の空爆によるものと発表。イスラエル軍はガザの武装組織イスラム聖戦のロケット弾の誤射だと主張し、関与を否定している。中東専門家の宮田律・現代イスラム研究センター理事長は「あれほどの破壊力を持った爆弾やロケット弾をハマースやイスラム聖戦は有していない。恐らくイスラエルの空爆だろう」と指摘する(10月18日スプートニク日本)。紛争地域の武装解除に詳しい伊勢崎賢治氏(東京外語大大学院教授)は「(病院「爆発」は)ガザというあんなに狭い場所に大量の爆弾を落とすという異常な事態の中で起きた。知り合いの米軍退役将校が『考えられないことだ』と驚いていたが、イスラエルがどれだけ言い訳しようとも、最初から多くの民間人を巻き添えにする『戦争犯罪』が起きることを前提としていたとしか言いようがない」と話す。

 第3次中東戦争で勝利したイスラエルは1967年からヨルダン川西岸地区、ガザ地区、東エルサレムを占領してきた。ヨルダン川西岸地区には70万人を超すイスラエル人を入植させ、銃とブルドーザーで土地を没収し、家を破壊してきた。ガザ地区を分離壁で囲んで監視所と検問所を設置し、無差別銃撃や逮捕・拷問を繰り返してきた。中東専門家のアラン・グレシュ記者は「現代で最も長期にわたるパレスチナ紛争では、争点は単なる領土問題の域を超えている。…不断に繰り返される不正義の問題なのだ」(2017年6月号ル・モンド・ディプロマティーク紙、嶋谷園加、生野雄一翻訳)と述べている。

 国際刑事裁判所は、長年にわたってパレスチナ人民を抑圧し自決権を奪ってきたイスラエルの植民地政策を「戦争犯罪」と断じている。国際人権団体はイスラエルを「アパルトヘイト国家」と呼んでいる。イスラエルが進めてきたガザ地区の封鎖と分離政策は、19世紀にシオニズム運動を起こしたテオドール・ヘルツルが提唱した「植民地計画」にまでさかのぼる。グレシュ記者は「パレスチナ、植民地主義からアパルトヘイトまで」(2022年9月号ル・モンド・ディプロマティーク紙、未邦訳)という記事で、「シオニズム運動の植民地的性格は、最初から入植者と先住民との分離政策、すなわちアパルトヘイトを意味していた。北米、オーストラリア、アフリカ南部、アルジェリアと同様、入植者の植民地主義は常に先住民を不法占拠者とみなし、神や文明の名のもとに追放し、虐殺する可能性があった」と指摘する。

 イスラエルは、世界ランキング9位の空軍を含め世界有数の軍事力を保有している。一方のハマースはカラシニコフなど小火器と手作りのロケット弾ぐらいしか持っていない。そのハマースに対し、2006年から昨年まで10数回も「戦争」を仕掛け、多数のパレスチナ人を巻き添えにして殺害してきた。「戦争」を口実にしたジェノサイド(民族浄化)とも言える。現在、イスラエルが準備している「地上侵攻」もそうだが、イスラエルがいうところの「戦争」とは、戦闘機や爆撃機、戦車など強力な兵器と武器で行う虐殺行為を正当化するレトリックでしかない。

 イスラエルが、仮に今回の病院「爆発」への関与を否定したとしても、親パレスチナのアラブ諸国がそう簡単に信用するとは思えない。エジプト外務省は17日の声明で「イスラエルが故意に民間施設を標的にしたと考えている」と非難しているし、サウジアラビア、ヨルダン、トルコ、アラブ首長国連盟(UAE)、バーレーンも相次いでイスラエルを強く非難する声明を出している。アラブ諸国の怒りはイスラエルを支持するアメリカにも向かい、イスラエルの次にバイデン氏が訪問する予定だったヨルダンのアンマンで大規模な抗議行動が起きている(公共放送FranceInfo)。

