今日からしばらく、かつて好評連載(ホントか!?)していた「英会話教室的日常」の番外編をお送りします。
英会話教室でバイトするアズマさん、今回は教室を出て、西へ一泊二日の旅行に行くことになります。
いったいそれがどんな旅になることやら……。
その1.旅立ちまで
仕事をしているアズマさんのところに、講師のクレアがやってきた。
「アズマ、わたしはあなたに頼みがあります」
どうせ向かいのモスバーガーで何か買ってきてくれ、ということだろうが、それにしても「わたしは」と主語を入れるとどうしてたいそうな用件に聞こえるのだろうと思いながら、アズマさんは
「いいよ、何?」と気安く返事をする。
「アズマ、わたしはあなたが水曜日と木曜日、休みということを知っています」
「そうだよ」
「あなたはそれらの日に旅行に行きたいですか?」
「へ?」
「あなたは旅行に行きたいと思いますか?」
「行きたいか、っていったら行きたいけど、お金ないからなぁ」
「わたしが交通費を負担しますと言ったら行くですか?」
「なんでそんなこと言うか、聞いていい?」
「おお、わたしは説明します。あなたはわたしの従兄弟がいま東京で仕事をしているのを知っているですね。その従兄弟が今週の水曜と木曜、ヒロシマに行くでしょう。彼はピース・メモリアル・パークに行きたいと言いました。わたしは彼と一緒に行くことができない。なぜならば仕事があるだから。彼はひとりで行くと言っているだが、日本語がしゃべれません」
「広島だったら、日帰りができるんじゃない?」
「彼はほかにもイツクシマ・シュラインや、キャッスル、あと、ナチュラル・ホット・スプリングにも行く計画をしています」
知らない、まして男の子と一緒に行くのはなんだかイヤだなぁ、と思うアズマさん。
と、クレアの目がキラッと光った。
「アズマ、わたしの従兄弟のジェイミィはゲイなんです。だからわたしは男性には頼みたくないと思いました。男性のある人々はゲイを嫌います。それに、わたしの記憶が正しければ、あなたはかつてゲイ・カルチャーに興味があると言っていた」
アズマさんの胸の中で、好奇心がムクムクと頭をもたげてきた。確かにデイヴィット・レイヴィットやアン・ビーティ、ピーター・キャメロンあたりの小説にゲイが出てくるたびに、実際の彼らはどういった感じなんだろう、とはずっと思ってきたのだ。
実はアズマさんの弱点は好奇心なのである。
なんでもかんでもつい知りたくなって、隣でカバンを開ける人がいたら、横目で中をのぞき、向かいで本を読む人がいればタイトルを読まずにはいられない。
知らないことを知ることができるチャンスがあれば、万端繰り合わせてでも飛びつかずにはいられない。それで後々しわ寄せが来たり、やっかいな羽目に陥ったりすることも数々あったのだが、この好奇心、いったん火がつくと、もはや留めようがないのである。
「それにしても今週の水曜っていったら、明後日じゃん。行くかどうかはともかく、一度ジェイミィに会いたいな。計画とかいうのも聞きたいし」
こんなことを言ってしまうと、結局行かないわけにはいかなくなるのだろうな、と思いつつ、せっかくの機会を逃してはならない、と耳元で囁く声もする。
「アズマ、あなたがジェイミィと会うことはできません。それはジェイミィは仕事で休むことができないだから。ジェイミィがあなたに電話をしてもかまいませんか?」
(この項つづく)
英会話教室でバイトするアズマさん、今回は教室を出て、西へ一泊二日の旅行に行くことになります。
いったいそれがどんな旅になることやら……。
その1.旅立ちまで
仕事をしているアズマさんのところに、講師のクレアがやってきた。
「アズマ、わたしはあなたに頼みがあります」
どうせ向かいのモスバーガーで何か買ってきてくれ、ということだろうが、それにしても「わたしは」と主語を入れるとどうしてたいそうな用件に聞こえるのだろうと思いながら、アズマさんは
「いいよ、何?」と気安く返事をする。
「アズマ、わたしはあなたが水曜日と木曜日、休みということを知っています」
「そうだよ」
「あなたはそれらの日に旅行に行きたいですか?」
「へ?」
「あなたは旅行に行きたいと思いますか?」
「行きたいか、っていったら行きたいけど、お金ないからなぁ」
「わたしが交通費を負担しますと言ったら行くですか?」
「なんでそんなこと言うか、聞いていい?」
「おお、わたしは説明します。あなたはわたしの従兄弟がいま東京で仕事をしているのを知っているですね。その従兄弟が今週の水曜と木曜、ヒロシマに行くでしょう。彼はピース・メモリアル・パークに行きたいと言いました。わたしは彼と一緒に行くことができない。なぜならば仕事があるだから。彼はひとりで行くと言っているだが、日本語がしゃべれません」
「広島だったら、日帰りができるんじゃない?」
「彼はほかにもイツクシマ・シュラインや、キャッスル、あと、ナチュラル・ホット・スプリングにも行く計画をしています」
知らない、まして男の子と一緒に行くのはなんだかイヤだなぁ、と思うアズマさん。
と、クレアの目がキラッと光った。
「アズマ、わたしの従兄弟のジェイミィはゲイなんです。だからわたしは男性には頼みたくないと思いました。男性のある人々はゲイを嫌います。それに、わたしの記憶が正しければ、あなたはかつてゲイ・カルチャーに興味があると言っていた」
アズマさんの胸の中で、好奇心がムクムクと頭をもたげてきた。確かにデイヴィット・レイヴィットやアン・ビーティ、ピーター・キャメロンあたりの小説にゲイが出てくるたびに、実際の彼らはどういった感じなんだろう、とはずっと思ってきたのだ。
実はアズマさんの弱点は好奇心なのである。
なんでもかんでもつい知りたくなって、隣でカバンを開ける人がいたら、横目で中をのぞき、向かいで本を読む人がいればタイトルを読まずにはいられない。
知らないことを知ることができるチャンスがあれば、万端繰り合わせてでも飛びつかずにはいられない。それで後々しわ寄せが来たり、やっかいな羽目に陥ったりすることも数々あったのだが、この好奇心、いったん火がつくと、もはや留めようがないのである。
「それにしても今週の水曜っていったら、明後日じゃん。行くかどうかはともかく、一度ジェイミィに会いたいな。計画とかいうのも聞きたいし」
こんなことを言ってしまうと、結局行かないわけにはいかなくなるのだろうな、と思いつつ、せっかくの機会を逃してはならない、と耳元で囁く声もする。
「アズマ、あなたがジェイミィと会うことはできません。それはジェイミィは仕事で休むことができないだから。ジェイミィがあなたに電話をしてもかまいませんか?」
(この項つづく)