自然となかよしおじさんの “ごった煮記”

風を聴き 水に触れ 土を匂う

Q「野草紙づくり,乾燥でうまくいかないのですが……」

2017-08-10 | 野草紙

つい先日,遠方から次のような電話をいただきました。お子さんの自由研究で野草紙づくりを進めているなかで,どうしてもうまくいかないところがあるということでした。

質問事項は,「漉いた湿紙を板に載せて天日で乾かしていたら,周りから剥がれてきて丸まってしまった。何度試みてもうまくいかない。どうしてか。そうならない対策を教えてほしい」というもの。

同じような事態はよく起こります。わたしもそうした経験を何度かしてきました(今だって,時にはその事態に直面することがあります)。その結果,事の訳がわかり始めたのです。じつは湿紙は周りから乾き始めます。そのとき,中ほどの部分は湿ったままです。この様子を乾きムラということばでいい表すことができます。

乾きムラができかけると,紙と板との結合力がセルロース繊維同士の結合力より弱いために,紙は板面から引き離されるようにして剥がれかけるのです。直観で「きっと直射日光を当てて一気に乾かそうとされたのだろう」と推測。それをお聞きすると,そのとおりでした。

近々,遠路ご家族でミュージアムにお越しいただくことにしました。直接お出会いしてポイントをアドバイスできたら,と思ってお誘いしたのです。貴重な自由研究ですから,親子でぜひ完成させていただきたいですね。

乾燥工程では,一般的にはアイロンを使う例がほとんど。すると,かならず紙は多少なりとも波打ちます。これはアイロンを使うと乾きムラができるためです。これを防ぐ対策はありません。アイロンの底面にすっぽり入るなら一様に乾きますが,ふつうそんな大きなアイロンはないので根本的な対策はありません。

もしどうしても一気に乾かしたいのなら,とても旧式ですが写真印画紙の乾燥機を使うことです。

 

そうでない場合は,ゆっくり乾かすほかありません。それには次の2つの方法が考えられます。

  1. 板に貼って乾燥する場合,板の表面をしっかり湿らせておく。そして初めは天日で素早く。あとは風通しのよい日陰でゆっくり乾かすのが原則。(なお,板面には油質成分が付着していますから,きれいに洗ってから使用することがたいせつです。表面に出ているセルロース断面が大きな働きを果たします。経験的には古い板の方が使い勝手がよかった印象があります)  
  2. ステンレス網に貼って乾かす場合,終始天日に当ててもよいが,強すぎる天日は剥がれの誘因になりやすい。途中から陰干しにすると100%うまくいく。

 

わたしが今使っているのは,2つ目の方法です。

紙漉き職人が天日を利用して乾かすのは,主に冬季です。冬の日差し程度が紙の白さを引き出すのに,とてもよいといわれています。直射日光を利用して徐々に乾かすにも,冬の日差しはほどほどなのです。さらに,トロロアオイなどの天然粘剤が腐敗しにくいのもこの季節。冬は紙を漉くのに理にかなった季節であることがよくわかります。

失敗から学べることはたくさんあります。あきらめないで試みていくうちに,光明が差し込んでくるものです。

 


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