経営の視点から考える「知財発想法」

これからのビジネスパーソンに求められる「知財発想法」について考える

船にプールを作ろう!

2009-04-22 | 新聞・雑誌記事を読む
 日経ビジネス最新号に掲載されているタニタの谷田会長の‘有訓無訓’からです。
 美術館巡りをしていて、近代以降の美術館のオーナーに目立つ職種が、造船会社⇒鉄道関係者⇒自動車関係者、と変遷していることに気付いたとのこと。これはそれぞれの時代の成長産業を反映していますが、いずれも‘人の移動手段’という点で共通している。すなわち、造船会社は船のことばかり考えていたら時代に乗り遅れてしまうので、‘人の移動手段’から発想することが必要だということです。タニタについてもそのような発想から、体重計にばかりこだわることなく体脂肪計の開発に至ったとのこと。
 この話で思い出したのが、先般の「中小企業経営に役立つ知財活動支援セミナーin京都」にもご登壇いただいた㈱シードの西岡社長からお聞きした話です。同社はプラスチック消しゴム、修正テープを開発した会社として知られていますが、技術そのものではなく‘消す’ことにこだわり、時代のニーズに合った‘消す’商品を提供しているのこと。さらに次世代の新製品として、こんな凄い商品も開発されています。
(ちなみに、タニタは昨年度、シードは今年度の知財功労賞受賞企業です。)

 要するに、供給サイドからみるとどうしても現在自分が扱っている‘対象物’にこだわりたくなるけれども、顧客が欲しているのは‘機能’(移動することや消すこと)である、ということです。船の需要が落ちたときに、「これからは客船だ!」、「船にプールを作ろう!」といった発想では、なかなか本質的な問題の解決には結び付かない。知財サービスについていえば、‘特許’という対象物にこだわって、これを使ってあれをしようこれをしようと‘特許’の需要を作り出すことを考えるよりも、知財サービスの‘他者との差異を特定すること’や‘その差異から競争優位を構築すること’といった本質的な機能を追及していくことのほうが、より理に適っているのではないか。なんてことを考えた次第です。


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8 コメント

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Unknown (不良社員)
2009-04-22 23:09:39
土生さん、こんにちは。記事を読んでいて思い出しました。

アメリカで電話会社が出来た頃、その時点ではアメリカ全土を覆う電信網が出来ていたのですが、電信会社は電話という手段を単なる近距離でのたわいのない会話をするものというとらえ方をしていて、電話という新規事業を軽視していたそうです。そうこうしているうちに、電話会社が急成長してしまい、電信会社はかなり慌てたそうです。結果的には電話会社の再編等があり、電信会社の幾つかは電話会社に衣替えして生き残ることが出来たそうですが、電話という手段を通信手段として捉えることができないと、往事の勢いを一気にして失いかねない、という事例として紹介します。

あと、企業で特許を扱う身からすると、特許でどうするという発想はあまりしません、というか、しないようにしています。特許を取れたから市場を独占できるというのは、製薬業界など一部の限られた業界でしか起こりません。特許というのは事業にとってパズルの一つのピースにしか過ぎないので、特許を取ることによって何が実現できるかということを考えるようにしています。
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Unknown (弁理士Y)
2009-04-23 00:13:16
いつも興味深く読んでいます。

なかなか骨のあるお方なので、失礼かとは思いつつも、立ち位置の違うコメントをさせて頂きます。

「機能」に着目した(だけの)展開は、非常に危険に感じます。
文面を見る限りでは、
「事業領域の設定」という話と、
「強みを生かす」という話と、
が、ごちゃごちゃになっているように見えてしまうのです。

機能に着目というのは、事業領域(土俵)を考える場合や強みを考える場合の、一つのアイテムに過ぎませんよね。

「土俵の設定」は、誤った事業展開をしないために必要だと思います。
「強みの把握」は、差別化(オンリーワン・ナンバーワンのような)のために必要だと思います。

でも、これらを区別しないと、「自動車」という土俵に立って「自動車」という強みを生かそうする、誤った経営に走ってしまうのではないでしょうか?

