経営の視点から考える「知財発想法」

これからのビジネスパーソンに求められる「知財発想法」について考える

「休眠特許の活用」は知的財産推進計画2015の柱ではない。

2015-06-23 | 知財一般
 先週金曜日に、知的財産推進計画2015が決定されました
 この決定について、次のような報道がされています。

「知的財産推進計画」決定 休眠特許の活用が柱(NHK)
 ・・・特許などの知的財産を地方でのビジネスの創出や拡大に結びつけることが重要だと指摘しています。
 そして、▽大企業や大学などが保有しているものの使われていない、いわゆる「休眠特許」を中小企業が活用できる新たな仕組みを作るとともに、▽都市部の専門家を地方に配置し、中小企業が知的財産を活用できるようにするための支援体制を強化するとしています。・・・


大企業などの特許、地方中小の活用後押し 政府が推進計画(日本経済新聞)
 ・・・各地の自治体などに企業経営の経験者らを配置し、大企業や大学などが使わない「休眠特許」の中小企業の活用を促す。自治体や中小企業支援団体は、専門家の配置に財政的な支援を行う。
 国内では現在、登録されている特許全体の半分に当たる約70万件が利用されていない。保有する特許の実施率を見ると、中小企業の66%に比べ、大企業は35%と低い。・・・


 この計画策定のために設けられた「地方における知財活用の促進」タスクフォースに出席していたこともあり、少しでも誤解を解消できればということで書いておきますが(NHKや日経の報道に対して焼け石に水もいいところですが...)、知的財産推進計画2015の重点3本柱の1つである「地方における知財活用の促進」において、「休眠特許の活用」は柱にはなっていません。知的財産推進計画2015の本文を読んでいただければわかるとおり、「休眠特許」という概念すらどこにも出てこず、これらの報道は誤解に基づくものです。
 知的財産推進計画2015の5p.~6p.には、「大企業が保有する知的財産を中小企業に開放し、それを活用して中小企業の新たな事業の創出につなげていく『知財ビジネスマッチング』」が紹介され、8p.には「大企業の知財活用については、知財活用途上型の中小企業が次なる一歩を踏み出すために必要な気付きと知恵を与えてくれる機会になることに鑑み、大企業が知的財産を開放して産産連携に積極的に参加するよう後押しをするなどの支援基盤の整備が求められる」と書かれていますが、ここに明らかにされているのは、大企業に特許技術の開放を促して、中小企業の知財活用を加速させようという問題意識です。その特許技術が「休眠」しているかどうかは問題ではありません。「開放」されているかどうかです。実際、知財ビジネスマッチングで先行している川崎市や近畿経済産業局の取組みでも、休眠していない、他でも利用されている特許技術の活用事例が多いと聞いています。
 あくまで政策的な目標は、「地方創生の観点からも、地域中小企業がその持てる力を発揮するため、知的財産を創造し、活用していくサイクルを再構築していくこと」にあり、主役となるのは地域の中小企業です。以前から日経は「大企業の特許実施率が低い→休眠特許を活用すべし」といった文脈が好きなようで、知的財産推進計画には全く書いていないことを思い込みで記事にしていますが、大企業の遊休資産活用が政策的なテーマというわけではないので、中小企業に「休眠特許の活用」を促す理由はありません。中小企業の立場から見ると、大企業の特許技術の活用は、多くの場合は開発プロセスのショートカットや信用力の強化、PR効果に期待したいわけであって、実用レベルにあるかどうかが明らかでない「休眠特許」より、すでに他でも利用されている特許技術のほうが導入しやすいはずです。そのあたりはちゃんと議論した上で、今回の知的財産推進計画が作成されていることをご理解いただけると有難いです。

 なお、「地方における知財活用の促進」のテーマで議論された中小企業の知財活用については、これまでは画一的に論じられることが多かった中小企業を、知財活用の状況から「知財活用挑戦型」(グローバルニッチトップのような先進的な知財活用企業)と「知財活用途上型」(下請け型など知財権取得の必要性が生じにくかった企業)の2つのタイプに区分し、施策の方向性を分けて検討していることが今回の大きな特徴です。前者については、これまでも検討されてきたような先進的な知財戦略をサポートする施策が、後者については様々な方法で意識啓発の機会を設ける施策が必要であり、大企業が開放している特許技術を導入して新規事業に取り組む「知財ビジネスマッチング」は、後者の施策の一つという位置付けになります。