 このためバイデン氏はヨルダン訪問を急きょ取りやめ、ヨルダンのアブドラ国王、エジプトのシーシ大統領、パレスチナ自治政府のアッバス議長との4者会談は中止になった。元々、ネタニヤフ氏と不仲といわれるバイデン氏は来年の大統領選挙に向けて国内の親イスラエル派の機嫌を取るため、「戦時下のイスラエルを訪問した初めてのアメリカ大統領」の栄誉を手にしたが、病院「爆発」で多数の民間人が犠牲になった結果、アメリカの中東政策は足元から大きく揺らいでいる。米国内でも反イスラエル抗議運動が盛り上がり、18日にはパレスチナに同情的で「停戦」を訴えるユダヤ系市民が連邦議会に乱入し、300人以上が逮捕される騒ぎとなった。

 こうした中、18日テルアビブで行った単独演説で、バイデン氏はそれまでのイスラエルに対する全面支援の姿勢を大きくトーンダウンさせ、「戦時中の決断は容易ではない」「それで目標を達成できるのか、素直に評価しなくてはならない」(10月20日毎日新聞)とイスラエルに自制を求める言葉を並べた。ところが、同じ18日にアメリカは国連安保理で、ブラジルが提案した「戦闘の中断を求める決議案」に拒否権を行使した。「イスラエルの自衛権について言及がない」というのがその理由だが、イスラエルに冷静さを求める一方、「停戦」には反対するという外交姿勢の矛盾が露わになった。ウクライナとパレスチナを前に米外交政策は出口のない「蟻地獄」に陥っている。

■「停戦」求める声とウクライナ支援「疲れ」

 バイデン大統領は10月10日、ハマースやレバノンのイスラム民兵組織ヒズボラを支持・支援しているイランを牽制するため、最新鋭の原子力空母ジェラルド・フォードを中心とする空母打撃群をイスラエル沖合の東地中海に配置した。17日には米海兵隊第26海兵遠征部隊を東地中海に移動し、空母打撃群と合流させることを明らかにした。「イスラエル、アンクル・サム(アメリカ合衆国)の幻想なき回帰」(10月17日ル・モンド・ディプロマティーク電子版、未邦訳)という記事を書いたフィリップ・ルメール記者は「(空母打撃群などの配置は)軍事援助、人質の解放、国民や難民を避難させるための作戦に貢献する可能性があるが、復讐に燃えるイスラエルに『ある程度の抑制』を求める目的もある」と分析する。

 「抑制」とは民間人の巻き添えを「できるだけ」減らすことだ。その一方でルメール記者は「ロシアのウクライナ侵攻以来、一番の「敵国」に昇格したロシアに対するアメリカの軍事的関心は、(トルコとロシアが支配しNATOと対峙する)東地中海での戦略的利益を高めることにある」と分析する。軍事力をイスラエル沖合に集めることで、アメリカはNATOの守備範囲である地中海でのリーダーシップを掌握しようとしている。20日、バイデン氏は唐突に「ハマースとプーチンは民主主義の敵だ」という声明を発表したが、アメリカは軍事力を誇示することで、「民主主義VS先制主義及びテロリズム」という単純な図式をもとに「世界の分断」をさらに加速させようとしているかのようだ。

 ガザ地区の病院「爆発」によってパレスチナを支持するアラブ諸国では市民の怒りが頂点に達している。「これ以上のジェノサイドを許さない」として、「停戦」を求める声は欧米にも広がり、世界各地で反イスラエルの抗議運動が起きている。イスラエル軍がガザ地区への地上侵攻を開始し、さらに多数の民間人が巻き添えになる事態に発展した場合、欧米各国は中東情勢と国内情勢にエネルギーの多くを使うことになる。その場合、さらなる援助を求めるゼレンスキー大統領の願いはかえりみられなくなるかもしれない。パレスチナ紛争が続く限り、ウクライナの憂鬱は晴れそうにない。

 共和党が多数を占める米下院は数十億ドルのウクライナ支援策を盛り込んだ議案を拒否した。ウクライナの穀物輸入禁止措置をEUの指令に反して延長したポーランドとスロバキアはウクライナへの武器供与を停止すると発表した。エネルギー高騰とインフレ加速で苦しむEU諸国ではウクライナ支援「疲れ」が目立ってきている。中東情勢の悪化によって、ウクライナ戦争の「停戦」を求める声が、グローバルサウス諸国だけでなく、世界中に広がる可能性もある。もちろん、ロシアの弱体化と戦争継続を望むネオコン集団に支えられたバイデン政権の意向に反してのことだが…。

