伊勢すずめのすずろある記

伊勢雀の漫歩…。
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五ヶ所湾周辺・地学の見どころ

2010年09月01日 | 伊勢志摩~奥伊勢のフィールド・ワーク

波の静かな五ケ所湾(迫間浦付近)

概 説

 度会郡南伊勢町の五ヶ所地方は、急峻な壮年期の山地が海に迫り、楓の葉のように深く入り組んだリアス式の湾入を呈する海岸地形が展開し、奥志摩特有の風光明媚な景観を見せている。地質構造も、仏像構造線が湾を東北東から西南西にかけて横切る関係上、 極めて複雑であり、古生界と中生界とが断層で接し合い、蛇紋岩等の貫入を伴う大規模な構造線(安楽島-五ヶ所構造線)の露頭も各地に出現する。この蛇紋岩体に近接する飯満の滑石脈をはじめ、岩体中には炭酸塩や珪酸塩鉱物の単純鉱脈や優白質複合脈が見られ、多数種の鉱物が産する。

 また、動・植物の化石も産し、泉川上流をはじめ、五ヶ所小学校付近や野添、ワンバ等において採集することが出来る。

 当地へは、志摩市から続く国道260号線と、広域農道であるサニー道路が伊勢市の南方から通じているが、古来山越え道であった剣峠や切り原越えの険しいルートもある。これらの各道路を山地へと辿ると、Ⅴ字谷に懸かる小滝や渓流、洞窟(鍾乳洞・他)などの侵食地形を見学することができる。又、海岸にも各所にスケールの大きな海食地形や堆積地形が連なり、変化に富んだ地学のフィールド・ワークを色々と楽しむことができる。

見学地の解説

  1. 切原の白滝

    切原の白滝 五ヶ所浦から五ヶ所川の右岸に沿って遡り、切原の村落を経て剣峠に至る県道を辿ると、約4㎞の地点に分岐路がある。ここに道標があり「剣峠へ5㎞、白滝へ1.5㎞」と表示されている。右折し、約400m進むと、又分岐路があり、「白滝-大広山自然歩道」の案内板がある。道はここから舗装道路となり、すぐ右に「しらたきはし」があり、橋を渡って300mほど進むと、「白滝」と刻まれた花崗岩の標石のある場所に出る。この道路の右下の小谷に白滝があり、道路際から続く小径を約50m下れば滝に至る。

     滝は不動尊を祀ることから、別名「不動滝」とも呼ばれているが、褶曲構造を伴うチャート層に懸かる構造性(断層)の滝で、高さ(落差)は約15m、造瀑岩の滝幅は約2mで、瀑頂部は節理や裂罅(れっか)に支配され、数段の階段状になっている。滝壺は長径約7m、短径約5mの勾玉形で、深さは通常で1m程度であるが、底が小礫で埋まっている。造瀑岩の一部には、断層に伴うスリッケンサイド(鏡肌)が観察される。

     なお、当地はせせらぎの響く閑寂な谷間で、滝めぐりの遊歩道やベンチが設置され、小じんまりした自然公園となっている。

  2. 愛洲(あいす)の郷

     愛洲の郷は、五ヶ所浦の町の背後にある、中世の山城の城址を中心に整備された遺跡公園である。五ヶ所川の渓流河畔の小山に、戦国の豪族武将愛洲移香斎(1452年生まれ、陰流の剣祖)を祀る顕彰碑が建立してあり、散策のための遊歩道が設備されている。

    愛洲の郷の素掘りの水濠 当地は自然環境に富んだ里山で、湧泉やトンネル状に穿たれた水濠も往時のままに保存されていて、昔ながらの土木技術の高さを見ることができる場所でもある。麓の一角には水車小屋や休息の為の東屋等が建造され、 町外れの閑寂な探勝地となっている。

  3. 泉川上流の地層と化石

     南勢町泉の村落から、北東に分け入る泉川の流れを遡った上流部には、志摩半島の中・南部を特徴づける複雑な地質構造を示す秩父塁帯(中帯に相当)の中・古生界が分布する。当地には、一般走向にほぼ沿って流下する小渓流の河道とともに、右岸沿いに農道があり、これを進むと川床や道路際の崖等に露頭が見られ、複雑にアバットする各地層や蛇紋岩体の貫入を観察し、追跡することができる。