<参考エントリ> 活かすべきは「休眠特許」ではなく「開放特許」

「中小・ベンチャー企業の知的財産活動に対する支援と課題」の一部をご紹介

2015-06-18 | 知財一般
 先週の話になりますが、6月10日・11日の特許ニュースに、座談会「中小・ベンチャー企業の知的財産活動に対する支援と課題」が掲載されました。
 元キヤノンの丸島先生、弁護士の林先生、特許庁普及支援課長の松下様と、中小企業向けの支援施策を中心にしながらも、約3時間の議論では知財に直接関係しないテーマにも話題が広がりました。断片的になってしまいますが、以下に私の発言の一部を紹介させていただきます。

<中小企業支援施策について>
施策を論ずるときには「中小企業」を全部一まとめにしてしまっていることが多いですが、その中には世界最先端の商品を持って、いわゆるグローバル・ニッチトップで、世界トップシェアを巡って争っているような中小企業もある。こういう中小企業に対しては、先端の知財戦略とかマネジメント・システムを提供してサポートをしていくという支援が必要なのはそのとおりです。
 しかし、世の中の大半の中小企業はそうではないです。下請けでずっと仕事をしているけれども親会社が海外に行ってしまってどうしようとか、特にこれといった特徴はないけど地域で地道に仕事を引き受けて成り立っているとか・・・そういう会社に、オープン・クローズ戦略とか、海外での模倣対策とか言っても、ほとんどの会社はピンとこないです。
 ですから、世界で戦っていくグローバル・ニッチトップになるような中小企業と、地道な仕事で地域経済を支えているような中小企業は分けて議論しなきゃいけないと思うのです。


※ 以前に「地域密着型中小企業の広義の知財活用促進について」のエントリにも書いたとおり、グローバルニッチトップ型の中小企業のみを念頭に置いて、知財活用→競合他社を排除→積極的な知財権行使、と直線的に決めつけるのではなく、中小企業の多様性を考慮した施策が必要と思います。

<米国とのベンチャー投資環境の相違について>
私も4年ほど投資を担当しましたけれども、ベンチャーキャピタル側からしてみると、買ってくれる人がいないベンチャーの株に投資しても商売が成り立たないわけです。日本もアメリカみたいにベンチャーに思い切ってお金を出せるようにするためには、ベンチャーが大事だと言う人は、他人事みたいに言ってないで、マザーズやジャスダックに上場しているベンチャー企業の株を買ってください。買ってくれる人たちがいれば、ベンチャーキャピタルだって売れるものは仕込む、つまりベンチャー企業に積極的に投資するようになります。

※ ベンチャーファイナンスの経験を踏まえての持論なのですが、ベンチャーを知るには自ら投資してみるのが一番。上場企業の中にも「ベンチャー」はたくさん存在しています。

<金融機関と連携した知財支援について>
どうしても我々は知財の方にいるから、知財があるのだから銀行も理解してよ、という流れで話をしているのですけれども、銀行には銀行の立場があるわけですから、何で知財を見るのよ、見てどんなメリットがあるのよと、彼らのしたいことを考えることも大事だと思うのです。
 いま銀行は何がやりたいかと言ったら・・・顧客との関係強化に知財がうまく使えるというのを示せば、彼らにしてみれば使う意味が出てくる。


※ このテーマに限った話ではありませんが、一方のニーズや社会的意義だけで物事はなかなか動きません。知財と金融の融合を実現するためには、金融側のニーズにもどらだけ応えられるかがキーになると思います。

<行政へのお願い>
この業界にも勉強したことを現場で活かす機会が不足していてうずうずしている若い人がいると思うので、その人たちが実際に企業に接して・・・機会を、行政として作っていっていただければと思います。これは乱暴な言い方ですけれども、支援メニューのこれがいい、あれがいいというのは実はそんなに大きな問題じゃなくて、いろんな人が現場の経験を積めるようなきっかけを行政の方が作ってくだされば、そこで人が育っていけば、それが一番効果として大きいのじゃないかなというふうに思っています。

※ 中小企業の多様性を理解することは重要ですが、だからといってそれぞれの性質やニーズに応じた支援メニューを設けるといっても限界があることは否めません。結局のところ、その隙間は人の力で埋めていくしかないので、支援メニュー以上に人材が鍵になるのではないでしょうか。

