西村一朗の地域居住談義

住居・住環境の工夫や課題そして興味あることの談義

西山夘三先生は亡くなられるまで「進化」していた

2011-09-13 | 諸先生・諸先輩・同輩・諸後輩の思い出
少し前、9月3日に西山夘三記念すまい・まちづくり文庫主催の「西山夘三生誕100周年記念シンポジュウム」等に参加したことを書いた。

今回、新建築家技術者集団主催の同じく「西山夘三生誕100周年記念シンポジュウム」「西山夘三の残した業績と受け継ぐもの」と題して9月11日に京都市国際交流会館特別会議室」で70人余の参加で開かれた。

この会議室の窓からは比叡山や東山が望まれ、「大文字」も(大文字から見て)左側面から僅かに見えている。片方信也さん(日本福祉大教授、新建全国常任幹事、同京都支部代表幹事、京大大学院修了、私が助手の時に院生・博士課程、その後、三村浩史先生の研究室の助手になり2年間同僚だった)が、「会場をここに設定したのは、西山先生が最後に景観として歴史的スカイラインを大切にする取り組みを京都でされていたことに思いをいたした」旨を前日の「前夜祭」で述べていたが、「そうだな」と思った。

プログラムとして、基調講演が、山本厚生さん(生活建築研究所、新建全国幹事会副議長、東京芸大建築学科卒、1938年生まれで私より3歳先輩、芸大では山本学治先生に師事)だった。基調講演の話をする前に開会挨拶をされた本多昭一さん(新建全国代表幹事、東大建築卒でやはり数年先輩、近代建築技術史専攻、京都府立大名誉教授)の話にも歴史的興味を持った。その話は、戦後「民主主義の建築」ということで「機能主義」を主張した浜口隆一さん(本多さんの先輩・東大建築卒、『日本住宅の封建性』を書いた浜口ミホさんの夫)と西山夘三先生らとの論争は、面白く、実際に当否を問いて論争を続ければ「機能主義」の深化(進化)があったのでは、という趣旨だった。

例えば、劇場建築(私注:西山先生の「卒業設計」は、劇場建築だった・・・)を取り上げると、観客と演劇者だけでなく、大道具小道具さんや照明・音響さん、様々に劇場で働いている人々それぞれに「使いやすいように」劇場に求める「諸機能」があり、今までのように主機能と思われる「見やすい、聞きやすい」「舞台の広さや設えは適当」などということ以外の機能も重視すべきである。このように浜口さんが言ったことに対して西山先生は「その建築に関わりあう人たちの要求する機能を取り上げるのは重要だが、全て満たされるということはなく、そこには対立・矛盾もあるはずだ」と反論したようだ。どうも、ここで論争が中断したようだが、本多さんは「正に西山さんの言う機能上の対立・矛盾を事実として研究し、それらの解決方法を追求していれば「機能主義」の深化(進化)があったのでは・・・、歴史には「~たら」は禁物かもしれないが惜しいことをした、と述べられた。今からでも「遅くない」から、そういう追求とまとめもする必要がある、と思った。

さて、山本厚生さんの基調講演は「西山夘三と新建」という新建ならではのテーマだった。西山先生は、京大を退官された1974年以前からも「新建」創立にかかわり、創立後も初代代表幹事をされ、亡くなられる1994年まで実際の企画・運動にも積極的に参加された。その過程で、「新建」の機関誌である『建築とまちづくり』にも色々と寄稿されている。山本さんは、それら全てを精査し、1970年7月から亡くなる直前の1993年12月まで全部で26本の寄稿をされていることを明らかにしつつ、キーワードとなる7つについて『建まち』に寄稿された西山さんの論考を丁寧に読み解いている。

その山本さんの抽出するキーワードは、「住宅計画学」「科学的社会主義」「運動論」「職能論」「方法と展望」「変革の時代」「21世紀の新建活動」の七つであるが、最後の二つは、この「3.11」以後のことも踏まえた山本さんの提起であった。

そして、22番目と26番目の「最後の方の論考」のコピーを素材として、21世紀への西山先生の「展望」を示された。これらをじっくり読み返したいと思いますが、山本さんの紹介を聞いていて、西山さんは最後まで「考え」を深化(進化)するよう努力された人だ、との思いを強く持った。こうでなくてはならない。

その他、私としては、「建築運動」「建築活動」という懐かしい言葉に触発されて、建築に関する狭い職能だけでなく、「建築界」で息をしているあらゆる人々の「建築活動」を「建築現象」全体である、と考えて(まあ特に建築の中でも住宅に絞って「住宅界」「住宅活動」「住宅現象」「住宅運動」という切り取り方も出来よう)、そこでの矛盾、発展をリアルに考察して提起していくこと、そこに山本厚生さんのいう「すべての人のための豊かな生活空間の創造を」というところに繋がるのではなかろうか。

松本 滋さん(「西山文庫」運営委員長、兵庫県立大学教授)の「西山夘三アーカイブス」とパネルディスカッション「私と西山夘三先生」は今回割愛する。又の機会に報告したい。このシンポのためにまとめられた冊子に私も寄稿しているが、それも又の機会に紹介したい。

最新の画像もっと見る

コメントを投稿