江戸の昔より、伊勢は外宮・内宮の両大神宮が鎮座する神聖な聖地であり、国内きっての門前町の神都であった。
伊勢神宮の成立は、もっとはるかに昔であるが、伊勢への街道として東海道の日永追分(四日市市)から分岐する「参宮街道」や、同じく関町(亀山市)から分岐する「伊勢別街道」、大和(奈良)や伊賀方面からの「伊勢本街道」等が発達し、「おかげ詣り」や「伊勢講」などとして、伊勢神宮への参詣が盛んに行われてきた。
それ故、明治から昭和の戦前にかけては、江戸時代の古文書はもとより、名所図絵、地図、鳥瞰図、紀行文、日記、書き物、刷り物、絵葉書、栞、引き札、パンフレット、チラシ類に至るまで、当地を紹介した案内書や土産物用の印刷物が盛んに出版され、当時の当地の交通情報や旅館、観光地をくまなく記した貴重な資料が溢れる程あった事と思う。
筆者である我輩こと「伊勢すずめ」は、学生時代からこのような伊勢に関する書籍・文献や郷土資料などの内、戦後の伊勢には殆ど残っていないような貴重な印刷物は、目に止まれば手当たり次第いろいろと収集して来た。
いわば、かつて伊勢から「伊勢土産」や「観光記念品」として、各地に拡散した書き物や版画、資料物等を逆輸入した格好である。
全国各地の古書店や古本屋巡りも何度か行って来たし、東京の幾つかの古書店街へも幾度か足を運び、又、大阪や京都、名古屋、岐阜市などの古書即売会には折りある毎に出向いて来た。
さらに、資料物を探しに各地の骨董屋やリサイクル・ショップ、ノミの市等へも足を運び、各古書店の出す古書目録にも目を通し、注文の申込みをして得たものも相当数にのぼる。
最近では、ヤフーのオークションにも目を通し、又、逆に古書・資料物などの整理・放出にも利用し出した次第である。
伊勢市立図書館の「ふるさと文庫」や三重県立図書館の「郷土図書のコーナー」などに行けば、このような古文書をはじめ、郷土史・誌類や資料文献等は殆ど網羅され、又、それらのリストもあり、かなりの書物が蔵書として収蔵されているので、申し込めば閲覧も可能である。
しかし、家に居ながらにして郷土についての様々な情報を得たり、伊勢についての調べ事をするには、それらが座右にあった方が便利なのは言を待たない。
今年もラストの12月を迎えた今回は、「伊勢」について記された古書の中から、今となってはまず入手困難な書籍等の「稀覯本」を10冊ほど取り上げ、紹介をする事にした。
これらの原書や限定出版の初版本の中には、昭和の半ば以降になってから、復刻出版や再版された書籍等も何冊かあるが、それらの価値が下がる事は無い。
1.伊勢参宮細見大全
横開きの小形の和本
宝暦13年(1763年) 芙蓉山人 著
2.伊勢参宮名所図會 巻之四(原本)
B5版(縦27cm×横19㎝)の和本
寛政9年(1797年) なはの海驢 著
全・本文は、巻之一~巻之五と附録より成る。この内「巻之四」が、ほぼ伊勢市内についての記述となっている。
昭和4年に、日本随筆大成刊行會から「日本図會全集 伊勢参宮名所図會」として、現代仮名遣いに改められた復刻版(A5版)が発行された。本書はその後、平成年代に入ってからも再版されている。
3.伊勢参宮 道中獨案内
横開きの小形の和本
明治22年(1889年) 編纂者 大矢剱居
4.神都名勝誌 巻一上・巻一下・巻二~巻六(7冊セットの原本)
B5版(縦26.4cm×横19㎝)の和本
明治22年(1889年) 編輯・發行・版権所有 神宮司廳
本書は、平成年代に復刻版が発行されている。
5.度會郡誌 完
B6版。本文103頁、他
明治30年(1897年) 著作者 小川稠吉
当時の度会郡は、概ね現在の伊勢市に相当する。
6.伊勢名勝志(非売品)
縦23cm×横15.3㎝ の和本。全 140頁
明治37年(1904年) 著者 宮内默藏。發行所 好古社事務所(東京市京橋區)
初版は明治22年(1889年)で、發行は川島九衛門。
昭和49(1974年)に、三重県郷土資料刊行会から復刻版(三重県郷土資料叢書 第67集・B6版)が刊行されているが、会員実費配布の限定出版である。
7.両宮案内
A5版。本文46頁、他
大正2年(1913年) 編者 川原松聲。發行所 岡田商店(宇治山田市内宮前)
8.伊勢神宮誌
縦長の准新書版(20.3cm×11.1cm)。本文44頁、他
大正15年(1926年) 著者 鈴木暢幸。
發行所 敬神圖書出版社(宇治山田市古市町) 定價 金弐拾錢
9.茶話みやげ 伊勢山田
B6版。本文292頁、他
昭和8年(1933年) 著者兼發行者 中田政吉。
發賣所 中田書房(宇治山田市本町) 定價 金壹圓
本書は、個人出版の自家発行本である。
10.お伊勢さん
B6版。本文84頁、他
編集兼発行者 伊勢市観光課(発行年の記載は無いが、本書は昭和30年代前半の刊行書)
本書の原書本は、昭和20年代の後半に宇治山田市観光課から発行されている。