「地域密着型中小企業」の「広義の知財活用」促進について

2015-04-26 | 知財一般
 2月に設置された知的財産戦略本部の「地方における知財活用促進タスクフォース」に、委員として参加させていただいています。第1回の「中小企業による大企業の知財の活用促進」、第2回の「産学連携における大学の知財の活用促進」に続き、第3回は「地方中小企業による知財の活用促進」がテーマとなりました。
 この会議では、中小企業の知財活用について議論する場合、少なくとも2つのレイヤーに分けて考えるべきだ、ということがコンセンサスとなってきましたが、おそらくこの点は議論を整理する上での重要なポイントになるはずです。

 中小企業に知財活用を促す施策(もちろん知財活用自体が目的ではないので、知財活用という手段によって中小企業を活性化する施策、が正確なところですが)について議論すると、よく出てくるのが「中小企業が特許を取得しても、使えないことが多い。なぜならば、1件や2件の特許では大手に対抗できないことが多いし、訴訟をするにはコストがかかる。勝訴しても日本では大した損害賠償額は得られないから、こんな状況では特許をとる意味がない」といった意見です。もちろんそういう側面があるのも事実ですが、それが問題の本質であるかのように言われると、個人的には以下の2つの理由から違和感を覚えることが否めません。

 1つめは、こうした意見が、特許権は競合他社を排除するために活用できなければ意味がない、という考え方に固執しているということです。
 こうした意見では、前提となる中小企業に、自社の独自技術を活かした製品で市場を独占する、いわゆるグローバルニッチトップの中小企業がイメージされていると思いますが、現実に目を移すと、そういった中小企業は全体のほんの一部でしかありません。大多数の中小企業(ここでは規制に依存して生き残る特徴のない中小企業やペーパーカンパニーは除き、広義の「知的財産」に関連する中小企業に限定します)はそうしたモデルで事業を展開するのではなく、地域をベースに様々なニーズに対応したものづくりやサービスの提供に努めているというタイプの企業です。訴訟コストだ、損賠賠償額だと言われてもピンとこず、知的財産なんて当社には関係ない話だ、と感じてしまうことでしょう。
 やはりここは、グローバルニッチトップを狙う先鋭的な「海外市場展開型中小企業」と、地域のニーズにしっかり応えて実績を積み上げていく「地域密着型中小企業」に区分して、知財活用のための課題と対策を整理していかないと、特定のレイヤーにしか響かない施策ばかりになってしまいかねません。

 2つめは、先に示したような意見では、「知財≒特許」「知財活用≒特許権の行使やライセンス」のように、狭義の「知財」「知財活用」が前提になっているということです。
 詳しくは以前に「一番必要なのは『知的財産』の意味の社会的なコンセンサスを形成することではないか」のエントリにも書きましたが、知的財産基本法にも明記されているとおり、特許権などの知的財産権そのものが「知財(知的財産)」ということではなく、その対象になる発明や考案、さらには技術情報や営業情報など、幅広くその企業に蓄積されている独自の知的資産が、活用の対象となる「知財(知的財産)」であるはずです。例えば、属人的なノウハウを見える化して社内で共有することにより社員のレベルアップを図るというように、その企業ならではの強みをうまく引き出して事業に活かせれば、それも立派な「知財活用」です。先日の日刊工業新聞に掲載いただいた「中小企業の底力・特許の力で引き出そう」のコラムも、そうした「知財活用」について述べたものです。
 こうした広義の「知的財産」の活用を促進する施策についても考えていかないと、特に前述の「地域密着型中小企業」にも訴求して、知財活用の裾野を広げていくことにはつながらないでしょう。

 といったことから、タスクフォースの第3回ではあれこれ意見を述べさせていただきましたが、今後も「地域密着型中小企業」の「広義の知財活用」促進のためのプロジェクトには、積極的に関わらせていただきたいと思っています。

中小企業の立場に立ったマッチングを地道に続けていけば、産業育成の有効な手段になる。

2014-08-26 | 知財一般
 本日の毎日新聞朝刊6面「大手特許に中小活路」の記事に、知財マッチング事業に関して、私のこんなコメントをご掲載いただきました。

