何度もお伝えしたように、わたしはスパイ映画が大好き。そして同様にスパイ小説も大好き。
これは世代的な関係もあるんだと思う。わたしが高校生のときに早川書房が文庫に参入(ハヤカワミステリ文庫)。大人の読みもので(わたしにはそう思えた)、田舎の書店には置いていない、ポケミスでしか読めなかったミステリが大量にわたしたちの世代に放出されたのだ。もちろん創元推理文庫はずっと前からあったわけだけれども、やはり田舎の書店では在庫が……
そのハヤカワミステリ文庫の第一弾は赤い背でおなじみ、クリスティの「そして誰もいなくなった」。他にもチャンドラーやロス・マクドナルドなど、感じやすい高校生の人生はここでねじまがった。いきおいにのって、これはミステリ文庫ではなかったけれども名作の誉れ高いジョン・ル・カレの「寒い国から帰ってきたスパイ」に手を出した。
うわあむずかしっ!東西冷戦のリアルなスパイたちのやりとり。つづいてスパイ小説の金字塔として名高いグレアム・グリーンの「ヒューマン・ファクター」まで。こっちも難しいっ!しかし007とは逆方向の冷徹なお話に次第にひかれていく……これ、スパイ小説好きの典型例だと思います。
ひょっとしたらル・カレの遺作となるかもしれない、その名も「スパイたちの遺産」は、出世作である「寒い国から帰ってきたスパイ」の変奏曲。「裏切りのサーカス」でおなじみ、ジョージ・スマイリーものの総括版でもある。
乱発される符牒、裏の裏の裏まで読んでその裏をかくやり口。つまりは東西がお互いを好敵手と認め「マスのかきあい」をしているあたり、逆にだからこそゾクゾクする。
公文書をそのまま叩きつけてドラマを感じさせる余裕。引退したら、こういう小説をもっともっと読めるんだな。ああ待ち遠しい。スパイに定年はない、というのを思い知らされる作品ではあったけれども。