東京の土人形 今戸焼? 今戸人形? いまどき人形 つれづれ

昔あった東京の人形を東京の土で、、、、

黒猫

2016-02-28 11:51:13 | 仕事場(今戸焼 土人形 浅草 隅田川)

 菱田春草の黒猫の図。不勉強なので言い切ることはできないんですが。日本の美術作品の中で「描かれた黒猫」として最も知られた作品だと思うのですがどうでしょう。少なくとも黒猫を描いた作品としては思い出される人は少なくないでしょう。柏の葉っぱも強烈な印象で、枯葉になっても落ちないという特徴をこの絵から学んだように思います。

 突然何でこの絵を引っ張り出してきたかというと、急に身辺の話になってしまうのですが、拙作の昔の今戸人形を手本として起こした猫や招き猫を「黒く塗って欲しい」というご相談を受けることが時折あるんです。

 実際戦後から「今戸焼」として作られているもので黒く塗られているものが結構流通はしているのですが、それらの手本になったであろう昔の黒い猫の人形ってほとんど観たことがないんです。だからおそらく戦後から作っているところでは「江戸明治の今戸の古作に先例があるか否か」なんて考えも特になくてお客さんのご要望に答えて塗りはじめたのだろうと思ってます。

 自分の場合もこれまで「黒く塗って欲しい」と言われて塗ったことはあるんですが、「招き猫の火入れ」だけなんです。何故かというと、自分の手元にはありませんが、唯一黒く塗られた「火入れ」の存在は確認しているからです。ただその「火入れ」の配色はひどく殺風景なもので「目は金」「鼻孔や口、首輪、爪、耳はすべて白」を置いてあるだけなんです。伝世品として時間を経た状態なので、このように殺風景な配色でも間が持っているという感じだと思います。それを自分でやってみてつくづく難しいと思いました。

全体がまっ黒なので変な工夫で赤系統の色を置いたとしてもコントラストが強すぎて中華料理とか南蛮風味みたいな感じになってしまいそうです。それと唯一存在を確認できた上記の「火入れ」だと鼻穴はあっても鼻の頭は色を置いていないのでバランスがとれず間が持たない感じです。

これまで数少ない「黒く塗った経験」の中では邪道だと思いつつ、首輪に浅黄色風な色を置いて、群青色や紺色で「蛸足しぼり」を置いたりしました。でも結果として「きれい」という感じではなかったですね。

 今戸以外の全国に点在する土人形産地の昔の人形の中にはいくつか黒猫の作例も見られますが、そんなに多くもないし、やっぱり「きれい」だと思うモノはそんなにないような気がします。やっぱり黒く塗るということは昔からそんなたくさんはなかったのではないかと思います。

 仮に江戸時代の錦絵に黒猫がたくさん描かれていたかどうか思いめぐらしてみても、思いだせないし、猫の錦絵といえば「いの一番」に国芳の作品群が思い出されますが、作品の中にはぶちや三毛や白の猫は登場するけど黒はいたかな、、?というくらいではなかったかな?と思います。錦絵をはじめ日本の絵画作品全部を知っているわけではないので見落としもあるかもしれませんが、黒猫はそんなにたくさんないのでは、、、?つまり黒猫を受け入ようとする大衆的嗜好は強くなかったのではないかと思ったりします。

 そこで登場するのが菱田春草の上掲の作品をはじめてする黒猫作品群です。ただしこれはご維新以降の価値観の世界から生まれたもののように思えるし、ご維新前の価値観の世界では代表的な黒猫作品ってあったかな?という感じがしますが、ご存じの方いらっしゃったらご教示いただきたいです。

 黒猫というと「耽美的」「猟奇的」世界の産物という決めつけをすると怒られてしまうかもしれませんが、そういうのは明治以降に出てくる流れのような気がするので、古い時代の猫たちには少ないのかな~、、、とも。不勉強のくせにこんなこと書いて怒られるかな、、とも。

 結局のところ、もしも今戸人形の古い作例の中にいくつもの黒猫が存在し、「いいな」と思えば、自分からそういう風に塗ってみたいと思うのですが、現実にはそういうお手本には出会っていないので勝手にこしらえたいとも思わないのが現状です。でもご要望があればそれにお応えすべきかな?とも思ったり揺れ動きます。