「中小企業の立場に立ったマッチングを地道に続けていけば、産業育成の有効な手段になる」

 同じ記事がWeb版では「大企業の休眠特許:中小が新商品に活用」になっていますが、以前に「活かすべきは『休眠特許』ではなく『開放特許』」のエントリに詳しく書いたとおり、各地で行われている知財(ビジネス)マッチング事業の対象になっているのは、「休眠特許」ではなく「開放特許」です。この点は電話取材を受けた際に詳しく説明して、記者さんもよく理解してくださっていたのですが、おそらく「休眠特許」のキーワードを使わないと注目されにくいし、検索にもひっかかりにくいといった事情があるのでしょうか、Web版ではやはりタイトルは「休眠特許」になっていました。

 そもそもこの事業に自治体等が取り組む意義がどこにあるかですが、地域の中小企業の活性化というところが主目的で、典型的なイメージとしては、下請けとしてしっかりした技術を蓄積してきた中小企業が自らの技術を活かして自社製品を開発し、新規事業を立ち上げようとする際に、大企業の特許技術のライセンス(特許ライセンスではなく特許技術を活かした素材の提供を受けるケースも多いようです)を受けて、元々の自社にある技術にその特許技術を活かして、オリジナリティーのある新製品を開発する、といった展開を目指しているものです。自社技術だけで製品開発をするケースに比べると、特に初めて自社製品を開発するような場合には、「富士通の特許技術を活用」「日産の特許技術を導入」といったPRができれば注目を浴びやすくなるし、注目されることでビジネスチャンスが増えるだけでなく、モチベーションも上がるし自信もつく。これをきっかけに、地域の中小企業の開発活動を活性化して、地域経済の活性化に結びつけたい、というのが事業の主目的です。
 「休眠特許」については、私の個人的な見解ですが、そもそも「休眠特許の活用」なんていう課題が存在するの?存在するとしてもそんなに重要な課題なの?と考えています。不動産のように有限の資産であれば、限りある資産を無駄にしないように遊休地の活用を考えることも必要になるのでしょうが、特許のような知的財産は次々と新しく創作していくことが可能なわけで、何も特許がとれているからといって、いつまでもそれに固執する理由はないはずです。後ろを向くのではなく、前を見るのがイノベーションの本質であるはずです。維持コストが負担になるなら年金納付を止めてしまえばいいわけだし、「過去の投資額が...」なんてこだわりも、切るときにはスパッと切って次に向かうのが経営判断というものです。また、特許権が失われたからといって技術そのものが世の中から消えてしまうわけではなく、自由技術になるのだから国民経済的にはプラスになるともいえます。そうやって考えると、やはり「休眠特許の活用」を求める真の理由はなかなか見当たらない。
 知財マッチング事業に参加して特許技術を提供する大企業から見ると、中小企業の開発した製品から得られるライセンス収入は、おそらくインパクトがほとんどない水準であると思います。それゆえに、知財マッチング事業を推進するためには、どういうインセンティブで大企業に参加してもらうかが重要な課題になります。社内には「海外の成長市場への進出を目指せ!」という大号令がかかっている中で、なぜ国内のニッチマーケットの開拓に向かうのか、と問われると答えようがなくて...という大企業側の意見は至極尤もであり、どこに実質的な意義を見出すことができるかです。この点については、昨年度の調査事業でお会いした日産自動車の方が「『技術の日産』を少しでも広めていきたい」と仰られていたことに、一つのヒントがあるように思いました。それにしてもこの日産自動車さんのコメント、熱い、というか格好いいです。
 まとめますと、この事業は大企業の「休眠特許の活用」を目的とするものではなく、主役はあくまでも地域の中小企業である。その中で、大企業の協力をどのように得ていくかが重要な課題の1つになっている、ということです。

 そんなことを記者の方にあれこれとお話ししたところ、上記のコメントにまとめていただきました。「中小企業の立場に立った」や「産業育成の有効な手段」はそういう趣旨を汲み取っていただいたのだと思いますが、この1文に言いたかったことの本質をよく織り込んでいただいていて、こういうのはプロの仕事だなぁと感じます。まぁ読む側からすると、そこまで読み取るなんてことはあり得ないでしょうが、本日はコメントの行間解説ということで。

キュウリの種の法則

2012-11-24 | 知財一般
 最近のセミナーでは、先日書いた「上から知財」の他に、「キュウリの種の法則」、「赤外線理論」という意味不明な説を述べているのですが、本日は「キュウリの種の法則」について。

