その88「教場2」はこちら。
群馬県警を定年退職した元刑事、神場(じんば)は、妻とともに四国八十八カ所を巡るお遍路の旅に出る。彼は在職中にひとつの屈託をかかえていて、その後悔が巡礼につながる。妻も、うっすらとその事情は察している。
寺をめぐるうちに、群馬で幼女の死体が発見される。そのニュースは神場に16年前の同じような事件を否応なしに思い出させた。当時、彼らが逮捕した人物は、無実だったのではないか……
日本の警察において、退職した人間が現在進行形の捜査にどれだけコミットできるかはよくわからない。しかし16年間かかえた後悔が(かなりひねった形ではあるけれど)現実の捜査の方向性を決めていく。神場夫妻はお遍路の過程でこれまでの生活をふりかえり、そしてお遍路に“出なければならなかった”人たちとの出会いから、事件の真相に(はるかに遠い四国から)気づいていく。
要所要所で読者を泣かせる仕掛けが施してあり、これがかなり有効。実はわたしも泣きました。夫妻の娘の出自のくだりなど、わかっていてもなお、涙がこらえきれない。
しかし、「孤狼の血」でも感じたのだけれど、どうもその仕掛けがわかりやすすぎないだろうか。お遍路探偵という魅力的な設定が、あふれるほどの人情噺のためにくどくなっている気がする。
たとえば神場は、もしも16年前の事件が冤罪だとすれば、自分の財産をすべて投げだそうとまで考える。それは立派だけれども、日本の警察らしく、ここはもっとダークな解決法を模索すべきだと思ったし、それでこそ警察小説としてもう一段味わい深くなるところだとつくづく。
2016年の「本の雑誌」ベストワン。確かに、はまる人ははまると思う。まあ、わたしとて地元在住の美人作家だからめちゃめちゃ応援はしているんですが。
その90「パイルドライバー」につづく。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます