伊勢すずめのすずろある記

伊勢雀の漫歩…。
 伊勢の山々から志摩の海までの、自然史スポット&とっておき情報など…。
  感性の趣くままに-。

日本各地の観光記念の玉石細工の「土産物工芸品」

2016年05月10日 | 石のはなし

富士山登山記念の「滑石製の土産物品」~ 昭和年代半ば頃の製品、左右幅約9.5cm」

 以前、このブログに、石で製作された土産物品について少し書いてみた事があるが(バックナンバー「石を使った観光地の土産物品」~ 2015年5月18日 参照)、その後も色々と知見を得る機会があり、再度、少しだけ紹介をする事にした。精巧な寿山石(中国の蝋石)の「楼閣山水細密彫」~ 左右幅約25.5cm
 宝飾品以外の玉石細工の工芸品をみると、材料となる原石の豊富さにおいても、有史以来培われてきた加工技術においても、多彩で精巧な中国の玉石(ぎょくせき)製品にはかなわない。


中国の蝋石細工の「三猿」~ 高さ5c~5.5m


 わが国においては、各地の遺跡や古墳から翡翠や碧玉(ジャスパー)、瑪瑙、玉髄、
赤玉石(レッド・ジャスパー)、水晶、琥珀と言った玉石類を使った勾玉や菅玉など、数々の宝飾品の遺物が出土していて、古代の石文化の繁栄とその頃の流通を垣間見るのだが、その後は中国文化の移入によって国産品が途絶えてしまい、石といえば巷の巨岩や怪石の崇拝、祭・祈祷になっていった。

 平安時代の遣唐使によって、宝飾品や石薬と共に、鑑賞石(水石)や盆石などもわが国に伝来し、公家や大名、神官や僧侶、一部の文人・墨客、茶人らの「茶の湯の文化」と相まって、少しは水石を鑑賞し愛蔵する向きはあったが、なかなか庶民には広まらなかった。
那智黒石製の「工芸灰皿」~ 横幅は大が約14cm、小が約10cm

 爾来、庶民が鉱物や岩石を身近な石製品として活用したのは、石筆石(滑石)やきらら石(白雲母)、硯石、砥石、燧石(火打石)、磨き砂ぐらいであった。むしろ、わが国の石の文化は、工芸品の発達ではなく、庶民にとっては「謂れ石」や「名物岩」などの信仰であり、民俗学的な色彩の伝承文化であった。

 明治期以来、西洋文化が怒涛となって渡来する中、舶来物の宝飾品が女性を着飾り、わが国では国産品には見られない中国製の「翡翠の鼻煙壺」~ 横幅約5cm玉石に代わって、真珠養殖の技術が三重県を発祥に全国に広まり、目覚しい躍進を遂げるに至っただけである。(但し、真珠は生体鉱物ではあるが、原石(石材)ではない。)
 玉石工芸の材料となる原石等の豊富な地方によっては、観光土産の工芸品や細工品が細々とあったようだが、各地のいろんな製品が一般に知れ渡り出回るのは、ずっと後の昭和時代の半ば以降である。


 日本列島は北から南まで、セメント等の原料鉱石となる石灰岩だけは豊富であり、唯一自給自足の出来る地下資源である。各地に分布するカルスト地帯には、現在も大小の石灰鉱山があり、地下には多くの鍾乳洞が発達している。この中の幾つかは、観光鍾乳洞として開発され、その地方きっての名所となり、四季を問わず多くの団体観光客や行楽客が訪れている。
 その観光記念の土産物品を見ると、実に多くの玉石細工の工芸品があり、地元産の石灰岩や大理石、近辺の無名鍾乳洞から採石した鍾乳石などが、外来の石材(原石)と共にかなり使用されている。
北海道土産の「十勝石」(黒曜石)のペーパー・ウェイト ~ 左の長径約6.5cm
青森土産の「青函トンネル記念石」~ 石の横幅約6.5cm


栃木県大谷町の大谷資料館謹製の「大谷石の印鑑立」~ 横幅約8cm


 以上の他、観光火山や温泉、渓谷、名勝滝、山岳地、海岸の観光地形や洞窟、観光化された遺跡公園や古墳公園、鉱山跡の遊園地(マインランド)、岩石の著名な採石場跡やその記念館(玄武洞~兵庫県、大谷資料館~栃木県、他)などで、玉石細工の土産物工芸品を見かけるが、各地の自然史博物館等においても、岩石・鉱物の標本類と共に、ローカル色のある石の土産物品が販売されている。


閉山間際に紀州鉱山の購買部で販売していた「紀州の岩石と鉱物」~ 内箱の横幅約20cm

 

