水上陽平流の表現でいろいろな事を書いています。本館は http://iiki.desu.jp/ 「氣の空間」
カルテ番号 わ・9（42）
今の日本の長寿族のリーダーは愛田恵子がふさわしい。
その自由さ、奔放さ、こだわりの無さは見本だ。
決して縛らないし、縛られない。
鋭く口を挟むのは、極たまに、でいいのだ。
組織を作らない生き方も重要な指摘だ。
組織にしたら、滅亡しやすい。
多種多様だからこそ、生命は存続できる。
「また女性ね。
今度はどんな能力があるのか、楽しみだわ。
少しは土産話もあるわよ。
じゃぁね～」
いつものように、勝手に話して電話を切った。
愛田恵子が海外にいるのは、日本が危ないからでもある。
帰国するなら、まだ大丈夫ということでもある。
今、陽水の関係者は幾つかの準備をしている。
日本の異変に対応するグループだ。
研究者と経営者のグループ。
僧侶のグループ。
そして、最近更に力をつけた長寿族の柳玲香のグループ。
そこに属している、長寿族の吉永百合。
そして、今回の渡部洋子。
何処に、どう結びつくのだろうか。
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カルテ番号 わ・9（41）
この言葉に風間陽水はハッとさせられた。
陽水は自分の役目、特性に疑問を感じていたのだ。
氣という手段をするとはいえ、特別な治療師ではない。
難しい病に向き合うが、驚異的な回復ばかりではない。
奇跡とは思わないが、そのような事もいつも起きるわけではない。
長寿族としては、不良品の特性かと思っていた。
愛田恵子の指摘は腑に落ちる。
気功治療は人を集め、結びつける手段。
すると、風間陽水がヨガを学んだ理由も解る。
ヨガとは「結び」という意味なのだ。
治療家として、更に１０倍の能力が欲しいと思っていた。
気功治療の故御師匠様に近づきたいと思っていた。
だが、２０年過ぎても、思うように能力は伸びない。
ある目的を持った人同士を結びつける。
陽水が結びつけるわけではない。
主体になる役目も苦手だった。
陽水が縁の中心となり、勝手に結びついていく。
必要な人同士が自動的に結びつく。
数百年間に幾つものグループ、組織が出来上がるだろう。
それならば、長寿族としての役目になる。
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カルテ番号 わ・9（40）
愛田恵子は今ヨーロッパだという。
近々帰国するという連絡だ。
だが、愛田恵子の直観はやはりすごい。
「センセー、誰かもう一人くらい集まった？」
風間陽水も苦笑いするより仕様がない。
「どうしてわかるのですか？
全く愛田さんには敵わないなぁ」
発動間近とはいえ、渡部洋子は普通人だ。
離れていて判るはずがないのだ。
それが愛田恵子には判る。
風間陽水には無い能力だ。
もっとも、風間陽水は人にあまり興味がない。
縁が出来た人だけ付き合う。
基本的には人嫌いの部類だろう。
愛田恵子はそんな陽水の心情にはお構い無しだ。
「センセー、アタシ考えたの、センセーの能力。
センセーは氣で治療する回復能力が特性だと思っているでしょ。
でも、それは副効果みたいなものかもしれないよ。
センセーは磁石なんだと思う。
ある役目の人を集めてしまう。
長寿族に限らず、ね」
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カルテ番号 わ・9（39）
愛田恵子の国際電話は、まさにその直感からだろう。
そして愛田恵子の特性も直観といっていいだろう。
だから周りからは、気まぐれ、ワガママな女性だと思われている。
直感で行動するような人は、誰からも理解されない。
嘗て発動前の伏見の寺田屋の女主人だった頃はお登勢といった。
そして、坂本龍馬という傑物に出会い、心魅かれた。
その坂本龍馬も直観で行動するタイプだった。
その言葉がある。
世の人は 我をなんとも 云わば云え 我が成すことは 我のみぞ知る
こういうタイプが理解されないのは仕方ないことなのだ。
理解されなくても認める人達はいる。
理解する事と認める事は別なのだ。
理解は理という共通認識が必要だが、認めるのは理屈ではない。
解らなくても、好きにはなれる。
不明でも、愛する事はできる。
むしろ、理解にこだわると争いに発展する。
解らなくてもいいのだ。
そして、認める、愛するは、平和につながる。
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カルテ番号 わ・9（38）
愛田恵子も長寿族としては、長老ではない。
まだ２００歳にもなっていないのだ。
長寿族は８００歳から１０００歳は生きるようだ。
それでも風間陽水の周りでは、最長老となる。
陽水も発動して間もないが、愛田恵子は一目置いている。
何よりも、気が合うのだ。
二人でよく長寿族について話し合った。
そこで、どうやら長寿族には個々の能力があるようだ。
その能力が長く生きていく上での助けともなる。
使い方を間違えると自滅の道にもなる。
魔女狩りは中世だけではないのだ。
現代も目立てば対象となる。
人類には異能に嫉妬し壊滅させる癖がある。
愛田恵子と風間陽水は自然に他の長寿族を守る立場となった。
集まった長寿族は発動したばかりだったからだ。
そして、陽水を除くと皆女性だった。
二人は、いろいろ推測しながら、今後を話し合った。
推測といえども、普通人の推測とは違う。
