経営の視点から考える「知財発想法」

これからのビジネスパーソンに求められる「知財発想法」について考える

ベンチャー投資と粗利

2006-06-28 | 知的財産と投資
 5年ほど前まで、ベンチャー投資という知財とはかなり毛色の違う仕事をしていたのですが、知財の仕事をやるようになってから、前職でこうしておけばよかったと気付いたことを一点説明したいと思います。

 エクイティの審査がローンの審査と異なる点は、過去の実績より将来の見通し、安定性より成長性が重視されるということです。ベンチャーに投資する際に、過去の決算書とにらめっこしたところで本質的なことは見えてこず、企業の将来性をどうやって見通すかが重要なテーマになります。
 そこでよく言われるのが、技術力の評価だ、経営者の評価だ、ということになってくるわけですが、技術力が優れていれば必ず収益があがるというものでもないし、大体何をもって「技術力が優れている」というのか、という問題もあります。また、経営者の評価は勿論重要ですが、「人を見る眼」というのも何とも曖昧な領域で、科学的な分析に馴染むものではありません。結局のところ、ベンチャー投資の成否はキャピタリストの感性によるところが大であり、アートの世界だ、といった非科学的な方向に向かってしまいがちです。実際、そういう側面が非常に強い世界だとは思いますが。
 
 一方で、知財の仕事をやるようになって気付いたのですが、面白そうなベンチャー企業には、多くの場合、その企業が注目される「ミソ」となるような何かがあります。その何かとは、広い意味で「知財」的なものであると言ってもよいでしょう。それは、その企業が提供する商品やサービスの強み、つまり「商品力」や「サービス力」とでもいうようなもので、これをセンスのある経営者が扱うことによって化学反応を起こし、急成長を遂げることになる、といった感じです。「商品力・サービス力」と「経営センス」は成長するベンチャー企業の両輪で、かつ相補い合える性格のものでもありません。この「商品力・サービス力」をどうやって測るか、というのがベンチャー投資の判断ポイントの一つになってくるように思います。
 そうした中で、「粗利率」の記事に書きましたが、粗利率の水準というのが、「商品力・サービス力」測る一つの基準になるのではないかと思います。「商品力・サービス力」が強ければ、強気の値付けが可能であり、粗利率の水準は同業他社より高くなるはずです。立ち上がり時期で赤字だとは言っても、粗利段階の利益水準が低いのと、粗利段階では健闘していても販売促進や研究開発にコストがかかって利益水準が低いのとでは、将来の楽しみは全く違ってくるように思います。今にして思うと、投資を判断する際に、もう少し粗利に注目してみるべきでした。

 ところで上場企業はどうかというと、会社四季報や日経会社情報、さらには決算短信を見ても、売上の次は営業利益で、粗利は損益計算書までいかないと掲載されていません。米Yahoo!Financeの企業情報を見ると、Total Revenueの次はGross Profitなのですが・・・

知財業務の支援ツール

2006-06-26 | お知らせ
 私がパートナーを務めている日本IT特許組合で、ソフトウエアベンダー向けに特化した「知財・実践マニュアル」を提供することになりました。この商品の特徴は、
① ソフトウエアベンダーの知財業務に特化している
② テーマ別のショートムービー(1テーマ10分前後)で構成している
という2点です。
 これまでも、これから知財業務を始めたいという企業のために、様々なセミナー、マニュアル本などが提供されています。一方で、なかなか実務に活かせるものが少ないように思うのですが、今回の商品を企画する際には、既存のセミナーやマニュアル類の問題点として、
◆ 知財業務への取り組み方は業種によって全く異なるのに、分野別の取り組み方を初歩から解説したものが殆ど見当たらない。
◆ 「実務」という用途を考えると、数時間単位で構成されるようなセミナーやビデオ類は、必要なときに繰返し利用できるものではない。
ということを考えました。こうした問題点を考慮した結果が、今回提供する商品の①②の特徴となったわけです。項目、内容など、まだまだブラッシュアップしていくべき部分はあるでしょうし、企業ごとにあるべき知財業務の姿は様々なので、今回の支援ツールによって何もかも解決される性格のものではないとは思いますが、ちょっと確認したいことが生じた場合のガイドとして、今までにない実務的に「使いやすい」ツールに仕上がったのではないかと思っています。今回の新しい試みがどのようなご評価をいただくことになるのか、楽しみにしています。

