「ナイフの使い手だった私の祖父は十八歳になるまえにドイツ人をふたり殺している」作家のデイヴィッドは、祖父のレフが戦時下に体験した冒険を取材していた。ときは一九四二年、十七歳の祖父はナチスドイツ包囲下のレニングラードに暮らしていた。軍の大佐の娘の結婚式のために卵の調達を命令された彼は、饒舌な青年兵コーリャを相棒に探索に従事することに。だが、この飢餓の最中、一体どこに卵なんて?卵をめぐる祖父の戦争 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ 1838)
価格:¥ 1,680(税込)
発売日:2010-08-06
去年のミステリベストテンを眺めて、どう考えてもオレ向きだと根拠もなく確信していたので購入。当たってました。大傑作。戦時下のレニングラードにおける、飢餓と戦闘が“祖父の物語”(つまり大過去)というフィルターをとおして語られるものだから、なんか残虐で悲惨である以上にユーモラス。並の筆力じゃないな。
妙な自信家で、美男であると同時にひたすらおしゃべりなコーリャと、皮肉屋で世間知らずのユダヤ人レフ(もちろん童貞)が、なんの因果か卵をさがす羽目になり、ぶつくさいいながらドイツ軍の陣地に突入するあたり、笑いと涙が同時に襲ってくる。ドイツ軍に身を売ることで命を長らえている少女たちとの交流など、およそ平時であれば考えられないエロとグロの同居。
そして、こう来るかっ!と唸らせられるラスト。ストーリーがすばらしいのはもちろんだが、語り口のうまさが心地いい。っていうか、この激しく厳しいストーリーは、こう語るしかありえなかっただろう。
原題はCity of Thieves(泥棒の町)。その泥棒が、主人公ふたりと“国家”というもののダブルミーニングになっている仕掛けにもうなる。ネタバレだけど、実は○○の戦争でもあったというオチもふくめて、マイベスト2011確定です。