長寿族は直観が優れているのだ。
そうでなくては、時代を生き延びられない。
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カルテ番号 わ・9（37）
人間の存続を応援する立場の長寿族。
だが、長寿族は遺伝しない。
というよりも、子孫を残せないようだ。
おおよそ４６歳で長寿族の身体になる。
それを発動という。
誰に起こるかわからないのだ。
最初からのDNAではなく、発動してDNAが変わる。
何もなければ長寿だ。
回復力は通常の人類よりも強いが、特別ではない。
病にもなるし、怪我もする。
精神的に強いわけではないから、悩みも普通にある。
長く生きている間に、意識が広がるだけだ。
それでも幾つか特徴もある。
陽水などよりも長く生きている愛田恵子の話だ。
他の長寿族とは、磁石の同極同士のような感覚がある。
だから、長寿族同士はお互いを同族だと認識する。
その上で、近づくことはない。
それが、風間陽水の周りで異変となった。
まるで、磁石に吸い寄せられる鉄のようだ。
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カルテ番号 わ・9（36）
風間陽水よりも１２０歳上の愛田恵子。
長寿族として陽水にいろいろ教えてくれた。
だが、愛田恵子も解らない事だらけだった。
元々長寿族同士は交流しない。
遺伝子か何かが交流しないようにしているようだ。
それは、分散する事で長寿族を絶えさせない仕組みだろう。
ところが、陽水と愛田恵子は交流した。
珍しい現象だが、最近、もっと珍しい事が起きた。
風間陽水の周りに、更に二人の長寿族が集まった。
これは、何らかの異変があるからだろう。
必要になったからだろう。
長寿族の存在意味は、地球上の生物の存続に関係している。
様々な種に、それぞれの長寿族が存在する事がわかっている。
人間の愛田恵子や風間陽水は、人間の存続に関係するわけだ。
そして、世界には多数の長寿族がいる。
日本人の陽水達は、日本に異変が近いうちに起きるとみている。
長寿族は、ただ長寿ではなく、何らかの能力がある。
その一人に、予知に優れた人がいる。
吉永百合だ。
最近になって、風間陽水の治療院で目覚めたのだ。
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カルテ番号 わ・9（35）
一週間の間に、洋子は食事に３度誘われた。
社内と取引関係の男性からだ。
少しも心が魅かれなかった。
心はあの院長のところだった。
そして、待ちに待った休日になった。
洋子はワクワクしたまま、車を走らせた。
急展開があったのは渡部洋子だけではなかった。
風間陽水にも展開があった。
いつもの、といえばそれまでだが・・・
「センセー、元気～」
愛田恵子が海外から連絡してきたのだ。
長寿族は、一定の場所にいつまでもいられない。
同じ顔で幾十年もいたら不信がられる。
愛田恵子は、銀座のママとして４０年以上になる。
昔からの人達からは、ママは化物だと揶揄される。
愛田恵子もそれなりに、老けメイクなどしているが限界だろう。
そこで、海外で結婚する、という計画になった。
その後も国を幾つかまたいで経歴や身元を変える。
そして、３０歳代の日系人として日本に戻るつもりだった。
オンナは怖い・・・
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カルテ番号 わ・9（34）
洋子は帰り道、院長の最後の言葉を思い出していた。
特別な内容の話とは何だろう。
特別な関係になるのだろうか？
３０歳前で失恋してから、恋人はいなかった。
突発的な男女関係もなかった。
３３歳からの夢があり、今は３７歳。
そして今日、生まれ変わった気分だった。
生命力が活性している実感がある。
すると今まで忘れていた、男女関係を意識する。
まさか、あの先生と・・・
冷静に考えると、そんな雰囲気ではなかった。
何か、別の大切な話があるのだろう。
何であろうと、あの先生についていきたい。
渡部洋子の次の一週間は、とても幸せだった。
頭が重くない。
薬を飲む事も忘れていたのに、夜もよく眠れる。
朝の目覚めがいい。
会社の仕事がはかどる。
会社の同僚達の驚きの目も気にならなくなった。
洋子が、あまりに変わったからだ。
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カルテ番号 わ・9（33）
洋子は本当に明るくなった。
陰をまとっていたから、注目されないタイプだった。
女性は誰でも明るくなるだけで美人になる。
元々が美人の類でもあった。
それが一気に華開いた。
まるで別人のようになっていた。
「先生、今日はありがとうございました。
来週も予約お願いできますか？
ここに、先生のところに通いたいのです」
洋子は言葉に精一杯の想いを乗せて言った。
まるで疑似恋心とでもいうのだろうか。
異性としてではないが、やっと逢えた相手だと思っていた。
院長は優しく、親しげに言った。
「はい、お待ちしています。
その時は、また別のお話しがあります。
少し特別な内容になると思います。
そういう出来事を覚悟、あるいは期待していらして下さい。
多分、渡部さんなら受け入れてもらえると思っています。
渡部さんが今感じている事と関係あると思いますから」
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