*「ル・モンド・ディプロマティーク」は1954年にパリで創刊された月刊国際評論紙。欧米だけでなく、アフリカ、アラビア、中南米など世界各地の問題に関して地政学的・歴史的分析に基づく論説記事やルポルタージュを掲載。現在、23言語に翻訳され、34カ国で国際版が出版されている。日本語版(jp.mondediplo.com)は月500円から購読可能。
*著者・土田修
ル・モンド・ディプロマティーク日本語版の会理事兼編集員
ジャーナリスト(元東京新聞記者)

http://www.labornetjp.org/news/2023/1020tutida


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誤解の多いカーボンクレジットの使われ方「偽の環境配慮」と非難されないために企業は何をすべきか

2023-10-21 | 先住民族関連

東洋経済10/20 7:02 配信

 脱炭素経済をめざすことが世界標準となった現在、多くの企業が自社や自社製品のカーボンニュートラルの取り組みを競うように宣伝している。気を付けなければならないのが、その宣伝が「グリーンウォッシュ」(偽の環境配慮)だと非難されるリスクだ。欧米では着々とグリーンウォッシュを取り締まる法制化が進んでいる。
 特に気を付けるべきは、温室効果ガス排出ネットゼロやカーボンニュートラル宣言をしながら、自社での温室効果ガスの削減努力で達成するよりも、カーボンクレジットを買って自社や自社製品の排出量をオフセット(相殺)することだ。それを安易に行うと、グリーンウォッシュだと非難されるリスクが高い。

科学的根拠に基づいて二酸化炭素(CO2)の削減を進めていくためには、2030年に向かってはまずは自社の排出量を企業努力によって半減させていくことが最も重要だ。このことは、前編の記事を参照してほしい。
 それでは、カーボンクレジットはすべてダメなのかというとそうではない。国際的なスタンダードとして推奨されている高品質のクレジットは存在する。
■グリーンウォッシュ回避で頼れる国際イニシアティブ
 そもそもクレジット取引は気候変動問題に関するパリ協定第6条で正式に定められている市場メカニズムの一つでもある。しかし何をもって高品質のクレジットとなるかを理解することはなかなかに難しく、クレジット認証機関から認証を受けているクレジットならばよいだろうと安易に手を出すと痛い目にあってしまう。残念ながら、認証機関の質は玉石混淆だからだ。

 そこで役に立つのが、カーボンクレジットをめぐる国際イニシアティブの最新動向を知っておくことだ。
 日本には国際的に流通が認められた公的なクレジット制度はまだ存在しないから、必然的に国際イニシアティブが定める基準が事実上のグローバルスタンダードとなる。
その最たるものが、2022年末に国連のグテーレス事務総長が主導して専門家グループから発表されたネットゼロ提言書だろう。これはネットゼロを標榜した企業が守るべき10の要件を示している。

 そのうえで民間クレジットに関して知っておくべき国際イニシアティブは2つある。
 1つはイギリス政府などの主導で発足した「自主的炭素市場イニシアティブ」(VCMI)。これは温室効果ガス排出ネットゼロを主張したい企業のためのガイダンスであり、いわばクレジットの需要側の企業が守るべき基準だ。
 もう1つが、マーク・カーニー元イングランド銀行総裁が立ち上げた「自主的炭素市場のための環境十全性評議会」(ICVCM)。こちらはネットゼロのために使ってよい高品質クレジットの要件を示しており、クレジット供給側の基準だ。

■クレジットを使う前に満たすべき前提条件
 国連ネットゼロ提言書を含めてこれらのイニシアティブは、世界の機関投資家が企業の評価に使う基礎的ガイダンスとなるので、グリーンウォッシュを避けたいと考える企業は必ず知っておくべきだ。
 横文字の省略形ばかりでうんざりするかもしれないが、これらの国際イニシアティブは相互に関連している。カーボンクレジットによるオフセットも使ってカーボンニュートラルを実現したいと考えている企業は、これらの国際イニシアティブの示す基準を勉強してから取り組もう。