     このルートは、地層の見学や地質構造の研究に大変よいコースであり、化石も採集できる。特に、鳥羽市の青峰山から安楽島海岸にかけての地域で顕著な、中生代の地層が古生界に介在するサンドウィッチ構造(メランジュ)や、縦走断層群等が判読でき、既に早稲田大学の坂幸恭教授らの詳細な研究が成されている。当地で観察される地層や岩体は、南部より四万十塁帯的矢層群のフィリッシュ型互層に始まり、秩父層群の各古生層、南勢層群(下部白亜系)、今浦層群(上部ジュラ系)、准片岩類、蛇紋岩体等である。又、注意深く見て行けば捕獲岩や捕獲礫、級化層理、漣痕、生痕等、特殊な地質現象や堆積構造も観察できる。 

     なお、中生界(南勢層群・今浦層群)の一部からは、六射サンゴ、層孔虫、二枚貝、巻貝、三角貝、シダ植物等、動植物の化石が産し、幾つかの露頭で採集することができる。

  4. 船越の石灰山

     南勢町船越背後の山中には、かつて石灰岩を採掘した石灰山がある。ここは村落の北西約1㎞の地山(じやま)で、荒れるままに放置されているが、秩父層群(古生界)の石灰岩塊の割れ目等に、幅数㎝の方解石の分泌脈が見られる。偽晶洞を成す空隙部分には、黄土色の粘土が詰まり、菱面体をはじめとする様々な結晶形態(晶癖)を示すき無色透明のきれいな結晶を産する。

     また、一部に奥行き10mほど入れる鍾乳洞があり、ごく小規模なつらら石や石筍等を目にすることができる。

  5. 押渕白滝と鬼ヶ城

     押渕村落南西の山地には、切原に似た白滝があり、散策する小道がついている。付近一帯は暖地性シダ植物の群生地でもあり、三重県では唯一の構造洞窟である「鬼ヶ城」とともに、ちょっとしたこの地方の名所となっている。

     白滝へは、道方(旧南島町)に至る国道260号線から分岐し、村落に入る旧道をとる。道は三浦峠の上り口の所で再度分岐するが、右下の在所道を辿り、途中、小橋を渡って左折し、小川の左岸沿いに進むと、旧道の分岐点より約700mの地点に白い鳥居があり、白滝権現の参道に至る。参道と言っても細い山径で、小川を渡り竹薮を越えて、およそ300m進むと、滝壺のある高さ数m程の白滝にたどり着く。

     鬼ヶ城は、この東隣りの小谷にあり、白滝からは岩場を越えて回る山径がついているが、参道入り口から辿る別ルートもあり、鳥居からは約200mの至近距離に位置する。この小谷は古生界のチャート層の裂罅を侵食した亀裂の目くら谷で、洞窟は細長く薄暗い谷の奥にある。洞口の幅は約6m、天井の高さは約3mで、蒲鉾型に開口した入り口部分のスペースは約6坪(20平方m)ほどで、奥行きは細まった部分も含めても約10m程度。周囲には複雑な節理と横臥褶曲を伴う層状チャートが岩盤や露岩を成して露出し、この洞窟が裂罅性の構造洞窟であることを示す。谷には落差数mの小滝も懸かっている。

     なお、山肌に露岩を並べ、屈曲の激しい尾根を持つ当地の峻険な山地は、秩父層群のぶ厚い層状チャートが褶曲した山塊を成すものであり、西方の旧南島町能見坂へと続いている。

  6. 相賀浦(おうかうら)の陸繋砂州

     五ヶ所湾の先端、相賀浦のニワ浜は、海浜距離わずか1㎞程であるが、三重県下では一番見事な陸繋砂州からできている。礫浜海岸を成す汀線付近には、微地形であるビーチカスプが発達する。天橋立を彷彿するこの海浜の堆積地形は、ここから礫浦(さざらうら)に通じる道路を辿り、少し先の小高い見晴らし台に行くと、砂州によって閉塞された湾入(大池)とともに、この地形の全貌が眺望できる。(但し、ここは、現在はブッシュに覆われて見通しがきかなくなっている)

( 本稿は、昭和50年頃の原稿を元に加筆、再編集したものです )

相賀浦のニワ浜のビーチカスプ

 


相賀浦の陸繋砂州

相賀浦の陸繋砂州(りくけいさす)…今はブッシュで、この位置からは、眺められない…

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