伊勢すずめのすずろある記

伊勢雀の漫歩…。
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伊勢志摩国立公園の鉱産地について

2020年04月27日 | 伊勢志摩~奥伊勢のフィールド・ワーク


五十鈴トンネルの入口付近にある 「水晶谷」(右端) と 「西行谷」(左端)


上載写真右端の 「水晶谷」( 正式名は 「施餓鬼谷」 )

 伊勢志摩国立公園は、昭和21年に制定された風光明媚な海景と、魚貝類の豊富な海の国立公園である。 主な観光地としては、伊勢神宮 ( 外宮 ・ 内宮 )、二見ヶ浦 ( 夫婦岩 )、鳥羽湾、英虞湾 ( 賢島 ) 等であるが、それ以外にも見るべき観光スポットは数多くある。

 地形的には、大台ケ原山より続く紀伊山地の東北端であり、リアス式海岸や有湾台地に富む志摩半島を含み、その東端に突き出した大王崎によって、太平洋が遠州灘と熊野灘に分かれている。
 又、伊勢湾口の南岸に位置する鳥羽湾は、二条の島列より成る多島海を形成し、隣接の二見ヶ浦から西方は伊勢湾の南岸となり、遠浅の砂浜海岸が宮川の河口へと続いている。

 当地の地質を見ると、殆どが西南日本外帯地質区に属し、北方より三波川変成帯、秩父塁帯、四万十塁帯、そして四万十塁帯の中生代の地層 ( 的矢層群 ) を被覆する海成段丘堆積層 ( 鵜方層 ) より成り立っている。
 段丘堆積層を除く、壮年期の山地を構成する各地層は、地質時代を通して海洋プレート ( フィリピン海プレート )が日本列島を載せる大陸プレート ( アジアプレート ) に沈み込む際に、海底の堆積物等が付加体として突き上げられた形状の、概ね北方に急斜する複雑な褶曲や、大 ・ 小の縦走断層に富む、外帯特有の地質構造を呈している。


 この伊勢志摩国立公園は、古来、他地域のようには鉱産資源に恵まれていないが、それでもかつては幾つかの中 ・ 小規模の鉱山があったし、三波川変成帯には塩基性深成火成岩体の貫入が見られ、志摩半島の最高峰を成す朝熊ヶ岳 ( 経ヶ峰 ・ 海抜555m ) を形成し、東方の鳥羽市菅島へと続いている。
 この岩体は他のゾーンにも複数あって、いずれも炭酸塩-珪酸塩鉱物の優白質複合脈状体等を頻繁に伴い、近年 「ヴァニア石」 をはじめとする、幾つかの希産鉱物が相次いで見つかっている。
鳥羽市白木産の希産鉱物 「ヴァニア石」


 さらに、秩父塁帯の秩父層群 ( 主に古生代の石炭系~二畳系 ) や的矢層群 ( 中生代の白亜系 )には、各所にマンガン鉱床の胚胎が知られていて、戦前から戦後にかけて一時的ではあったが、複数の鉱山が稼行をしていた。


「浜島鉱山跡の露頭」 での採集風景 ~ 昭和50年代の巡検時に撮影


 以上のような地学環境を成す伊勢志摩国立公園の鉱産地の概要をまとめてみると、金属鉱山跡としては、以下の銅鉱山とマンガン鉱山があり、非金属鉱山としては、石灰岩を除けば、伊勢志摩国立公園のエリアから少しだけ外れるが、鉱物としては、滑石が 「石筆石」 として採掘された場所が1ヶ所だけ知られている。

昭和40年頃の鳥羽市の 「赤崎鉱山」


 ◆ 銅鉱山跡
   赤崎鉱山 ( 鳥羽市鳥羽5丁目 ) ・ 志州鉱山 ( 鳥羽市安楽島町安久志 ) ・ 水舟谷鉱山 ( 鳥羽市堅神町 )
鳥羽市志州鉱山跡産の 「孔雀石」
 ◆ マンガン鉱山跡
   鳥羽鉱山 ( 旧 加茂鉱山 ・ 鳥羽市河内町奥河内 ) ・ 三平福徳鉱山 ( 鳥羽市河内町七石 ) ・ 栗原鉱山 ( 度会郡度会町栗原 ) ・ 第二栗原鉱山 ( 度会郡度会町日向 ) ・ 鸚鵡石鉱山 ( 志摩市磯部町 ) ・ 二見恵方鉱山 ( 松下鉱山 ・ 伊勢市二見町 ) ・ 国見山鉱業 「伊勢鉱山」 ( 伊勢市矢持町菖蒲 ) ・ 浜島鉱山 ( 志摩市浜島町大崎 ) ・ 立神鉱山 ( 志摩市阿児町立神 ) ・ 畔名口鉱山 ( 仮称 ・ 志摩市阿児町畔名口 )

 ◆ 非金属鉱山跡 ( 石灰石鉱山を除く )
   滑石 ( 度会郡玉城町積良 ) ・ 岩粉 ( 石墨粉末掘り場 ・ 伊勢市前山町 ~ 既に消滅 ) ・ 硯石 (試掘場跡 ・ 鳥羽市河内町七石 )

 ◆ バラスト等の採石場 ( 跡 )
   鶴田石材 ( 稼行中 ・ 鳥羽市菅島町 ) ・ 丸又鉱業 ( 稼行中 ・ 鳥羽市白木町 ) ・ 丸慶庭石 ( 稼行中 ・ 度会郡南伊勢町河内 ) ・ 円座採石場跡 ( 現在は中勢産業の産廃処理場 ・ 伊勢市円座町 ) ・ 元 新谷土建の土砂採り場跡 ( 伊勢市辻久留三丁目 )