 ここのところ禅に凝っていて、時々京都の禅寺で坐禅をしているのですが、「キュウリの種の法則」の元ネタは、「禅が教えてくれる 美しい人を作る『所作』の基本」という禅の入門書です。この本に、
 すべての事柄には、‘原因’があり、そこに‘縁’という条件が整って、はじめて‘結果’が生まれる
という仏教の考え方が紹介されています。
 その一例が、「キュウリの種」です。ここで‘原因’に該当するのがキュウリの種ですが、種を納屋にしまったままで芽が出ることはありません。土を耕して種を植え、肥料を与え、水をやり、雑草をとり、そういう‘縁’が加わることでようやくキュウリが育って実がなる、という‘結果’が生じるわけです。‘原因’があれば直ちに‘結果’が生じるわけではない。‘原因’と‘縁’が整い、‘因縁’を結ぶことによって‘結果’が生まれる、ということだそうです。つまり、よい‘結果’を得るためには、‘原因’だけでなく、良い‘縁’を結ぶことが必要。どういう‘縁’を結ぶかで‘結果’は変わってくる、だから仏教では‘縁’を結ぶこと、すなわち‘縁起’を大切にする、というわけです。

 これを読んでいて思いました。知財にも当てはまるなぁ、と。知財は‘原因’であって、どういう‘結果’を生むかは、それをどのように扱い、誰にどのように働きかけ、どのような関わり合いの中で生かされていくかという‘縁’次第である。そうすると、良い‘縁’を結ぶにはどうしたらよいか、が気になるところです。

 仏教では、良い‘縁’を結ぶには、「三業」を整えよ、と教えるそうです。「三業」とは、「身業」、「口業」、「意業」のこと。
 「身業」とは、所作を正しくする、ということですが、知財でいえば、知財制度のルールを正しく理解して、実直に実務をこなしなさい、といったところでしょうか。
 「口業」とは、愛情のある親切な言葉を使う、ということですが、知財であれば、知財人以外に理解できないような専門用語を振り回さず、関係者としっかりコミュニケーションをとりなさい、といったところでしょうか。
 「意業」とは、偏見や先入観を排して柔軟な心を保つ、ということですが、知財の場合もそのまま解釈して、知財の役割を決まったパターンの成功モデルに囚われることなく、柔軟に考えなさい、といったところでしょうか。

 というわけで、知財セミナーといえば「身業」系のものが多い中で、私が担当するセミナーでは、「意業」の部分で参考にしていただけるような情報や考え方を提供したい、ということで努力しておりますので、機会がありましたらぜひご参加ください。


<お知らせ>
1. 11月30日(霧島市) 鹿児島県工業技術センター研究成果発表会の知財セミナーで、「知的財産の力を経営に活かそう! ~中小企業の事例に学ぶ会社を元気にする秘訣~」と題して講演します。

2. 12月7日(松江市) 島根県発明協会のセミナーで、「知的財産の力で会社を元気にしよう!~各地の事例にみる中小企業のための知的財産入門~」と題して講演します。

3. 1月9日(米子市) チャレンジ The 知財2012 in 鳥取 で、「知財の力で会社を元気にしよう!」と題して講演します。

4. 1月18日(広島市) 知財協・臨時研修会(広島)で、「経営に貢献する知財活動の実践と事例紹介」についてお話させていただく予定です。


禅が教えてくれる 美しい人をつくる「所作」の基本
クリエーター情報なし
幻冬舎

金融業務に活かす知的財産の勘所

2012-03-16 | 知財一般
 昨年末から今年初めに中国地区5県で開催された「産学金官連携の推進(金融機関のリレーション シップバンキング機能強化)に向けた知財活用研究会」で講師を務めさせていただきましたが、その研究会の内容をとりまとめた「金融業務に活かす知的財産の勘所」が中国経済産業局さんのホームページで公開されました。

 「金融業務に活かす知的財産の勘所」の発行

 先日「知財は面白い。」のエントリで、「かつて米国が、シリコンバレーに新しい価値の源泉を見出し、その価値をビジネスに、経済成長に結びつけるシリコンバレーモデルを構築したように、日本もこの中小企業のもつアイデアや意志を、日本ならではのモデルで孵化させていくことができないか。」と書きましたが、シリコンバレーモデルを金融面で支えるのがベンチャーキャピタルであるのに対して、この‘ニッポンの中小企業モデル’を金融面で支えていくのが地域金融機関です。知財担保だの知財の証券化だのといったストラクチャーに拘るのではなく、ユニークな中小企業が知財活動を通じてその体力を強化し、企業としての資金調達力を強化することが王道であるはずです。これからの時代、外側から組み立てるストラクチャーとかいったことではなく、社員のプライドとヤル気を引き出して会社の体温を上げる、つまり内側から体力を強化するような地に足の着いた取組みが求められるようになるとの思いから、金融機関向けの企画ではありましたが、前者はサラッと流し、後者についてみっちりお話をさせていただきました。金融は経済の血液ですので、知財を切り口にした中小企業と金融機関の関係が、少しでも地域の血の巡りをよくすることに役立てば、と思います。