戦術論の限界

2006-06-13 | その他
 昨日のW杯オーストラリア戦、何とも重苦しく、後味の悪い負け方でした。ジーコの戦術論についてあれこれ言われているようで、確かに戦い方によっては1対0で勝てていた試合かもしれません。W杯は結果が全てということで、そういう戦い方ができなかったことを悔いる意見にも、同意しないわけではありません。
 それにしてもあの試合を見ながら感じたことは、そもそもの個々のプレイヤーの技量の違いです。オーストラリアで得点を上げた2人は、それぞれ今期の成績がイングランドプレミアリーグで12得点、スペインリーグで10得点とかとっているそうで、そういう選手が途中交代で入ってくるのだから、何とも恐ろしい限りです。一方で、われらがジーコジャパンに目を移してみると、主力選手でも欧州トップクラスのリーグでは試合に出れるかどうかという感じですから、戦術の差という以前に、力の差が素直に結果に出たということではないかと感じてしまいました。

 こじつけるわけではありませんが、「知財戦術」にも同じようなことが言えるのではないでしょうか。特許のとり方がどうだとか、戦術的な工夫にはどうしても限界があり、事業の成否の大部分は、根っこにある「知的財産」の部分で決着してしまっているように思います。
 「知財戦術」を担当する我々も、優れた「知的財産」と向き合って、「勝利=事業の発展」という結果につなげていきたいものですね。

知財2.0

2006-06-02 | 知財業界
 巷では、「Web2.0」が時代のキーワードとなってきました。
 梅田望夫氏の「ウェブ進化論」によると、
「ネット上の不特定多数の人々を、受動的なサービス享受者ではなく能動的な表現者と認めて積極的に巻き込んでいくための技術やサービス開発姿勢」
がその本質とされています。同書は、Webの世界に関する情報をあれこれ羅列するものではなく、今起こっている変化の本質を追求した良書ですが、何か、知財の世界で起こるべきこと、起ころうとしていることにも繋がる部分があるのではないかということを感じました。

 「知財1」の世界では、知的財産権というものは知財ムラの住民だけが専門に取扱うもので、ビジネスパーソンにとっては「専門家に委ねるべきもの」の枠を超えるものではありませんでした。知財ムラも以前とはかなり状況が変わってきたので、新しいサービスを模索する動きが活発になっています。しかしながら、「専門家に委ねるべきもの」の枠の中で、サービスの深彫りや質の向上を図ろうとする方向は、「知財1.1、知財1.2・・・」の世界であって、基本的にはマイナーチェンジの範囲を超えるものではないように思います(勿論、1.1、1.2の路線も顧客ニーズに合う限りは十分に意味のあるもので、フルモデルチェンジでなければダメだという話ではありません。)。
 
 では、「知財2.0」とはどういうことでしょうか。
 以前に、「知財の民主化」という表現でイメージしたことがあるのですが、「知財2.0」といったほうがしっくりきそうです。「知財2.0」の作り出す世界では、知財ムラの住民とビジネスパーソンの境目は限りなく曖昧になり、知財も経営ツールの1つとして、多くのビジネスパーソンにごく普通に意識されるようになる状態を支えるサービスが、「知財2.0」の本質的なイメージです。まだうまく説明できないのですが、誰に対しても画一的なサービスを提供するのではなく、企業の知財部門以外の各部門のいろんなニーズ(例えば、新規事業の企画会議に出席して、知財の切り口から参入障壁について議論するとか、金融機関の審査において投融資判断に必要なレベルの情報を提供するなど)に応えるられるような多様なサービスをイメージしています。もちろん、サービスを受ける側が能動的になるからといって、ビジネスパーソンに知的財産権に関する細かい知識を覚えてもらおうとかいう供給者側の論理を押し付けるサービスのことではありません。

 まぁ、コンセプトを語るは易くても、実行するのは難し、というのが現実ですが。でも、イメージをしっかり持っていないと、そちらに歩を進めることもできませんので、、、