 国連専門家グループによる提言書を含む、これら3つのイニシアティブが共通して強調していることを見ていこう。
 クレジット需要側のガイダンスであるVCMIを例に取ると、ネットゼロを標榜する企業は、まず前提条件を満たさなければならない。
 1つ目は、国際標準である「GHGプロトコル」(温室効果ガスの排出量の算定基準)に沿って自社の排出量を算定し、開示することだ。
 2つ目が、パリ協定の目標である1.5度に気温上昇を抑える道筋として、2030年までに自社の排出量をほぼ半減し、遅くとも2050年までにネットゼロにする目標の設定だ。

 そして3つ目は、設定した目標に沿って着実に削減できていることを示すこと。
 4つ目は日本企業にはあまりなじみがないかもしれないが、自社が脱炭素に野心的な政策(炭素税の強化など)を支持しているかどうか、そして政府がこれら野心的な政策を導入しようとしている場合にそれを妨げようとしていないか、を問うことだ。
■TCFDへの賛同はなぜ重要なのか
 「これらの前提条件を満たして初めて、企業はカーボンクレジット等を検討するべき」と示されている。

 しかし、これらの前提条件を満たすことは簡単ではなく、どうやって実施するかで頭を抱える企業も多いだろう。そのために必要なガイダンスを提供する国際イニシアティブへの参加が奨励されている。
 1つ目はCSRやESG部門の担当者にとっておなじみの国際組織CDPや、東証プライム上場企業にとって事実上の必須であるTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)の提言がある。
 前者のCDPは、企業が環境情報を開示し、気候変動に対する取り組みを評価・共有する国際的なイニシアティブ。後者のTCFDは、気候変動に関連する金融情報の開示を促進し、企業や組織が気候リスクと機会について透明かつ一貫した情報を提供するための国際的な枠組みだ。

 これらに沿って自社の取り組みを評価し、開示すれば、きちんとグローバルスタンダードにのっとった開示になるので安心だ。
 そして2つ目には、科学に沿った削減目標を持つことを承認するSBTi(Science Based Targets Initiative:科学に沿った目標設定イニシアティブ)がある。
 SBTiでは企業の取り組みがパリ協定の目標に科学的に沿っているか評価し、承認するので、SBT認定を取得しておくと、機関投資家の評価も受けやすい。

 この前提条件を満たしたうえで、ようやくカーボンクレジットの検討に入ることになる。その際、どんなクレジットを使ってよいかについては、ICVCMが発表している以下の10の要件がある。
 中でも目を引くのが、持続可能な開発の要件で、クレジットを創出するプロジェクトがその地域の環境や人々に悪影響を及ぼさないことを担保しなければならない、という要件だ。
■生物多様性との両立が重要
 たとえば熱帯雨林の減少を防止するプロジェクトの開発者が、現地の先住民や地域社会に害を与えていないか、生物多様性や自然資源を損なっていないか、などの詳細な要件を満たさなければならない。

そもそも森林はCO2吸収の価値だけではなく、本来の生物多様性保全、現地の住民の暮らしを支える重要な自然資本である。これらの厳しい10の要件を満たす高い品質のクレジット(コア炭素原則〈CCP〉適格クレジットと呼ばれる予定)は2023年末から認証される予定だ。
CO2排出ネットゼロを標榜したい企業は、まず、科学に沿って設定した削減目標を自社の努力で達成するという前提条件を満たしたうえで、残りの排出量をこれらの高品質クレジットで相殺することができる。残りの排出量というのは、たとえば自らの2030年の削減目標が46%であるならば、46%までは自助努力で削減する必要があり、残っている54%の排出のことを言う。

