毎日新聞2016年5月7日 北海道朝刊
故萱野茂さんの写真を前に、没後10年を振り返る次男志朗さん=平取町の萱野茂二風谷アイヌ資料館で
1997年のアイヌ文化振興法(アイヌ新法)制定に尽力したアイヌ民族初の国会議員、萱野(かやの)茂さんが亡くなり、6日で10年を迎えた。萱野さんが開設した北海道平取町の「二風谷アイヌ文化資料館」(現萱野茂二風谷アイヌ資料館)を受け継いだ次男志朗館長(58)は「しっかりと資料館を守り、父の遺志を実現したい」と話した。
志朗さんによると、萱野さんは真面目で勤勉な性格だった。後世にアイヌ文化を残すことをライフワークとし、53年からアイヌ民具を集め始めた。周囲から「ガラクタを集め、頭がおかしくなったのか」などと悪口を言われながらも、伝統模様の頭巾「コンチ」や樹皮の器「ヤラニマ」などを買い求めた。
また、古老を訪ね、アイヌの民話や叙情詩などを録音。テープは650時間に及び、アイヌ語の継承に貢献している。集まった民具の一部は2002年、国の重要有形文化財に指定された。
萱野さんは94年8月、参院議員に繰り上げ当選。アイヌ語で国会質問に立つなど、北海道旧土人保護法の撤廃とアイヌ新法制定を訴えた。97年5月に同法が成立し、アイヌ文化の振興を図ることが決まったが、萱野さんが求めていた国会での特別議席付与やアイヌの自立に向けた基金創設などは見送られた。
08年6月にはアイヌを先住民族と認めるよう政府に求める国会決議が採択され、政府は白老町に「国立の民族共生公園(仮称)」を整備する計画を進めている。志朗さんは「父は『新法は不完全だが、1本の苗を植えた。後世で育ててほしい』と言っていた。文化振興策は充実してきたが、特別議席など先住民の人権を保護・回復する施策は進んでいない」として、アイヌ一丸となった活動で実現を目指している。【福島英博】
http://mainichi.jp/articles/20160507/ddr/041/040/008000c