朝靄のなかを一台の車が進む。停車し、なかから異様な姿の人間たちが現れ、作業を始める。彼らが着ているのは防護服。やっているのは除染だ。
震災によって人生が変わってしまった人たちの物語。主人公のみゆきは市役所職員。母親は津波に流され、遺体は見つかっていない。父親と仮設住宅でふたり暮らし。農業ができない父親はパチンコで日々を消費している。
週末、みゆきは長距離バスで東京に向かう。東京に電力を送る電線とシンクロするように。彼女は東京駅で着替え、メイクを決めて渋谷で降りる。訪れた部屋で彼女は「おはようございまーす」と世慣れたあいさつをする。
彼女は、デリヘルをやっている。客に呼ばれ、初めて彼女はこの映画で笑顔を見せる……
フルヌードでみゆきを演じる瀧内公美が圧倒的。本番をしない設定でありながら、ひざまずいてペニスをくわえるという一種の苦行が、なぜ彼女に必要なのかを観客に納得させてくれる。
父親(光石研)は汚染された自宅から妻の服を持ち出し
「寒いだろー!かあちゃーん!」と泣きながら海に放り投げる。
「ごめんよーっ」
……あの震災で生き残った人たちのこころに、死者にもうしわけないという思いがあることが、父娘によって描かれている。福島出身で、女性を描かせたら日本一の廣木隆一ならではの作品。
除染の仕事をしている人間への住民の反発も描かれ、東電を糾弾してすむ話ではないことをきちんと押さえてある。ついでに東電OL殺人事件を引用しているあたり、芸が細かい。
かすかに見えてくるみゆきの人生の光。彼女の人生は間違いじゃない。間違っているのは、得体の知れない、あやふやな他の何かだ。