ひつじ草の挑戦状

色んな思いを綴ってます。

散華の如く~坊主と寺と、あの悪夢~

2013-06-09 | 散華の如く~天下出世の蝶~
侍女「はい、寺の方丈さんが焼いたとか、」
病人がいると私を寺に担ぎ込んだらしい。
帰蝶「方丈さん…?」
ご丁寧に浴衣の替えまでお貸し下さった。
ふわと香る極楽は仏の慰め線香であった。
侍女「御方様…汗を、」
私は熱のため、うなされていた、だけ。
熱があの悪夢を作った、だけであった。
侍女から手拭いを受け取り、汗を拭い、
浴衣に着替えて、ぶか…、少し大きい。
帰蝶「…」
侍女「男モノしか、持ち合わせないとのことで、」
帰蝶「女人禁制ではあるまいな?」
侍女「いえ、方丈様が自由に使うように、と」
くすすと笑い、侍女は水を替えに下がってしまう。
ポツンと見知らぬ寺に、一人だけ、取り残されて、
急に不安が襲った。悪夢が蘇ってくる、その前に、
帰蝶「誰か?五兵衛、藤吉郎も、いないのか…?」
誰かに、助けを求めると、
「如何なさいましたかな?」
おそらく、瀬戸焼の方丈様であろう。
私は襖越しに、
帰蝶「あの…、見知らぬ我らを受け入れて頂き、忝のうございます」
礼を述べたら、
すす…と、
襖が開き、
方丈「御仏に、見知らぬ者は、おりません」
全て受け入れん、と言わんばかりのその目が、やはり怖い。
あの事件以来、御坊様を真面に見る事が出来ない。だから、
す…と頭を下げて、御辞儀に隠れて、ぎゅうと目を閉じた。