知財は面白い。

2012-02-23 | 知財一般
 毎年最初のエントリには「年頭にあたり、今年は~を」みたいなことを書いていましたが、今年は全国あちこち巡回しているうちに花粉のムズムズを感じる季節となってしまいました。遅ればせながら、最近よく感じていることを一つ。
 中小企業の知財は面白い。
 元々、自分は金融出身で知財の本流ではなく、ベンチャーキャピタリストとしてのニッチトップを狙って知財のスキルを身につけるといったスタートだったので、知財そのものに対しては「たかが特許、されど特許」とか、ややシニカルな見方をしてきたように思います。それが、中小企業をテーマにいろいろ活動をしている中で、この切り口は本当に面白いと思うようになってきました。だからもう一度書きます。

 中小企業の知財は面白い。

 何が面白いかというと、中小企業が知財というところに注目して何らかのアクションをとる、具体的には特許でも、意匠でも、商標でも、何らかの知財権を得ようと思って出願するということは、「ユニークでありたい」という意志の表れ、と捉えることができるからです。つまり、中小企業をひと括りにして見てしまうと、立場が弱くて受身である、だから弱きを助く的なイメージでいろいろな助成制度・政策支援があったりしますが、ここに知財というスクリーニングをかけてみると、その中から、ユニークでありたいという前向きな意志をもった企業が浮かび上がってくるわけです。
 昨年ASEANのワークショップに参加した後に書きましたが、ASEAN主要国でのローカル企業の年間の特許出願件数は数百件~1,000件強に対して、日本の中小企業の特許出願件数は年間3~4万件。これだけのアイデアが全国各地で生まれ、少なくとも主観的には「私が世界で最初に考えた」と思って手を挙げている。その時に行政の方にお聞きした話ですが、全国のどこにいても特許を出願できるように、公的機関の支援窓口等のインフラが整っていることに、韓国の知財関係者が驚いていたとのことです。これはおそらく、世界でも他の国にはない(あるとしたらドイツくらいか)、日本ならではのユニークさです。技術のシーズという見方をすればそういうことでもあるのですが、それ以上に、「俺たちは言われたことやってればいいのよ」といった受け身の姿勢ではなく、そこにはユニークでありたい、自分で何かを作っていくんだという意志が、全国各地にたくさん存在しているということです。これまで日本を引っ張ってきた大企業の事業モデルに限界が見えてくるなか、今度はこちらが牽引役を担う番なのではないでしょうか。
 そして、その知財の活かし方というのは、マクロでみたときにゼロサムであっては意味がない。権利を振りかざしてA社からB社にお金を動かすだけでは新しい価値の創造、マクロの経済の成長にはつながらないわけで、中小企業から出てくるシーズ、そしてユニークでありたいという意志を、価値の創造、すなわち新しいビジネスに結びつけること。かつて米国が、シリコンバレーに新しい価値の源泉を見出し、その価値をビジネスに、経済成長に結びつけるシリコンバレーモデルを構築したように、日本もこの中小企業のもつアイデアや意志を、日本ならではのモデルで孵化させていくことができないか。知財は、アイデアと意志のスクリーニングツールであるとともに、新しいビジネスを作る核にもなり得るものです。・・・なんて考えると、これはなかなか面白いではないですか。


