東京の土人形 今戸焼? 今戸人形? いまどき人形 つれづれ

昔あった東京の人形を東京の土で、、、、

新刊「はじめましての郷土玩具」(甲斐みのり 著)

2015-03-07 22:43:18 | 仕事場(今戸焼 土人形 浅草 隅田川)

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昨日、グラフィック社(出版社)より包みが届き、開けてみると一冊の新刊。先月中にメールで出版社より郷土玩具の製作者一覧を巻末に掲載するため住所連絡先等の情報について確認して欲しいとの連絡がありました。その関係で一冊献上ということでくださったんだな、と理解してぱらぱらページをめくってみると拙作のものも図版に掲載されていただいていたんだな。とわかりました。

開いて右のページに2体の羽織狐。右の大きなほうが拙作のものです。(最後の生粋の今戸人形師であった尾張屋・金沢春吉翁(明治元年~昭和19年)のお作を手本としました。)でもすごく以前に作ったもの。おそらく30代の頃でしょう。添えてあるサイズを見ると、これははじめて作った一番型(すごく大きくて、大きい大きいと人から言われた)ではなくて二番型(一番型から抜き出して焼いたものから更に型取りしたものを修正してから作った型)のようです。でも今から見ると一見別人が作ったと思えるほど現在とは異なったオーラを発しているような、、。決して昔作った自分の人形がダメだというのではなくて、その当時の感覚が、更に歳をとってしまった現在のものとちょっと違って見えるというか。面描きひとつとっても、この写真の頃のほうが筆は細く鋭かったような、でもかなり慎重に筆を運んでいたような、、。一緒に写っているもう一体の羽織狐は(茶色の羽織)は台東区清川の「玉姫稲荷神社」のご神職が自ら彩色して授与されていたもの。(現在でも基本的にそうなさっていると思います。)素焼きの人形の木地は今戸の白井さんです。白井さんは白井さんでご自分で彩色したものを出していますが、玉姫稲荷から授与されるものは、白井さんの彩色のものではないのです。かつて戦前には玉姫稲荷境内の「口入稲荷」から授与されるものは今戸「長昌寺」そばにいた「鈴木たつ」という女性の作者が一手に納めていたもので、それより昔には尾張屋さんのものも納められていたであろうと思われます。口入稲荷のお社の中には戦前の「鈴木たつ」さんの作が4体くらい保管されていたように憶えています。尾張屋さんの「羽織狐」と鈴木たつさんのそれとは構図はほぼ同じですが微妙にモデリングが異なり、その最たるところは前後の厚みです。鈴木たつさんの羽織狐は信じられないくらい薄くできているんです。彩色についても基本的には似ているのですが丁寧な尾張屋さんに比べ鈴木たつさんのは殴るような速筆ですが押さえるところはツボを押さえた熟練の筆でダイナミックです。ここまでだらだら書いてきて、何が言いたいか、というと尾張屋さんと鈴木たつさんの着物をからげた下の部分「股引き」あるいは「パッチ」の彩色のことなんです。
尾張屋さんは群青と胡粉を混ぜた水色で塗り、足の甲は白く残し、草履の厚みに黄色を置いて鼻緒を描く。鈴木たつさんは墨で一気に足先まで黒く塗りつぶすという手法の違いがあるんです。写真の「玉姫稲荷」のご神職の彩色は眉毛や髭もしっかりと描いていて、「股引き」あるいは「パッチ」部分を黒く塗りつぶすという点で、鈴木たつさんのやり方を伝えているのだということが言えます。白井さんによる木地では本来の足の甲のあった部分を削ってなくしてあるのですが、それでも「玉姫」のご神職は昔式に塗ろうとしているんですね。

3枚目の画像は掲載されているイラストによる全国の郷土玩具の分布地図の一部で、おそらく拙作の羽織狐を描いてくださっているんだと思います。ケチをつけるのではないんですが、着物をからげた下は水色で「股引き」として塗り分けるのを忘れたか、それとも白井さんの羽織狐と混同されているかということなんです。(2枚目の画像には薄いですが水色に塗ってあります。)白井さんの羽織狐は昭和40年代頃のものから既に足の甲の出っ張りは削って省略してあり、足全体を白く塗り残してあるのです。(つまり下には何も履いていない。草履も履いていない。赤い点々は鼻緒ではなくて爪のつもりの表現?)戦前までの羽織狐の場合、尾張屋さんでも鈴木たつさんでも色は違っても下には「股引き」「パッチ」を履いているものだという認識で彩色されてきたんです。それが江戸明治以来の今戸人形の配色の常識のひとつだったのだと思います。ちなみに白井さんの羽織狐は眉毛も髭もなく、鼻と口の部分は一点の赤でまとめています。こうした鼻と口の描き方というのは「鉄砲狐」とか「狐馬」の狐などには昔からされている「省略としての」やり方ではあるんですが、羽織狐に関しては尾張屋さんも鈴木たつさんも鼻腔と口とを描き分けているんです。この点も「玉姫稲荷」のご神職は守っていらっしゃるんですね。見開きの画像に戻って、左のページの上段の鉄砲狐も拙作の浅草神社(三社様)裏の「被官稲荷」(被官さま)のものをとりあげてくださっています。どうもありがとうございます。

「はじめましての郷土玩具」(甲斐みのり 著)
グラフィック社 定価(本体¥1600+税)


今戸人形「口入稲荷狐・羽織狐」(尾張屋春吉翁 作)→

今戸人形「口入稲荷狐・羽織狐」(鈴木たつ 作)→

 

 

 

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