 46%の削減目標達成にはクレジットは使えないことに注意が必要だ。クレジットの需要側のガイドラインであるVCMIでは、残りの排出量の何%を相殺するかによって、プラチナ(100%以上)、ゴールド(60%以上)、シルバー(20%以上60%未満)というステータスが用意されている。
 これらの厳しい要件を満たした高品質クレジットは当然ながら高額だ。しかし、これがグローバルスタンダードなのだ。
 ちまたには、排出枠1トン当たり1000円もしない民間クレジットも多く出回っている。しかし、これら安いクレジットを買って、安易に自社のカーボンニュートラルやネットゼロを宣言したり、カーボンニュートラル製品として宣伝したりすること自体がリスクになる。どうしてもクレジットを使いたいならば、グローバルスタンダードな基準を満たしたうえで高品質クレジットを購入すべきだ。

■短中期の目標にはクレジットは使用不可
注意すべきことは、国連のネットゼロ提言やSBTiでは、2030年などの短期のCO2
排出量削減目標達成には、カーボンクレジットによるオフセットは削減量としてのカウントは認められていない。なぜならば、それぞれの企業が自社の排出の大部分を自助努力で削減しなければ、パリ協定の目標である1.5度に気温上昇を抑えることはできないからだ。
産業によって異なるが、自社の排出量のおおよそ90%程度までは自力で削減することが求められる。そのうえで、2050年にネットゼロを実現する過程では、現在の技術では削減できない分野の排出が残る。そこで大気中からCO2を除去するといった革新的な技術開発の実用化が必要になる。
 企業は自らの削減努力とともにこれらの新技術の開発などにも貢献することが求められる。これらは「バリューチェーンを超えた緩和(貢献アプローチ)」と呼ばれ、クレジットを超えた最先端の環境行動として推奨されていることも知っておこう。
2022年12月、消費者庁は生分解性プラスチック製品であると偽ったことについて、景品表示法違反(優良誤認)に当たるとして措置命令を出した。これは日本での初めてのグリーンウォッシュ摘発事例だが、欧米ではすでに規制化が進んでおり、グリーンウォッシュに対しては、罰金が科される(前編記事参照)。

 グローバルマーケットを持つ企業はもちろんのこと、今後は、そうした企業のサプライチェーンに入る企業も意識を高める必要がある。特にカーボンニュートラル製品や自社のカーボンニュートラルを宣伝している企業は、早期にしっかり国際イニシアティブを調査して対応しよう。

https://finance.yahoo.co.jp/news/detail/da3be0a3a389c91e6e6528f28914ed829b396e3a


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ぜんじろう 杉田水脈氏に皮肉「差別発言するとお笑い芸人ですら厳しい制裁させられる中…」

2023-10-21 | アイヌ民族関連

東スポ10月20日

スタンダップコメディアンのぜんじろうが20日、「X」(旧ツイッター)を更新し、再び人権侵犯と認定された自民党の杉田水脈衆院議員を強烈に皮肉った。

杉田氏は、2016年に「チマチョゴリやアイヌの民族衣装のコスプレおばさん」とフェイスブックに写真付きで投稿したしたことについて、大阪法務局が人権侵犯と認定されたことが先日、分かった。9月には札幌法務局もアイヌ民族への人権侵犯と認定しており、今回で2例目となる。

関連するビデオ: 杉田水脈氏が議員辞職を否定 アイヌ民族へ差別「人権侵犯」 (テレ朝news)

ぜんじろうは「【杉田水脈議員、再び『人権侵犯』認定 在日コリアンにも差別的投稿】」と題したうえで、「お笑い芸人ですら、差別発言などすると、番組降板、謝罪など厳しい制裁をさせられる中、日本ってすごいですね。差別発言を繰り返すと、総理大臣から『能力持った人物』と、総務政務官になれます(笑)」と杉田氏を皮肉った。

杉田氏は昨年8月、第2次岸田第1次改造内閣で総務大臣政務官に就任したが、月刊誌で性的少数者であるLGBTのカップルを「生産性がない」と主張したことが問題となり、12月に更迭された。だが今年9月には、自民党が環境部会長代理に起用し物議をかもした。

https://www.msn.com/ja-jp/news/national/ぜんじろう-杉田水脈氏に皮肉-差別発言するとお笑い芸人ですら厳しい制裁させられる中/ar-AA1iyboe


