語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【詩歌】村野四郎を読む(4) ~鹿~

2015年04月28日 | 詩歌
 鹿は 森のはずれの
 夕日の中に じっと立っていた
 彼は知っていた
 小さい額が狙われているのを
 けれども 彼に
 どうすることが出来ただろう
 彼は すんなり立って
 村の方を見ていた
 生きる時間が黄金のように光る
 彼の棲家である
 大きい森の夜を背景にして

 *

 <この作品はわずか11行の短さなので、作者の力量が全的に打ちこまれているとはいえない。どちらかといえば見過ごされやすい小品である。
 それにもかかわらずこの作品には、村野四郎氏の詩的思考や表現の特色がはっきりとあらわれている。いま生と死が入れかわろうとする一瞬のあわいに、眼前の死の谷へ射ちおとされようとする瞬間に、夕陽をうけてきらめくあざやかな時間! なんのための時間のきらめきなのか。空しさそのものの価値のようなものだ。この一篇は私どもの生にひそむ一回的な最終の歎息を、自分の呼吸で吸いあげるかのように組立てられている。>【伊藤信吉「解説」(『村野四郎詩集』(思潮社、1987))】

□村野四郎「鹿」(『亡羊記』、1959)
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 【参考】
【詩歌】村野四郎を読む(3) ~さんたんたる鮟鱇~
【詩歌】村野四郎を読む(2) ~体操~
【詩歌】村野四郎を読む(1) ~飛込~

   


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