「えーと、鶴岡まちキネでやってる『ぼくたちの家族』を見に行こう」と妻を誘う。
「どんな映画なの?」
「石井裕也って『舟を編む』の監督で……えーとほら、満島ひかりの旦那」
「あー、いいわね。誰が出てるの」
「妻夫木聡とぉ、原田美枝子。で、あの人……えーとソルボンヌ大学に留学した」
「はい?」
「息子が常盤貴子と結婚したほら!」
「なが…………ながつか……長塚京三ね!」
コントをやっているわけではありません。五十代の夫婦とはたいがいこんなものです(だと思いたい)。
もの忘れがひどくなった母親(原田美枝子)は、長男(妻夫木聡)の妻が妊娠したお祝いの席で“壊れる”。診察の結果は脳腫瘍。余命一週間。
実は借金まみれである父親(長塚ソルボンヌ京三)はうろたえ、母親にたかっていた無邪気な次男(池松壮亮)は無邪気なままだ。長男は中学時代にひきこもりになった時期があり、そのせいで家族が壊れたのではないかと過剰に反応する。
妻と固まりながら見ていました。だれの家族にも起こりうる話という範疇をはるかに超えて、いま、お前の家で起こっていることだろうと突きつけられる。こんなしんどい映画だったのか……ところが後半、意外な方向にストーリーはすすみ、ラストでは観客は呆然とするくらいに感動するしかけ。すばらしい。今年のわたしのベストワンです。
エンドロールでは、四人家族の名前が最初にいっしょに出てくるなど、登場人物への愛が感じられる。製作はなんと竹内力。いい映画だったなあ。
「世界三大珍味ってなんだったかしら。トリュフと、キャビアと……」
「ほら、あれだよ、肝臓をパンパンにさせたやつ。うーん、あ・い・う・え……」
「それって思い出せるの?」
結局はスマホを使って解決。うちの家族も、彼らと同じ思いをいだきながら、今日ものん気です。