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杉田水脈氏批判の報道から抜けた視点 問題の核心は史実否定の「歴史戦」

2023-10-21 | アイヌ民族関連

週刊金曜日2023年10月19日5:47PM 早川タダノリ・編集者|

 杉田水脈議員(自民党)のブログでの書き込みに、ついに札幌法務局から「人権侵犯の事実があった」という認定がくだった。2016年2月に「国連・女子差別撤廃委員会」(於ジュネーブ)に参加した報告として「チマチョゴリやアイヌの民族衣装のコスプレおばさんまで登場。完全に品格に問題があります」と書いたことについてだ。このことは同氏のブログだけでなく、青林堂が刊行していた保守言論雑誌『JAPANISM』第30号(16年)でも掲載されていた。そもそもこの記述が公開された16年12月12日直後から問題にされてきたことを思えば、あまりにも遅すぎる認定だった。

 この「人権侵犯」認定が明らかになって以降、いくつかのマスメディアやSNS上で、こんな人物が国会議員をやっていていいのかと強い危機感が表明されている。

朝日新聞は9月23日付で「杉田水脈氏 もう議員の資格はない」と題する社説を出した。マイノリティを「攻撃して平然としている与党議員を放置し続けるのか」「杉田氏を政務官に起用した、岸田首相の人権感覚もまた問われている」と述べている。また毎日新聞も10月2日付の社説「杉田氏の人権侵犯認定 国会議員の適格性を欠く」で、「人権の尊重は政治の根幹である」と訴えている。

 東京新聞は、9月26日付のWeb版記事に「杉田水脈議員に『人権侵犯』の認識はあるのか? 繰り返す弱者への蔑み 自民党が責任問わないのはなぜ」を掲載。杉田氏の政界デビュー以降の言動を追い、「問題のある言動を繰り返し、人権侵犯との認定を受けても、差別と認識しているか分からない。これで国会議員の資質があるというほうが難しい」と、デスクメモで締めくくっている。

 いずれもごもっとも……なのだが、なんかおかしい。いずれの論説にも共通して抜け落ちているのが、彼女の「慰安婦」問題や「歴史戦」についての諸発言なのだ。

 杉田氏が「国連・女子差別撤廃委員会」に「なでしこアクション」の山本優美子代表(元在特会幹部)らとともに参加したのは、日本軍「慰安婦」の強制性を否定し、「20万人」という数字は捏造であり、「性奴隷」ではなかったと訴えることが目的だった。

歴史否認主義運動の尖兵

 杉田氏が国会議員になった当初から熱心に取り組んできたのが、「慰安婦」問題や「徴用工」問題などの史実を否定し、それを「日本の『正しい姿』の発信」として対外的に広報していく「歴史戦」だった。河添恵子氏との共著『「歴史戦」はオンナの闘い』(PHP研究所)では、「アメリカもそうですが、慰安婦像を何個建ててもそこが爆破されるとなったら、もうそれ以上、建てようと思わない。建つたびに、一つひとつ爆破すればいい」などと放言しているありさまだ。故安倍晋三に見出されて次世代の党から自民党に鞍替えした杉田氏は、官製歴史否認主義運動としての「歴史戦」の尖兵として活用されてきたし、自らもそう位置づけてきたのだ。

 一連の報道のうち、杉田氏と「歴史戦」について言及したもので目についたのは、安田菜津紀氏が毎日新聞政治プレミアに寄稿した「杉田水脈氏の『続投』」と、プチ鹿島氏が文春オンラインに寄稿した「『人権侵犯』認定された自民党・杉田水脈がまた出世…『環境部会長代理』に推したのは誰なのか?」の2本だった。この少なさは危機的だ。

