カルテ番号 な・10（12）
夫婦にとって優先は心ではない、と言ったばかりではないか。
そんな顔の千代を見て、院長は少し笑った。
「さっきもいいましたが、夫婦は赤の他人です。
赤の他人が長い間を同じ空間で暮らすわけです。
当然、いろいろな違いが出ます。
意識や生活環境、価値観、性格、全て違う二人です。
時には衝突もするでしょう」
千代は黙って聞いていた。
「でも結婚は長く生活を共にする契約です。
そこで鍵となるのが、和という方法です。
和というと、お互いに理解しあってすると思われがちです。
ですが、理解ではないのです。
お互いが異なっています。
それを理解し合うなどというのは、とても難しいことです」
更に話は続く。
「暮らしていれば、難しい事や辛い事など、勝手にやってきます。
なにも自分で難しい事を作って増やすなど、しない方がいいです。
だから、無理に理解などしない方が暮らしやすいのです。
解らなくていいのです。
それでも生活はできます。
異なっているのは、お互い様なのです。
そして、この世の全てが異なっているモノ同士が集まった世界にいます」
（登場する人物・組織・その他はフィックションです）
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