伊勢すずめのすずろある記

伊勢雀の漫歩…。
 伊勢の山々から志摩の海までの、自然史スポット&とっておき情報など…。
  感性の趣くままに-。

「滝石」雑感 ~ 水石趣味の世界 ~

2015年02月27日 | 石のはなし

小萩産、赤鎧石の滝石 ~ 滝の高さ約7cm

 水石で素人目にもよく解る山水景石に、「滝石」がある。自然石の中に貫入した方解石脈や、石英などの白っぽい鉱物脈が、河川水等の溶食(溶解侵食)を受けて、1条~数条の滝流れの景観を呈する鑑賞石である。自然石の滝石は、水石を趣味とする人なら、ビギナーから年季の入ったプロの水石家まで、幅広く好まれる石でもある。

 その滝石にも趣きの違ったものが色々とあって、那智滝(なちのたき)のように、1条のシンプルな瀑布が見事に形成された名石から、よじれたような布引滝を彷彿するものや階段状の飛び滝、紐を垂らしたような細滝まで様々である。
 又、古谷石(ふるやいし)等のような、山水景石の谷間に滝流れや渓流を呈する、古来の銘石に付随する立派な滝石もある。このような銘石は、滝があるか無いかで随分石の価値が違ってくると言う。

彦山川産、伊勢古谷石の滝石 ~ 滝の高さ約10cm

 滝石と言っても、垂涎の的となる様な自然石の見事な超名石から、どこか造形っぽいものや、大変よく出来た造形石の低級な滝石まであり、とりわけ自採石の名石ともなると、その人ならではの「銘石」として、一生手放さないのが「滝石」でもある。各地で開かれている水石展には、山水景石の中に混じって見ごたえのする複数の滝石が、色彩石や紋様石、形象石などと供に、必ず出品されている。

小萩産、小物水石の滝石 ~ 滝の高さ約6cm

 遠景の遠山石(とおやまいし)等と対極を成す滝石は、日本全国にある数々の観光滝や名物滝、神秘に満ちた御神体を成す不動滝、等を凝縮したような自然美と供に、造瀑岩(ぞうばくがん)の岩質が良くて、落ち口から滝壺までそなわったような自然の名石ともなると、まさに天恵の秘蔵品であり、神々しく神聖な感じさえ醸し出している。
一之瀬川産、那智黒石の滝石 ~ 滝の高さ約4.5cm
 山野を跋渉し、川原や渓流において滝石らしきものに出遭うと、ギクリとするのが常である。それがたとえ鉢巻滝(別名、褌滝)であっても、思わず手にとって見立てるのである。
 根気良く川歩きをすれば、何年かに一度は美形の「お滝さん」に出遭わないとも限らない。この好奇心と射幸心の入り混じった水石探索の楽しさは、希代の名石をゲットしようものなら、本人のみぞ味わえる感無量の喜びであり、趣味の内でも格別であろう。

小萩川産、縞帯石の滝石(飛び滝)~ 滝の高さ約10cm


 当地、伊勢志摩から奥伊勢地方にかけての、滝石の産する名石谷はいくつかあるが、何と言ってもその筆頭は、採石の出来ない五十鈴川の上流である。宇治橋より上(かみ)は神宮宮域なので、木石や動植物など、自然物いっさいの採集が出来ない。趣味者にとっては、名石の宝庫ではあるが、ここは「入らずの神山」なのである。

五十鈴川産、紫雲石(化け石)の滝石 ~ 滝の高さ約4cm

 五十鈴川以外で、地元の水石家などによく知られている「滝石」の産地は、一之瀬川支流の「小萩川」である。ここの岩石は、准片岩化した輝緑凝灰岩や石灰質片岩が多いので、剥離割れしやすい難点があるが、それでも大小の方解石の貫入脈は実に豊富である。方解石の他に、石英脈や曹長石脈、時に純白の石灰岩の層状脈が、きれいな滝筋を見せている。
五十鈴川産、伊勢赤石の滝石 ~ 滝の高さ約5cm
 その他に、彦山川(一之瀬川支流)や宮川上流支流の春日谷や島谷川、藤川、唐古川(宮川支流の、大内山川のさらに支流)などに行けば、希に揚石出来ない事もないが、水石の探石者は「知る人ぞ知る」であって、中々公表されず「隠し場」が多いのが現状である。


小萩産、細滝の名石 ~ 滝の高さ約10cm

小萩川産、石灰岩の三連滝 ~ 中央の滝の高さ約8cm

五里山林道奥の小滝


  ◆ 掲載写真の滝石は、全て自採石の蒐集品です。


  

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奥伊勢、五里山の「化け蒼石」(ばけあおいし)の露頭を探る

2015年02月20日 | 石のはなし

度会町川口の、一之瀬川に架かる五里山橋

 二月に入って半ばが過ぎ、冬至の頃に比べて少し日が落ちる時間が長くなった。昨年の12月からほぼ2ヶ月が経ち、冬篭りをしていた我が輩こと「伊勢すずめ」も、やっと生気が蘇ってきた。この間、標本と蔵書の整理やら、古い家屋の修理などに追われ、ブログの更新もままならず、山野へも殆ど出ず仕舞いだった。
 外気は、まだ冬型の気圧配置がくずれず、肌寒く冷たい北西の季節風が吹きつけている。「春寒料峭」、「三寒四温」となりつつあるものの、歳のせいか寒さには閉口している毎日である。

 そんな時、大阪のI氏からメールが届き、所用で志摩に行くので、半日ほど鉱物でも水石でもよいから、当地方の産地を案内して頂けないかとのこと…。当方の都合上、平日であったが、久しぶりにフィールドへ出る機会を与えて頂いた。
 体も鈍っていたし、I氏には今月の中旬に、丹生鉱山周辺の鶏冠石の産地と、七華石の採れる藤川の川原などに御案内をさせて頂いた。

 帰りに寄った度会町の火打石林道では、少し吹雪きに出あったが、収穫はまずまずであった。ただ、この日行けなかった五里山の「化け蒼石の産地」への林道が、昨夏の大雨で崩れて以降どうなっているのか、フィールドに出た事で、その後の様子が少し気になり出した。

 そこで、少し暖かそうな好天の日を選び、車で林道に入ってみた処、崩落箇所はきれいに修復が成されていた。
 ここは、宮川に注ぐ一之瀬川右岸の山地の奥で、度会町川口の一之瀬川に架かる五里山橋を渡り、さらに支流の五里山川の渓流に沿う仮舗装の林道を3kmほど入った谷奥で、牛草山への登山口付近に当たる。林道の入口付近には、五輪堂や伊勢神宮の茅場の山があり、道は途中までは渓流の左岸を遡る一本道である。

五里山林道入り口付近の、伊勢神宮の茅場

 「化け蒼石」の産地へは、さらに源流へと分け入るが、この先は分岐路があって少し判りにくくなる。当地は川の源流付近で、小滝の滝壺手前の小狭い川床や川岸に、ここだけにしか無い、独特の緑色岩の岩盤が露頭を成している。水流に浸っているこの岩盤の表面が、実に見事なほど珊瑚状の突起に溶食されていて、ここから流れ出たと思われる手ごろな転石は、「五里山石」として、ごく一部の水石家にのみ知られている。
 鑑賞石としては、銘石の伊勢古谷石や鎧石とは全く趣きを異にする、五里山だけの絶妙の「名石」であろう。
 

渓流奥の化け蒼石の露頭

 この独特の緑青色(ろくしょういろ)をした岩石は、水石としては青石の部類であるが、外観の特異さと共に、水中と乾燥状態では色合いがかなり変化する点(水中では鮮やかな青味がかった濃緑色を示す)が違っている。その理由はよく解らない…。
 岩石名としては、 塩基性火成岩組織を残す緑色緻密な片状岩(輝岩?)で、三波川変成帯を構成する広域変成岩の一種なのだが、正式に同定はされていない。研磨面をみると、「角閃石・緑泥石・点紋片岩」と言った感じである。


この日採集した「化け蒼石」・ サイズは 7㎝~13㎝



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