勿論、土俵と強みとはリンクしますが・・・

私はビジネス書や経営本を読まない人間なので、気の利いた表現はできませんが、率直に書いてみました。
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Unknown (土生)
2009-04-23 02:48:55
不良社員さん

コメント有難うございます。
不良社員さんのブログの最新のエントリ(知財部門での人材育成)を読んでいて感じたのですが、対象物(=知財制度)に習熟している人を知財人材と定義してしまうと、対象物に溺れて本来の機能(事業運営・マネジメント)から乖離してしまうおそれがありそうですね。そういう意味で、コメントいただいた「特許でどうするという発想はあまりしません、というか、しないようにしています。」という姿勢が、とても重要なんだと思います。
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Unknown (土生)
2009-04-23 02:52:52
弁理士Yさん

コメント有難うございます。
これはそんなに詰まった話ではありませんので、ご指摘の違和感は理解できます。「特許」の仕事に強みを有する者が、それを離れて競争優位構築のコンサルティングに進出すべき、なんて結論を導き出したとすると、それはちょっと違うんじゃないの、って私も思いますし。
要は、時代の変化に対応する際の方向性・考え方の問題なのですが、特許のスキルを強みにする者は、やはり軸になるのは「特許」であると思いますが、そこからさらに展開していくときの方向性について、‘対象物’を基準に「私の得意の特許でこんなことをやりましょう」(特許の価値評価・証券化・信託etc.)っていうのは供給サイドの論理なのではないか。それより、‘機能’にもっとこだわって、「この会社の競争優位を構築するために特許でこのように貢献していこう」(経営の成果に結び付く知財活動にしていこう)と考えないと、需要サイドの期待には応えられないのではないか、というのが言いたかったところです。
(うまく説明するのが難しいのですが・・・)
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Unknown (waki)
2009-04-24 01:54:27
>「私の得意の特許でこんなことをやりましょう」
>(特許の価値評価・証券化・信託etc.)っていう
>のは供給サイドの論理なのではないか。それより、
>‘機能’にもっとこだわって、
>「この会社の競争優位を構築するために特許で
>このように貢献していこう」(経営の成果に結び
>付く知財活動にしていこう)と考えないと、
>需要サイドの期待には応えられない

最近、おっしゃりたいことがよく解ります。「機能」というのでしょうか…そこはちょっとわからないですが。いずれにしろ最近自分としても特許その他の産業財産権の呪(?)から解放された気分でいます。

私が昔子供に絵を教えていたころを思い出したのですが、子供たちが本当にすばらしい著作物を生み出しても、親たちはその素晴らしさを解らない場合が多い。そこで私は、大人の言葉に翻訳して子供の著作物の素晴らしさを説明してました。
しいていうところの知財業界人の役割は、これと同じかなと。自分たちは知財自体を生み出すことはできないけど、価値を生み出すことができるのではないかと思ったりします(その価値の創り方が特許化だったりするわけですが、ほんの一部の手法でしかない)。

最近思うのですが、知財業界新しい段階に入っているような気がしてしょうがありません。私のような人間でもそれを実感できるようになってきていて、かつ、実行段階にある。。。最近なんだか知財業界が好きになってきているこのごろなのです。
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Unknown (土生)
2009-04-24 02:51:20
wakiさん

こんばんは。ポジティブでいいですね。

私の前職である金融も、自らが事業のプレイヤーではないけれども、プレイヤーの価値を引き出せるという意味では、たぶん絵の先生と同じです。金融の本質は、何かをやろうとしている人に必要なお金を返済可能なスキームで供給し、それを実現するサポートをするという‘機能’にあります。金融人として感動を覚えるのは、資金提供した先の事業が形になったときです。融資とか証券化とかはその中で用いる手段=‘対象物’でしかなく、本来の‘機能’を見失い‘対象物’に拘って生まれたものの典型例が、サブプライムローンだったのだと思います。
産業財産権の呪い、よくわかります(笑)。
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商品やサービスは機能の提供のための媒体であり、技術は機能の実現手段である (久野敦司)
2009-04-26 06:16:52
技術と機能と商品の中での特許権の位置付けについて、私も考察したことがありました。

http://www.patentisland.com/memo209.html

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Unknown (土生)
2009-04-26 22:42:48
久野様

本エントリの趣旨と特許の関連付けについて、貴重なご意見をご紹介いただきありがとうございます。
顧客が欲している本質は機能であるのだから、その機能に必要な技術をカバーする特許が重要性が高いというのは、そのとおりであると思います。
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