 現在、日本の官製歴史否認主義は、対中国ナラティブ戦・認知戦のツールとして「総合的安全保障戦略」の一角をなすものとして組み込まれようとしている。その担い手として、自民党政権は杉田氏を温存し・活用しようとしているのではないのだろうか。その「歴史戦」を突かない朝日・毎日社説は、やはり不可解だ。

https://www.kinyobi.co.jp/kinyobinews/2023/10/19/media-2/


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先住民イヌイットの生き方に反するデンマーク社会構造

2023-10-21 | 先住民族関連

鐙麻樹北欧ジャーナリスト・写真家・ノルウェー国際報道協会役員10/20(金) 12:01

グリーンランドの活動家アーカ・ハンセンさん 本人提供写真

アーカ・ハンセン(Aka Hansen)さんはグリーンランドの首都ヌークに住む活動家・映画監督だ。映画やドキュメンタリーの制作を通して、300年以上にわたるコロニアリズムの中で育まれたイヌイットの伝統文化に焦点を当てている。

子どものための支援活動をする国際NGOプラン・インターナショナル・デンマークは、デンマークのジェンダー平等推進に貢献する個人や団体に「ガール賞」を授与しており、アーカさんは今年の受賞者候補のひとりとしてノミネートされている。ノミネート理由は「グリーンランド人、とりわけ女性と子どもに対するニュアンスに富んだ見解が評価された」からだ。

私の活動では、グリーンランドが伝統的に家母長制の国であるという事実に注目しています。女性も男性と同じように真剣に受け止められてきました。デンマークではそうではありません

私たちの未来にとって重要な知識を持つ女性やその他のマイノリティを抑圧することは、私たち自身を抑圧することなのです

PlanBørnefondens Pigepris

ノルウェーのサーミ人との連帯を示すために抗議活動に参加

アーカさんはノルウェーの首都オスロに来ていた。先住民サーミ人に連帯を示すためだ。

グリーンランドでも「グリーン・コロニアリズム」(緑の植民地主義)が起きていると、アーカさんはインタビューで話し始めた。

「つい最近も、ウラン採掘を望む大手鉱山会社にグリーンランドは反対票を投じたばかりです。地下には豊富な鉱物資源がたくさんあるので。何でもありますが、問題は狩猟区域でもあるということ。もし土地を破壊したら、そこでは狩りができなくなります。釣りもできなくなります。私たちもそこにいることもできなくなります」

「グリーンランドは世界一大きな島で、人口は58,000人とそれほど多くはなく、そのうち約5000人がデンマークからの入植者です」

「ちょうど300年前のことです。1721年にデンマーク人の司祭がグリーンランドにやってきて、私たちの国を植民地にしました。私たちはすでにオランダやドイツなどの捕鯨業者と交易していましたが、デンマークがそれを止めさせ、デンマーク政府との取引しか許されなくなりました。だから私たちの民族は300年間植民地化されてきたんです。グリーンランドの人たちがそう投票したわけでもないのに、いまだにグリーンランドはデンマークの憲法下にあります」

「グリーンランドにもいわゆる議会、自治政府はありますが、認められているのはいくつかの分野だけなんです。司法や外交政策などをコントロールすることはません。だから私たちはまだデンマーク女王の下にいることになります」

「植民地を持つことは許されない時代になり、1953年にグリーンランドがデンマーク領になることで合意しました。その日から、多くの主導権を握ることになったんです」

連れていかれる子どもたち、今も続く抑圧構造

「それからも私たちの多くの祖父母は苦労しました。例えば、もしあなたがグリーンランドで生まれたとしたら、デンマーク人と同じ仕事をしていても給料は半分dでした。イヌイットの子どもたちはデンマークの家庭に養子に出され、私たちの国から連れ去られました。今現在も500人近くの子どもたちが、デンマークの家庭や施設に預けられたままで、自分たちの信仰や言語、文化に触れる機会を失っています。つまり、これは『ジェノサイド』(大量虐殺)なんです」

「酒を飲んで育児をしない」という偏見

「養子にしたがるのは、私たちの国民は『よく酒を飲む』とか、『子どもを虐待している』とかいう偏見があるからです。真実ではないけれど、デンマークがグリーンランドの国民をどう見ているかということです。今でもデンマークには『イヌイットの家族は子どもの面倒を十分に見ない』と考えている人がいます」