‘クールジャパン’の‘クール’とは何か

2011-09-11 | 知財一般
 先週末のある会合で、日経電子版のコラム‘マーケット反射鏡’等を執筆されている前田昌孝氏の「クールジャパンへの期待」と題したご講演を拝聴しました。6月14日付の同コラムでも「日本再生のカギ握るクールジャパン」と題してこのテーマが取り上げられていたのですが、「クールジャパン」というと何かアニメなどのコンテンツに矮小化された話が多い中で、このコラムの「・・・商品やサービスを高く売って日本に大きな付加価値をもたらすためには、大きな前提がある。日本人のライフスタイルが世界中のあこがれの的であり続けることだ。」「・・・女性が美しさを保つためには心と体を常に磨き続けなければならないように、『クールな状態』を維持するために、相当の努力を続けなければならないのではないか。『日本人の生活なんて取るに足らない』と思われたとたんに、日本の文化は安売りされる恐れがある。」という指摘には、まさにその通りと感じました。少し前の話なので細かいところまでは覚えていないのですが、日経ビジネスのクールジャパンに関する特集に外国人の覆面座談会みたいな企画があり、その中で「日本のオタク文化のどこがクールなんだ。それを支持しているのは本当に少数派で、それを国をあげて『クール』って売り込もうとしているというのは、普通の人間から見るとほとんどお笑いだ。」といった発言を目にした際に少々ショックを受けたことがあるのですが、何が日本の「クールさ」であるのかを発信する側もよく理解しておかないと、こういった誤解(?)を招くことになってしまいかねません。
 講演の中では、日本製品の「かっこいい・センスがある」というイメージが特にアジアでは韓国製品に押されてしまっている一方で、まだ「高品質」というイメージでは圧倒しているというデータとあわせて、日本のどこがクールかという点について「『日本物語』は日々の私たちの生活から」(日本における様々なサービスの正確さや丁寧さ、安全性など)とご指摘されていたことが印象的でした。
 私見ですが、Appleのようなデザインのセンスや、韓国のような意識的・計画的なイメージ戦略をそのまま真似ようとしても、それは「日本人のライフスタイル」から生まれたものではないし、「日本ならではのクールさ」にはつながらないのではないかと思います。やはり、色々な分野での「丁寧な仕事」の積み上げこそが、「日本人のライフスタイル」から生まれる「日本ならではのクールさ」の本質なのではないでしょうか。そして、その裏づけとなっているのが「技術」なのではないか。以前に特許庁のプロジェクトで、漆喰をタイル化した‘LIMIX’を開発販売されている田川産業さんを訪問した際に、同社の行平社長から「デザインについてもいろいろ試行錯誤しているが、技術を追求するうちに必然的なデザインが生まれ、必然的なデザインこそが最も美しい」というお話を伺ったことが、今でも印象に残っています(「ココがポイント!知財戦略コンサルティング」36-37p.)。ウォシュレットの心地よさも然り。寿司の美味さや美しさも然り。日本庭園の美しさも然り。イチローのバッティングフォームの美しさも、そのイチローが「最も美しい野球選手」と称した元阪急ブレーブスのエース・山田久志の流れるような下手投げのフォーム然り。科学技術のみに止まらず、技能やサービステクノロジーまで含めた「広義の技術」を追求した先に、日本ならではの「クールさ」が生まれるのではないでしょうか。そうやって考えてみると、「クールジャパン」として括られるべきものは、コンテンツ、ファッション、食といったアウトプットの形ではなく、それらを創り出す極められた技術に裏付けられたプロセスにあるのではないか。コンテンツはコンテンツでも、綿密な研究と優れた技術、さらに強い意志のものと生み出された手塚治虫や水木しげるの作品は、コンテンツという切り口で共通するアキバのオタク文化よりも、むしろバンパーの裏まで磨くといわれる日本の自動車産業と共通する部分のほうが多いのではないか。日本人が各々の持ち場で、丁寧に、考えながら仕事をして、技術を磨き上げる。それこそが「クールジャパン」を推進することにつながるのではないか、なんて思う次第です。

