柳家喬太郎 「錦木検校 」
PART9「天と地と」はこちら。
1970年は「樅(もみ)ノ木は残った」。これまた国民作家、山本周五郎の原作。この小説を読んだときに特集したように、数多くの企みがしこんであることに呆然とした。
・一般的には悪役でとおっている人物を主人公にしたこと
・その主人公の心の奥底がなかなか見えてこないのを、悪玉のいらだちという形で明確化したこと
・樅ノ木に性的な意味も付与していたこと
ね?一筋縄ではいかない作品でした。
悪役を主役にすえるギャンブルは、しかし「花の生涯」以来、大河の伝統芸のようになっている。伊達騒動の首謀者として悪名高い原田甲斐には、市川雷蔵が予定されていたけれど、彼の死去によって平幹二朗に変更されたというのが通説になっている。はたして病魔に冒されていることが歴然としていた雷蔵を本気で起用するつもりだったかはわからない。でも、表情からまったく考えが読めない人物を演ずるとすれば、雷蔵は適役だったろうと思う。
平幹二朗の抜擢はしかし奏功した。「三匹の侍」(フジ)の虚無的な侍役ですでに人気が爆発していた彼は、この大河で実力を発揮。のちの活躍を考えれば、原田甲斐という深謀遠慮キャラはぴったりだったかも。
視聴率的にはさほどの数字は残さなかったようだけど、傑作大河という評価はかたまっているみたい。
悪役、伊達兵部に佐藤慶、そのバックにいる酒井雅楽頭に北大路欣也。ちなみにこの酒井雅楽頭、落語の世界では「三味線栗毛」、そこの一部をピックアップした「錦木検校」(柳家喬太郎のが絶品!)の登場人物なので、この描かれ方はうれしいんだか哀しいんだか。
他には吉永小百合が声を失った少女役で(彼女が、原作のラストで“濡れる”のだ)、作品を貫くテーマの象徴である鹿に殺される女性に栗原小巻という豪華版。のちに平幹二朗と壮絶な舞台をつくりあげる蜷川幸雄も出演しています。
PART11「春の坂道」につづく。
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