形象石は、「姿石」とも言い、石全体の形状があたかも人物や動物 ( その一部や古生物、カッパなどの架空のものも含む ) 、乗り物、建物、地物、野菜、果実、履物、道具(釣鐘や瓢箪など)、創造物(仏像や雪ダルマなど)等、様々な姿や形を呈する自然石です。 数多くの水石の中でも、自然界の営力 ( 風化作用、溶食作用、地質的作用 ~ 変質・変形 等 ) によって、全く偶然に生じた奇形の自然石 ( 化け石の部類 ) と言えます。
探石行でも滅多に出会えず、偶然の遭遇でしか揚石し難い水石です。 どちらかと言えば、風化や溶食を受けやすい堆積岩類に偏よりがちですが、その限りでは無く、時には火成岩や変成岩にも見られます。
筆者も幾つかの形象石を所蔵していますが、名石として書物に紹介されるものの多くは、観音像や達磨、亀 ( 亀甲石 ) 、鳥類、魚類、船形、茅舎、灯篭、キノコ、冠、武者鎧等です。 著名な銘石の「鎧石」は、殆どが珪質岩 ( チャート ) と他の堆積岩類との互層岩で、本来は形象石になりますが、その多くは「段石」( 山水景石 ) として扱われています。
伊勢市で著名な形象石と言えば、まず五十鈴川原産の人の足形をした奇形の河床礫である「神足石」 ( しんそくせき ) があげられ、志摩地方の海浜では海水の差別的な溶食作用によって生じた漂礫の「キノコ石」があり、その他、鵜方地方の海成段丘堆積層から多産する「高師小僧」は、鉱物になりますが、正に特殊な形象石と言えます。
一旦「形象石」に凝りだすと、なぜか「干支の12種類」を集めてみたくなる傾向にあります。 自ら揚石をしたり、購入して得た形象石は、自然石の絶妙の「名石」となると、所有者はまず手放さないと思いますので、何年かかけてもなかなか思うような絶品は得られません。
今月も梅雨入りと共に月末となりましたが、筆者の所蔵品の中から、妙形の「形象石」を2~3紹介をしたいと思います。
1.七華石の「観音像」
藤川産の色彩石である横長の鰹節形の七華石を立ててみた処、「観音像」のように見えましたので、台座を彫り込み据えてみました。 高さは約18cmです。
2.狸の置物風の「姿石」
一之瀬川産の珪質岩の風化岩ですが、その中に取り込まれたような軟弱な泥質岩の箇所が腐食し、溶失の結果、狸の置物のような形状になった転石です。 高さは約12cmです。
3.とぐろを巻いたような石灰岩の蛇の頭形の「姿石」
この石は、小萩川で数年前に見つけたものですが、何気なく石灰岩の転石をひっくりかえしてみた処、まるで造形美のような蛇の頭が乗っかった様に突出していました。偶然に生じた自然の溶食作用には、ただ驚愕するばかりです。左右の横幅は約12cmです。
4.藤川産の「イチジク形」と、五十鈴川産の朝熊石の「松茸形」の形象石
いずれも握れば隠れる程の、長さ10cm ( イチジク ) と長さ8cm ( 松茸 ) 程度の小形の転石ですが、自然の妙形には驚かされます。2石共に軽く研磨を致しました。 気長に探石を続けておれば、時にはこのような珍石に出会います。