ニッポンの底力

2011-06-13 | 知財一般
 あっという間に2週間も経ってしまいましたが、先月の26~27日にベトナム・ホーチミンシティで開催された日本-ASEAN知財協力事業のワークショップに参加してきました。これまでにも日本の特許庁からは、ASEAN諸国の特許制度等の整備に様々な協力を行っていますが、今回のワークショップは知的財産制度をいかに中小企業振興に役立てるかというところにスポットを当て、ASEAN諸国からは知財庁・中小企業庁・商工会等の中小企業団体から各1名が出席して情報交換をするというものです。日本側からは、知財面における中小企業支援策を説明するとともに、知的財産制度を有効に活用している中小企業の事例を紹介しましたが、事例紹介のセッションをエルムの宮原社長とご一緒に担当させていただきました。
 今回データを見て初めて知ったのですが、ASEAN各国の特許出願の状況をみるとどの国も殆どが外国企業の出願で、ASEAN主要国ですら国内企業の年間の出願件数は数百件~1,000件強しかないそうです。因みに、日本では中小企業だけでも年間3~4万件の特許出願がありますから、その差は歴然です。勿論、特許制度を整備することによって外国資本による投資が促進され、各国経済の成長にプラスになることに大きな意味があるわけですが、こと現地資本の企業の育成という点に関しては、とても特許制度が活かされている状況とは言えそうもありません。知財関係者より中小企業関係者のほうが多かったということもありますが、各国のプレゼンからも中小企業振興という目的意識が強く感じられるました。
 それにしても、こうした数字の違いを改めて見てみると、日本という国がかなり特異であることに気付かされます。JETROの方のお話によると、アジア諸国の政策担当者等が、日本全国に張り巡らされた知財の相談窓口と相談に対応できる人材の数によく驚いているそうですが、考えてみると、その相談窓口を訪れる中小企業が全国に存在し、年間3~4万件もの新しいアイデアが創出されているというのは凄い話です。アジアで強烈な存在感を示している韓国でも、おそらくこういった厚みは存在しないでしょう。昨今、日本経済というと暗い話ばかりですが、このように独自の技術を持って地域で頑張っている企業が数多く存在しているということ、究極の分散系というか、全国アメーバ経営というか、こういったユニークな中小企業の層の厚さこそが日本の特徴であり強みなのではないでしょうか。産学連携・大学発ベンチャーとか、シリコンバレーモデルとか、異文化のよい部分を取り入れることも大切ですが、地域の中小企業の強みを磨くという成長モデルを忘れてはいけません。また、ASEAN諸国等への国際協力についても、知的財産制度の整備の次には、知的財産制度を絡めた中小企業振興というメニューを提供していける可能性があるのではないでしょうか。
 もう一つ感じたことは、ASEAN諸国では「知的財産=ブランド」というイメージが強いということです。どの国でも、商標の出願件数が特許を相当上回っている他、ベトナム地元企業のプレゼンもいかにブランドを認知させるかというテーマを意識したものでした。確かに、現在の各国の状況だと、国内での売上を伸ばしていくためには、技術に裏付けられた機能の差異というより、多くの人に知ってもらうことが成功要因となるような印象です。ASEAN諸国での知財のあり方を考える際には、このあたりの感覚の違いも意識しておいたほうがよさそうです。

守備範囲を広げる必要性

2011-04-20 | 知財一般
 1週間ほど前になりますが、日経の「大機小機」のコラムにこんな記事がありました。「復興需要が経済に対してプラスになるという期待があるけれども、それは誤りである。特定の業種や企業にはプラスとなることがあっても、それは失われたインフラや設備を元に戻すものであり、原状回復に資金や人材を投入しなければならなくなる分、新しい価値を創出する機会が減じられて経済全体にはプラスにならない。それゆえに、限られた資金や人材を効率的に利用すべく、効率性を考えた財政の優先順位付けをより明確にしてムダの排除を断行するとともに、企業にとっては、電力供給の問題もあるので、より効率性を高めるために生産体制の見直しや低効率な事業からの撤退を進めなければならない。」といった内容です。確かにマクロで考えるとその通りで、これまで以上に効率的な事業運営が求められることになり、知財活動についてもより効率性と結果が求められることになってくるのだと思います。

 最近いくつかの中小企業を訪問した際に、新規事業を立ち上げるうえで障害になる要素として、2つの共通項があると感じました。
 1つめは、既存事業との兼ね合いの問題で、力のある企業であればあるほど、既存事業での引き合いが強く経営資源の多くをそちらに回さなければならない。その結果、新規事業には手が回らない状態が続いてしまう、ということです。
 もう1つは、世に出せそうなものを持っているのだけれども、それを知ってもらう機会がない。特に、現物の‘質感’を実感しないとその良さが伝わらない製品であれば、その機会を作り出すには大きなエネルギーを要するため、手つかずの状態が続いてしまうということです。
 こうした課題をクリアできないと、知財絡みの新規事業は‘低効率’であることを否めないものとなり、切り捨て(というか未着手)の対象となってしまう。このあたりまで含めたトータルなソリューションというか、少なくともそういう意識を持った取り組みに進んでいかないと、知財活動を企業の業績→経済の活性化に結びつける道は開けない。もっと守備範囲を広げていかないと、ってことでしょうか。