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宮部みゆきの原作は映像化がむずかしいことで知られている。これまでで唯一成功したのは大林宣彦の「理由」ではないか。膨大な登場人物にそのままオールスターキャストを起用し、しかも彼らにノーメイクで、日ごろの演技論を捨てて演じさせたのだ。つまり、宮部原作においては、登場人物のキャラがそれぞれ立ちすぎているものだから、こんな形でしかドラマ化は成功しないのかもしれない。
「ソロモンの偽証」の作り手たちは、大林と同じ方向をめざしたといえると思う。1万人にもおよぶオーディションを行い、選んだ中学生たちを徹底してチームとしてあつかった成果は、裁判の会場である体育館において、傍聴する生徒たちにいたるまで、一人ひとりがしっかりとその役柄に入りこんでいることで明らかだ。
これから観る人は、主演級ではないエキストラたちに注目して。出てきた証言にごく自然に反応している。どれだけ手間がかかったことだろう。
にしても主演の藤野涼子は飛びぬけてすばらしい。わたしは女の子が全力疾走している場面に弱いのだけれど(なんでだ)、この映画で雨の中を走る彼女は、映画の神に見守られているかと思うほど美しいのだ。
その疾走は、トラックとぶつかりそうになって(前編の松子ちゃんの事故を思い起こさせ、観客は息をのむ)終わるが、娘を抱きしめた父親(佐々木蔵之介)が、あとで妻(夏川結衣)につぶやく言葉は、すべての親に痛切に響く。
「あのまま涼子が死んでいたら、あの子の本当の姿を知らないままだった」
もうね、このあたりから涙がとまらなくなる。それに、わたしが原作で最も泣かされた“和服の女性”が、森口瑤子というどんぴしゃのキャスティングで登場し、なぜこの裁判が行われなければならなかったかを理解させてくれる。
犯人の邪悪さと同時に、“その瞬間”を描くことでその人物の孤独まで一瞬で描き切り、原作にみごとに対抗している。ラストに流れるのはU2のWith Or Without You。これまたどんぴしゃの選曲。終盤の正論の連続がきつくもあるけれど、傑作であることはゆるぎません。絶対観て!