三重県の「伊勢志摩国立公園」とその周辺のエリアには、現行の採石場が数箇所あるだけで、大規模な鉱山跡などは無く、かつての中 ~ 小規模のマンガン鉱山跡が幾つかあるのと、鳥羽市内に3箇所の銅鉱山の跡が点在しているだけである。
その一つは、今は赤茶けた崖山であるが、戦前には坑道掘りで採掘をしていた市街地にある「赤崎鉱山」で、黄銅鉱脈の酸化帯に孔雀石と珪孔雀石がかなり多産していたが、美石として研磨できる程のものは、ごくわずかであった。
他は戦前の一時期に、やはり坑道掘りをしていた「志州鉱山」と、「水舟谷鉱山」( 鳥羽市堅神町 ) があったが、いずれも明治期に開発されたものの、銅鉱脈も貧弱で量産を見ず、僅かに孔雀石と珪孔雀石が随伴鉱物として産した程度である。
今春も5月の半ばを過ぎ、青々と新緑の芽吹く中、フィールド・ワークには絶好のシーズンとなった。 鉱物採集や水石の探石にウズウズしているのだが、新型コロナ・ウイルスの変異株の蔓延と、自動車のガソリン代の高止まりで、当地方のフィールドへの巡回も、例年のように儘にならないでいる。
そこで、今回は「伊勢志摩国立公園」とその周辺地域の美石 ・ 貴石の産地を、かつての採集標本を見ながら総点検をしてみた次第だ。
1.水 晶
鳥羽市安楽島町二地浦~砥谷海岸
鳥羽市松尾町青峰山中腹
志摩市磯部町広の谷
伊勢市宇治今在家町高麗広
度会郡南伊勢町河内 ( 丸慶石材採石場 )
2.玉 髄 ・ 蛋白石
伊勢市辻久留三丁目 ( 新谷土建の採土場 )
度会郡南伊勢町河内 ( 丸慶石材採石場 )
志摩市大王町名田 ( 大野浜 ~ 漂礫の「黄色玉石」に随伴 )
3.瑪 瑙
伊勢市宇治今在家町高麗広 ( 五十鈴川上流の転石 )
4.赤玉石 ( 鉄石英 )
鳥羽市河内町奥河内 ( 鳥羽鉱山跡 )
志摩市阿児町立神 ( 立神鉱山跡 )
伊勢市宇治今在家町高麗広
度会郡度会町栗原 ( 栗原鉱山跡 )
伊勢市宇治浦田町 ~ 中村町 ( 五十鈴川川原の転石 )
度会郡南伊勢町河内 ( 丸慶石材採石場 )
度会郡度会町火打石 ( 一之瀬川及び彦山川の転石 )
5.碧 玉 ・ 准碧玉 ( 青玉石 )
度会郡度会町栗原 ( 栗原鉱山跡 )
度会郡度会町火打石 ( 彦山川の転石 )
度会郡度会町小萩 ( 小萩川の転石 )
度会郡大紀町木屋 ( 藤川の転石 )
6.硬 玉 ( 翡翠 ・ ヒスイ輝 石 )
鳥羽市白木町 ( 丸又鉱業採石場 )
度会郡度会町火打石 ( 彦山川源流付近の露頭 ~ 未同定 )
7.軟 玉
伊勢市朝熊町 ( 朝熊山中腹 ~ 山上広苑の露頭 )
伊勢市円座町 ( 円座採石場跡 )
鳥羽市菅島町 ( 鶴田石材採石場 )
鳥羽市白木町 ( 丸又鉱業採石場 )
8.葡萄石
鳥羽市白木町 ( 藤原重機採石場 ~ 原産地消滅で絶産 )
伊勢市二見町立石崎 ( 興玉神社境内の露頭、他 )
9.孔雀石 ・ 珪孔雀石
鳥羽市鳥羽5丁目 ( 赤崎鉱山 )
鳥羽市楽島町安久志 ( 志州鉱山跡 )
鳥羽市堅神町 ( 水舟谷鉱山跡 )
10.菱マンガン鉱 ・ バラ輝石
鳥羽市河内町奥河内 ( 鳥羽鉱山跡 )
伊勢市矢持町菖蒲 ( 国見山鉱業伊勢鉱山跡 )
度会郡度会町栗原 ( 栗原鉱山跡 )
11.燐灰石
鳥羽市鳥羽5丁目 ( 赤崎鉱山 )
12.燧 石 ( フリント質チャー ト )
度会郡度会町火打石 ( 県指定の天然記念物の岩塊 )
度会郡度会町川上 ( 県道沿いの露頭 )
度会郡度会町脇出 ( 珪石鉱山跡・他 )
志摩市大王町名田 ( 大野浜 ~ 漂礫の「黄色玉石」 )
13.琥珀 ・ 珪化木 ・ ジェット ( 黒玉 )
琥 珀 伊勢市小俣町東新村 ( 県営大仏山公園 )
伊勢市二俣二丁目 ( 徳川山 )
珪化木 伊勢市小俣町東新村( 県営大仏山公園 )
伊勢市二俣二丁目 ( 徳川山 )
ジェット 伊勢市小俣町東新村 ( 県営大仏山公園 )
度会郡度会町日向 ( 一之瀬川転石中の石墨に伴有 )
以上の内、水晶は石灰岩中の割れ目に生じた「磯部町広の谷」産のハーキマー・タイプの小晶が、当地方では最高レベルの美晶です。
美石としては、「栗原鉱山跡」産の菱マンガン鉱やバラ輝石が大変きれいなピンク色を呈し、「桜マンガン石」として鑑賞用の水石になりますし、カット研磨石の原石にもなるレベルです。
他には「青玉石」(碧玉・准碧玉)脈の入った転石が、希に彦山川に産し、鑑賞石にもカット研磨石にもなりますが、他のものは鉱物標本程度に過ぎません。
なお、上記のリストには記しませんでしたが、石榴石類は「含クロム灰礬石榴石」が鶴田石材採石場 ( 鳥羽市菅島町 ) から少量産し、「灰鉄石榴石」が円座採石場 ( 伊勢市円座町 ) から稼行当時に、微粒状の結晶がごく僅かに産した程度です。