編集委員 関口裕士 会員限定記事
北海道新聞 2025年5月31日 10:00

北海道は「大好きな場所」。何度もライブを行ったなじみのカフェで話す村本大輔さん=13日、札幌市中央区のカフェPROVO(浜本道夫撮影)
笑う。考える。鋭い言葉にドキッとする。オチがあってまた笑う―。米国で修業中のコメディアン村本大輔さん(44)が4~5月に一時帰国し、沖縄から北海道まで全国各地で独演会を行った。原発や米軍基地など社会問題を風刺し、社会的な弱者に寄り添い、さらりと笑いに変える。
毎回ウケる鉄板ネタは原発ものだ。福井県おおい町出身。関西電力大飯原発があるが夜は町が真っ暗になる。これだけは言わせて。電気はどこへ行く~。(太字は全て村本さんのライブから)。地元は原発で飯を食っているからものを言えないとされる。2019年に小泉純一郎元首相と対談した。東京電力福島第1原発事故後、「原発が安全だなんてうそだ」と脱原発を唱え始めた小泉氏に「なんで首相の時に分からなかったんですか!」と突っ込んだ。福島第1原発を視察した話も面白おかしく話す。原発のある街にも呼ばれる。最近気付いたと言ってネタにした。原発で飯食ってるのは俺でした。
お笑いコンビ・ウーマンラッシュアワーのボケ担当として活躍し13年に人気漫才番組で優勝した。だがテレビ番組への出演は、社会問題や政治を痛烈に風刺するネタを始めてから激減した。昨年2月に単身米国に渡りニューヨークを拠点に活動する。
一時帰国して全国20カ所以上を行脚した今回の独演会。記者は沖縄県読谷村と熊本県水俣市、小樽市、日高管内平取町二風谷、それに札幌と5カ所の会場に足を運んだ。
道内の独演会ではアイヌ民族初の国会議員、故萱野茂さんの孫、萱野公裕さん(36)らが前座で漫才をした。アイヌの人たちには「とり過ぎない」って考え方があるんですって。子孫に残すために魚を捕りすぎない、目先の利益ばかり考えてはいけない、と紹介したうえで、萱野さんらの漫才をちゃかした。笑いだって、俺に残しておくために、とり過ぎなかったよね。
水俣で前座を務めたのは胎児性水俣病患者の長井勇さん(68)。手足のまひに加え構音障害(うまくしゃべれない障害)が重いが、介助者と20分間マイクを握った。水俣では昨年、環境相と患者団体の懇談で1人3分以内と決めた発言時間を超えたとして環境省職員が患者側のマイクを切ったことが問題になった。今回も、ウケなかったらマイク切ろうかなと思ってたんですけど。ブラックジョークに会場がどっと笑う。その後も最前列で車いすに座る長井さんを何度もいじり、そのたび長井さんはゲヘヘと笑い、会場は温かい笑いに包まれた。
沖縄では米軍や自衛隊の基地の問題にも斬り込んだ。宮古島や石垣島に自衛隊の基地ができて、基地があるところが攻撃されるに決まってるじゃないですか。台湾有事の際は逃げるって、どのタイミングで逃げるんですか? 中国が「今からユージ行きま~す」とでも言うんですか?
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村本大輔さんの話はなぜ観客の心を揺らすのか。それぞれ村本さんのライブを聴いた、沖縄のドキュメンタリー映画監督の三上智恵さん(60)と熊本県水俣市の水俣病センター相思社の永野三智さん(41)、釧路市阿寒町のアイヌ文化伝承者、山本栄子さん(80)に話を聞いた。
■斬る相手間違えず ドキュメンタリー映画監督・三上智恵さん
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■心のドアを開ける 水俣病センター相思社・永野三智さん
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■優しさと芯の強さ アイヌ文化伝承者・山本栄子さん
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https://www.hokkaido-np.co.jp/article/1166971/