鳥羽市菅島町、鶴田石材採石場産の 「含クロム灰礬石榴石」

伊勢市円座採石場産の 「透輝石」
 

 概ね以上ですが、マンガン坑跡は試掘坑も含めて他に数ヶ所あります。 石灰石鉱山は、南伊勢町 ( 旧 南島町 ) 村山で国見山鉱山が大々的に稼行中ですし、小規模ながら、伊勢志摩国立公園内の各地に石灰山 (石灰窯を含む ) の跡地がかなり残存しています。
 それゆえ、方解石、並びに鍾乳石等のこれらの産地は、以下の 「その他の鉱産地」 のリストには割愛を致しました。


伊勢市高麗広の 「水晶の産地」

上載産地のチャート中の 「水晶の晶腺」


 ◆ その他の鉱産地

   伊勢市朝熊山 ( 異剥石 ・ 蛇紋石 ・ 武石 ・ 石綿 ・ 水苦土石 ・ 曹長石 ・ ソーダ珪灰石 ・ 緑簾石 ・ 磁鉄鉱 ・ 珪ニッケル鉱、他 )
   伊勢市宇治館町、通称 「水晶谷」 ( 方解石 ・ 霰石 ・ 蛇紋石 ・ 異剥石 ・ ジュエイ石 ・ パイロオゥロ石 ・ 磁鉄鉱、他 )
   伊勢市宇治館町、西行谷 ( 方解石 ・ 霰石 ・ 蛇紋石 ・ ジュエイ石 ・ サポー石、他 )
   伊勢市二見町、立石崎 ~ 神前岬海岸 ( 緑泥石 ・ 緑簾石 ・ 藍閃石 ・ 曹長石 ・ 葡萄石 ・ パンペリー石 ・ スチルプノメレーン ・ 赤鉄鉱 ・ 磁鉄鉱、他 )


伊勢市大仏山公園産の 「白鉄鉱質結核」

伊勢市大仏山公園産の 「琥珀」



   伊勢市大仏山公園 ( 亜炭 ・ 珪花木 ・ 琥珀 ・ 白鉄鉱質結核 ・ 褐鉄鉱 ・ 藍鉄鉱、他 )
   伊勢市浦口3丁目、旧 「白石山」 ( 褐鉄鉱 ~ この産地は消滅しています )
   伊勢市辻久留2丁目、通称 「平岩露頭」 ( 含ストロンチウム霰石、褐鉄鉱、他 )
   伊勢市上野町 ( 滑石 ・ 方解石 ・ 蛇紋石 ・ 石綿 ・ 黄鉄鉱 ・ 珪ニッケル鉱、他 )
   伊勢市矢持町 ( 鍾乳石 ・ 方解石、他 )
   伊勢市宇治今在家町高麗広 ( 水晶 ・ 玉髄 ~ 瑪瑙質石英 ・ 鉄石英 ・ 二酸化マンガン鉱、他 )
伊勢市辻久留産の 「蛋白石」

   鳥羽市船津町、鳥羽レストパーク付近 ( 黄鉄鉱 ・ 武石 ・ 緑泥石、他 )
   鳥羽市安楽島町、二地浦 ~ 砥谷海岸 ( 水晶 ・ 方解石 ・ 亜炭、他 )
   鳥羽市青峰山 ( 水晶 ・ 方解石 ・ 亜炭、他 )
   鳥羽市河内町、鳥羽河内トンネル廃石ズリ ( 黄鉄鉱 ・ 方解石 ・ 緑簾石、他 )


鳥羽市船津町産の 「黄鉄鉱」

鳥羽市安楽島町産の 「武石」



   志摩市阿児町国府、国府白浜の北崖 ( 方解石、他 )
   志摩市阿児町鵜方、志摩自動車学校付近 ( 高師小僧 ・ 褐鉄鉱、他 )
   志摩市大王町、登茂地 ( 高師小僧 ・ 褐鉄鉱、他 )
   志摩市大王町名田、大野浜 ( 瑪瑙 ~ 玉髄質石英 ・ 瑪瑙 ~ 蛋白石質石英、以上漂礫 )
   志摩市磯部町恵利原、天の岩戸付近 ( 鍾乳石 ・ 方解石 ・ 緑簾石、他 )
   志摩市磯部町逢坂峠付近 ( 方解石 ・ 鍾乳石 ・ 緑簾石 ・ 赤鉄鉱、他 )


   度会郡度会町火打石 ( 燧石 ~ 玉髄質石英 ・ 赤鉄鉱 ・ 鉄石英 ・ 碧玉、他 )
   度会郡度会町南中村付近 ( 石墨 ・ 黒玉 ~ 別名ジェット )
   度会郡南伊勢町田曽、田曽岬付近 ( 方解石 ・ 虹の石 ~ 鱗鉄鉱? )

五十鈴トンネルの工事中に産した 「晶洞を伴う霰石脈」 ~ 左右幅約35cm

上載写真の 「晶洞のアップ」 ~ 脈幅8cm 以上

上載写真の晶洞内に晶出した  「放射束球状集形の霰石」


 当地方の鉱山跡、及び採石場 ( 跡 ) を含む、上記鉱産地の産出鉱物については、これまでにこのブログに幾度か記載をしてきましたゆえ、バックナンバーにてご参照下さい。
 なお、採集の対象となるような鉱物種の殆ど産しない、幾つかの採石場跡等は省略を致しました。




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