「このような統計を取るのはとても難しいんです。なぜなら、私たちは同じ社会保障番号を持っていて、グリーンランド人という『国籍』を持っていないから。たとえデンマークから4000キロ離れていた場所で生まれたとしても、それでもデンマーク国民とみなされるんです」

アーカさんは、イヌイットと比較して、サーミのコミュニティはよく「まとまっている」と感じている。「共に立ち上がり、共に闘っている」姿は羨ましくも見えるようだ。

「グリーンランドの一部の人たちは、植民地的な構造を内面化しており、今のような状態でいいと受け入れてしまってます。だから『あなたはなぜ必死に闘っているの』『そんな闘いは必要ない』『私たちは自治政府にはなれない』『私たちは酒を飲み過ぎている』と。自分たちでさえ飲酒の問題を指摘するんです」

アーカさんは飲酒という社会問題は確かに存在すると話す。かつてはアルコールを買うことは許されていなかったが、70年代に解禁されて以来、苦しい時の「気晴らし」となった。

グリーンランド自治政府の予防・社会関係局は、アルコール乱用は明らかに社会的・心理的問題であり、多くの子どもや若者、家族に大きな悪影響を及ぼしているとしている。問題は「平均消費量」ではなく「飲み方」で、週末や給与支給後に暴飲するパターンがある。

「もし誰かが苦しんでいて、『ダメ人間』だと言われ続けると、アルコール依存症は簡単な逃げ道になってしまうんです。『酒を飲めば忘れられる』と、飲酒問題に関して多くの研究でも証明されています」

「デンマーク人のようになれない」追い詰められるアイデンティティ

「政府によって破壊された先住民のアイデンティティ」など、サーミ人との歴史や葛藤には共通点が多いとアーカさんは話す。

「グリーンランドでも自殺率がとても高いんです(特に男性)。『デンマーク人のように見えない』『デンマーク人のように振る舞えない』『デンマーク語を十分に話せない』。デンマーク語が話せなければ、教育を受けることもできません。それは私たちの伝統的な生き方に反する多くの構造です。ヘイトスピーチも受けます」

若い男性の間で高い自殺率

自殺の原因を調査しているデンマーク国立公衆衛生研究所によると、グリーンランドでは年間約40~60人が自殺し、人口10万人当たりの自殺者数は約88人。これはデンマークの約9倍で、特に若いグリーンランド人が自殺で亡くなっていることになる。グリーンランドでは10分の1の死が自殺であり、事実上すべてのグリーンランド人が、「自ら命を絶った」あるいは「絶とうとした人を1人以上知っている」状態だ。自殺で亡くなるのは主に15~34歳で、その後は年齢が上がるにつれて自殺率は下がる。この傾向は「北極圏の他の先住民族にも見られる傾向」とされている。

特にグリーンランドの小さな町では、1人の自殺が数人の自殺につながるという「自殺の伝染」が起きる傾向もあり、背景には、グリーンランドの植民地時代の歴史、急速な近代化、それに伴う社会的影響などが考えられる。

「北極圏の他の先住民の研究によると、先住民の文化や言語、高齢者世代への愛着が、精神衛生や自殺に関連する重要な保護因子であることがわかっているため、ここに予防の可能性があるかもしれない」と同研究所・グリーンランド公衆衛生センターの博士課程学生であるIvalu Katajavaara Seidlerさんは指摘している。

グリーンランドが生き延びるためには、自分たちの憲法や法律が必要だ

「デンマーク議会にはイヌイットの議員は2人いるけれど、それだけの数では何も変えることはできません。今、私たちは生き延びるために闘っています。人々が望んでいるのは主権を持ち、自分たちのルール・憲法を持つことです。自分たちの領土を持つためには、憲法と法律が必要なんです」

アーカさんのように、SNSを使って先住民としての誇りを思い出させ、現在も続く植民地的な考え方の問題提起をする動きは北欧各地で見ることができる。「若い世代×英語×SNS」の組み合わせによって、各地に散らばっていた先住民同士の連帯も強まっており、「ルーツに誇りを」というムーブメントはこれからさらに勢いを増しそうだ。

https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/e3acd9f610174acb2b9f54636a85e3b4c184a364


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