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伊勢志摩~奥伊勢地方産出の玉石類と美・貴石

2016年05月04日 | 石のはなし

彦山川産の碧玉脈(研磨した美石)~ 左右幅約10cm

彦山川産の碧玉脈(研磨した加工石)~ 長さ約14cm


 伊勢志摩~奥伊勢地方から産るす玉石類の原石としては、まず、中央構造線すぐ外帯の三波川変成帯の結晶片岩類や、このゾーンに貫入した塩基性深成火成岩類(蛇紋岩など)に伴う炭酸塩鉱脈中の玉髄~玉髄質石英、蛋白石と、優白質珪酸塩脈状体等に伴う硬玉(翡翠輝石)、軟玉、硬蛇紋石、含透輝石曹長岩等がある。
 しかし、硬玉はまず肉眼では識別困難で、X線分析レベルの産出鉱物であるし、他の鉱物もとても量産とまではいかない。

朝熊山産の硬蛇紋石 ~ 長さ約5cm
一之瀬川転石の碧玉礫 ~ 左右幅約5cm


 この他には、秩父層群などに胚胎するマンガン鉱床等の母岩や脈石として産する、鉄石英や瑪瑙質石英、水晶、碧玉、フリント質チャート(燧石)があるが、これらの中で量産し、古代より利用されたのは、石器(鏃やナイフ型石器など)や燧石として用いられたフリント質チャートと蛇紋石(蛇紋岩の石斧、他)だけである。


度会町川上産の「フリント質チャート」~ 左右幅約8cm

旧・南島町河内産の「玉髄質チャート」~ 左右幅約12cm


 むろん、装飾用の玉石類としての利用例は無く、当地方の縄文・弥生遺跡や古墳などから出土する装飾品は、全て県内・外からの搬来品である。

五十鈴川転石の「瑪瑙質化した鉄石英礫」~ 左右幅約9cm

高麗広産、赤チャート中の「瑪瑙~玉髄質石英」~ 左右幅約4cm


 さらに、日本ではなじみが薄いが、石炭層に伴う珪化木やジェット(黒玉)も、西洋や中国では玉石類として扱われてきた原石である。当地方では、かつて伊勢市小俣町西方の大仏山の第三紀層から、琥珀と共に少量産した事があるに過ぎない。
 しかし、最近になって、一之瀬川の転石の中に、炭化土や石墨を含む頁岩~粘板岩があり、その中に無煙炭やジェットがある事がわかった。おそらく古生層(秩父層群)由来のものであろうと思われる。

一之瀬川転石中の「無煙炭とジェット」~ 左右幅約13cm


 美・貴石の原石となるような鉱物で、当地方から少し量産するのは、各地のマンガン鉱山の跡などから産する菱マンガン鉱とバラ輝石ぐらいであろう。花崗岩地帯に行けば、有り余るほど産する水晶や石榴石類も、当地方では小粒のものしか産しない。


栗原鉱山跡産の「インカ・ローズ」のルース ~ 長径約6cm


 美・貴石の「インカ・ローズ」の原石としてカット出来そうなものは、栗原鉱山跡産の菱マンガン鉱とバラ輝石だけであろう。先にこのブログで紹介した通り、当地の鉱石は緻密な塊鉱であるが、実にきれいなピンク色を呈している。

 石榴石については、蛇紋岩地帯から灰礬石榴石や含クロム灰礬石榴石、灰鉄石榴石、含水石榴石等が産するが、いずれも微晶粒であったり、緻密な粒塊等で、とても原石とはならない。只、鳥羽市菅島や白木産の含クロム灰礬石榴石は、米粒程度の微晶であるが、緑色でキラキラとガラス光沢を放ち大変きれいである。

 以上の他、これも既にブログで紹介したと思うが、その表面が潮かぶれで瑪瑙質化したフリント質チャートや鉄石英の小塊が、志摩地方の砂利浜に混じり、漂礫として打ちあがっている。いずれも磯波よって淘汰され、自然に磨かれたきれいな小石であり、根付ぐらいにはなりそうである。

一之瀬川産の「碧玉のルース」~ 長径約5cm


一之瀬川産の「黄色玉石を含むジャスパーのルース」~ 長径約6cm
 

 今回は、我輩がこれまでに採集した当地方の玉石類鉱物や岩石標本の中から、特にきれいな物を選び紹介した次第である。

彦山川産の碧玉脈入りの化け鎧石(研磨水石)~ 高さ約11cm

旧・南島町河内産の「赤玉石」~ 高さ約10cm

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