近ごろ何を書いても読者をねじふせる、怒濤の勢いのドン・ウィンズロウ。まさか覆面作家トレヴェニアンの「シブミ」の前日譚まで書いているとは。
でもトレヴェニアンって知らない人多いよね。この人はわたしの世代にとってはクリント・イーストウッドの「アイガー・サンクション」の原作者、というより宝島の「このミステリーがすごい!」一発目のベストワン「夢果つる街」の作者なんです。思えば地味な一冊からこのミスは始まったんだなあ。
で、三十年も前にベストセラーになった「シブミ」とはどんなミステリだったかというと……えーとね、やたらに洞窟をめぐっていたことしかおぼえていません。八つ墓村かよ。
やたらに日本人的な禅問答が多かったかも。
その、日本人以上に日本人的な暗殺者ニコライ・ヘルの若き頃。罠を仕掛ける方も周到だけれど、ニコライも若いのでピンチの連続。でも、囲碁の名人らしいモノローグが始まると「うん、こりゃだいじょうぶ」と安心できます。その展開で失敗はないだろうと……おおおおそうきたかあ。
キャラの一人ひとりが魅力的。特に娼婦的生き方を(あらゆる意味で)強いられたソランジュという女性がすばらしい。
ニール・ケアリーが主人公のストリート・キッズのシリーズも魅力的だったけれど、ニコライ・ヘルも負けずにいいぞ。天国でトレヴェニアンも合格点を出しているはず。もういっちょ、お願いします。
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