伊勢すずめのすずろある記

伊勢雀の漫歩…。
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  感性の趣くままに-。

2016年がスタート ~ 新年の元旦に「横輪川」を歩く…。

2016年01月03日 | 伊勢志摩~奥伊勢のフィールド・ワーク

雨淵川の土手から眺めた、小橋の架かる横輪川


 2015年の大晦日が過ぎ、穏やかな冬日和の新年の元旦を迎えた。伊勢市の町街地は、外宮前以外は車の数も少なく、御幸道路を行き交う人もまばらで、ひっそりとした静かな正月である。
 高速道路で初詣に来る来勢の車を、2箇所ある伊勢インターが市街地への進入を全てシャット・アウトしているので、市内を行き交うのは、外宮~内宮間の循環バス等とタクシーだけである。

 いつものように、午前中は年賀状の返事を書いた。殆ど交流の無いやり取りだけの方には、翌年のご容赦をお願いして年々減らしているのだが、それでも数十枚は配達される。その内の約半数は、返事を書かなくてはならない。毎年ながら、半日は費やしてしまう。閉口極まりない元旦の重労働だ。
 来年は半分以下に減らそうと、毎年のように思うのだが…。


 外気は少し冷たいものの、風も殆ど無く快晴ゆえに、午後は去年から気になっていた「横輪川」を歩いてみることにした。
 横輪と言えば、かつては伊勢市南方の平家谷入り口のこじんまりした山里であったが、戦後は横輪町となり、平成になってからは幹線道路が整備され、この地に山村と都市部との交流施設の「風輪」が出来、活性化委員会によって町興こし事業が始まってから、今年は丁度10年目になる。
「風輪」には、常時、町興し歌(横輪桜音頭、等)が流れ、春に咲く美しい大輪の「横輪桜」が花見の名所となり、夏の蛍狩りや秋の紅葉、冬の横輪風…。さらに特産の滋養に富む「横輪芋」が希少ブランド商品となって広まり、当地ゆかりの演歌歌手「中西りえ」さんの活躍もあって、今では伊勢ならではの鄙びた観光スポットとして、全国に知れわたるまでになった。
 このように、時代の流れに乗って発展を遂げた過疎地の成功例は、全国広しと言えども数少ないであろう


サニーロード沿い(横輪町)を流れる横輪川の渓流


 さて、横輪川は、平家谷最奥の床の木(矢持町)付近の急峻な山地に源流を発し、幾つかの支流を従え、蛇行しながら山峡を下って、伊勢市津村町と円座町の境付近で宮川に合流する。東西の全長約15km程の、流域の狭小な渓流に富む谷川である。
 この河川の落合付近から1km程先の上野町までは、数年前に流路の護岸工事が成された為、河川改修の跡が真新しく、川に架かかる旧道の馬渕橋もきれいになり、拡幅されたバイパス道路の船戸橋も大変立派である。


船戸橋横の水門から眺めた、宮川と横輪川の合流地点


 横輪川は、中央構造線以南の西南日本外帯の秩父累帯から、三波川変成帯にかけての山地を、抉るように穿入蛇行して流れているが、中流と言えるような流れは殆ど無く、上流から上野町界隈まではⅤ字谷を成し、そこから河口付近までが僅かに河岸段丘や氾濫原となっている。この川は、上流までずっと右岸に沿って道路が通じているので、入川は比較的容易である。

 横輪川は、転石を成す岩石の種類もかなり豊富である。上流の渓流に行くと、鎧石系の赤・白のチャートや紫雲石、伊勢古谷石などを形成する輝緑凝灰岩、並びに泥質岩(頁岩、粘板岩、等)や砂岩、硬砂岩、石灰岩など、中~古生層由来の殆どの堆積岩があり、方解石脈なども入り組み、鎧石や伊勢赤石を筆頭に、山水景の優れた遠山石や滝石、段石、梅林石の他、奇抜な奇形石(化け石)など、数々の名石を産し、横輪町にはこれらの絶品を集めた愛石家が複数みえる。


コンクリートの小橋の架かる、上野町付近の横輪川


 この日は元日の午後でもあり、上流には入らずに、上野町の沼木中学校の裏手あたりを歩く事にした。ここにはコンクリートを渡しただけの小橋があり、水も枯れていて降り易い。すぐそばに、田畑を潤す小川ほどの雨淵川が合流している。
 少し歩くと、流れが全く無くなり川床が干上がっていた。幅10数mしかない川の右岸は、かなり広い竹藪で、川岸の土砂が抉られ根がむき出しになっている。左岸は日本特殊陶業の工場の裏手で、基盤を成す蛇紋岩の露頭が崖を成して続く。川床の各所に蛇紋岩の岩塊や、現地性のその転石がごろごろと散乱している。
 ここの蛇紋岩は、三波川変成帯に岩床状に貫入していて、残丘のような小山を形成している。少し先のサニーロード沿いには、かつてバラストを生産していた円座採石場があって、方解石や蛇紋石、滑石、透輝石、石綿、クロム雲母、黄鉄鉱、磁鉄鉱、灰鉄柘榴石、セピオライト等の鉱物が採集出来た。


横輪川左岸の蛇紋岩の露頭 ~ 日本特殊陶業の工場裏の崖


横輪川の川床に散乱する、方解石脈を含む蛇紋岩の岩塊 ~ 径約80cm


 川床に散乱する蛇紋岩塊の中には、方解石の細脈が入り組み、「蛇灰岩」とした方がふさわしいような岩石もある。岩質は軟らかいが、研磨面は実にきれいな岩石である。
 ここは、先に記した古生層の堆積岩類と共に、三波川変成帯の結晶片岩(主に緑色片岩、他に滑石片岩、石墨片岩、等)や、緑色緻密な角閃岩が卓越するが、結構恰好の良い蛇紋岩の滝石も揚石出来る場所だ。
 それに、蛇紋岩には磁鉄鉱が含まれている他、黄銅鉱や黄鉄鉱の鉱染もあり、希に珪ニッケル鉱も伴なっている。無論、繊維状蛇紋石やその石綿化した風化石、並びに滑石もある。
 他には、斑糲岩中の異剥石やソーシュール石、角閃岩に貫入した曹長石-緑簾石脈中の晶腺に、それらの自形結晶粒が見られるし、石英脈にもごく微細な水晶がキラキラしている事がある。時には、二酸化マンガン鉱も転石として転がっている。


上野町の在所を迂回して流れる、干上がった冬枯れの横輪川


 左岸の蛇紋岩の露頭が切れるあたりで、川は大きく左手にカーブし、上野町の在所を迂回するように蛇行するが、この先は直線となり、左右に冬枯れの雑木林を見ながら、500mほど転石の転がる水無しの川床が続く。
 この日の探石は500m程歩いて来た、このカーブを少し回ったあたりまでにし、太陽を背に引き返しながら丹念に探石を試みた。その甲斐あってか、ちょっとした蛇紋岩の滝石など3個と、方解石の溶食した感じの良い奇形石1個をゲットするに至った。


揚石した蛇紋岩の滝石・その1~ 左右幅約13cm


揚石した蛇紋岩の滝石・その2~ 左右幅約15cm


蛇紋岩と方解石のミックスした、見栄えのする奇形石 ~ 左右幅約15cm

コメント
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