70年代に映画誌「キネマ旬報」を読んでいた人間にとって、これはいわくつきの、複雑な作品だ。
1990年の「浪人街」は、実は4回目のリメイク。オリジナルは昭和3年のもの。日本映画の父、牧野省三が製作、その息子のマキノ雅弘が監督、脚本は天才と呼ばれた山上伊太郎。リメイク版は牧野省三没後六十周年記念作品という微妙なくくりになっている。だから孫の長門裕之が特別出演。
さて、複雑な事情とは、70年代後半にキネ旬で連載していた竹中労というルポライターが
「東映よ、浪人街を再映画化しろ、脚本は笠原和夫、監督は深作欣二でなければならん!腹をくくれ!」
とアジっていたのである。しかしオトナの事情でその計画は流れ、竹中は関係者を罵倒しまくり、もっとダークな事情で当時の白井佳夫編集長は更迭される結果となった。
時は移り、いったいどうしてこのいわくつきの企画が再浮上し、しかも大作として映画化が実現したかはよくわからない。しかし監督黒木和雄、原田芳雄、石橋蓮司主演という「竜馬暗殺」チームが再結集したのはうれしい。
特に、石橋蓮司がかっこいいんですよ。ただ、剣豪である母衣(ほろ)に石橋、天文学のために会津から江戸に来た事情のある荒巻に原田芳雄という布陣は納得できても、夜鷹たちに読み書きを教える自殺願望のある赤牛に勝新太郎ってキャストはどうなの。強すぎるでしょ印象として(笑)。
樋口可南子、伊佐山ひろ子、杉田かおるなどの女優陣はわたし好み。弱点をはらみながらも、魅力的な時代劇になっている。公開当時、闘病していた竹中労がこの映画を観たかはわからない。まあ、彼のことだからどんな出来でも罵詈雑言を投げかけたことでしょうが。
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