amazonの「中小企業経営」のカテゴリのランキングで上位に出てくる&自分の出身地である奈良の会社の社長の著書、ということで気になっていた「小さな会社の生きる道」を読みました。
ここで紹介されている事例は、いずれもその中小企業自身が十分に捉えきれていないオリジナリティを見える化し、それを商品(ブランド)の中で表現して顧客に伝えるというもので、まさにこれは自分の考える「小さな知財屋の生きる道」と通じるものがあると共感しましたが、その中から特に印象的であった部分を一つ。まとめの部分に書かれていたことですが、「ブランディングとマーケティングは違う」として、
マーケティング=市場起点
ブランディング=自分起点
と整理されています。
つまり、市場分析→自社のポジションを探すのがマーケティング、自社のやりたいこと・作りたいもの→市場におけるポジションを認識するのがブランディングということで、中小企業には後者が適している、なぜならば、高度な市場分析にかかるコストは中小企業には負担が重い&中小企業はそれほど大きな市場をとる必要がないからだ、というのが著者の中川氏の考えです。その通りだと思います。
そして、この話から思い出したのが、2006年度の「地域中小企業知的財産戦略支援事業」でとりまとめた、標準的な中小企業向け知財コンサルティングのプロセス(「中小・ベンチャー企業知的財産戦略マニュアル2006」23p.)です。
ここに標準として示したプロセスでは、初めに自社と他社の特許をマッピングして、特許からみた攻めるべきポイントを分析する、としています。これはどちらかというとマーケティング(要するに「アウトサイド・イン」)に近い発想に基づくものですが、確かにやっておいたほうがよいし、実際に取り組んだモデル企業にも確かに有益な情報が得られたと喜んでいたのだけれども、これを標準のプロセスの一つとして必須のものと考えるべきなのでしょうか。実際多くの場合、時間や費用を考えると優先順位は劣後とならざるを得ないし、仮にコストの問題には目をつぶったとしても、これが理に適っているのは頭ではわかるのですが、何だかモヤモヤした感じを拭うことができませんでした。
結局そのモヤモヤの原因は何だったのかというと、事業というのは周囲の環境がどうであれ、まずは自らがやりたいと思うこと、やるべきだと信念をもって思えること、そこを基点に考えるのが第一である、その部分がちょっと見えていなかったということでした。特に中小企業というのは、多くの場合、大企業のように責任が分散されているわけではなく、会社のオーナーでもある社長が一人で責任を背負い、命を懸けてやっているものなので、「これをやりたい、やらねばならぬ」という強い意志に支えられていないと、とても続けられるものではないからです。だからこそ、中川氏の整理でいえば「ブランディング=自分起点」(要するに「インサイド・アウト」)を基本に考えるべきであり、知財についても、まずはその会社の強み、その会社にしかないもの(=知的財産)を見つけ出し、それを商品やサービスの中に的確に表現して顧客に伝える、そしてその顧客に伝えるルートを調える上で他社権利の確認や対処法を考える、そういう順序で進めていくべきと考えます。つまり、アウトサイド・インではなく、インサイド・アウトで考えるべきだ、ということです。
そういえば、先日読んだ「経営センスの論理」にも、面白いことが書いてありました。強い日本企業には専業メーカー(ダイキン、日本電産、コマツetc.)が多い、つまり、一つのことをコツコツとやり続ける(&そのことが長い時間軸での変化対応力にもつながっている)のが得意な「中小企業の国」であると。日本人には元々ポートフォリオという概念がないから、環境の変化に応じてスパッと事業を切り替える、GEやサムスンのようなやり方は得意でない。だから、専業をテコに競争力を高めている中小企業的な経営のほうが日本企業は力を発揮できるのではないか、とのことです。
確かにそのとおりで、環境によって事業構造を柔軟に切り替えるポートフォリオ経営で成功している日本企業というと、オリックスかソフトバンクくらいしか思い当りません。一方で、電機メーカーの中でも復活が早かった三菱電機や日立はどうかというと、アップルのようなビジネスモデルを実現したのではなく、本来の得意分野を基盤にした「中小企業的な経営」に回帰したのが功を奏したといえるのではないでしょうか。以前に読んだ「ビジネスで一番、大切なこと」には、他者との差異を意識してそこを埋めようとすると、結果的に同質化を招き、かえって競争力を失ってしまう(同質化=価格競争の泥沼に陥る)、といったことが書いてありましたが、やっぱり戦いの基本は、周りを見て自分の居場所を決めるのではなく、自分の強みをよく理解してその強みを活かして前に進んでいくことです。
ダラダラと書いてしまいましたが、「小さな会社の生きる道」は大事な考え方を改めて確認する、よいきっかけになりました。あと、この本には知財権についても少々言及があり(基本的には費用対効果を考えると優先順位は低いというスタンス)、そこはいろいろ考えてみたいところなのですが(「権利をとらないとリスクがありますよ」といった法律家にありがちな脅迫系のコメントではなく、費用対効果をどう考えるかについて-やはりまずは経営者の感じ方を真摯に受け止めるべきですので)、長くなってきたのでまたの機会にということにしておきます。
ここで紹介されている事例は、いずれもその中小企業自身が十分に捉えきれていないオリジナリティを見える化し、それを商品(ブランド)の中で表現して顧客に伝えるというもので、まさにこれは自分の考える「小さな知財屋の生きる道」と通じるものがあると共感しましたが、その中から特に印象的であった部分を一つ。まとめの部分に書かれていたことですが、「ブランディングとマーケティングは違う」として、
マーケティング=市場起点
ブランディング=自分起点
と整理されています。
つまり、市場分析→自社のポジションを探すのがマーケティング、自社のやりたいこと・作りたいもの→市場におけるポジションを認識するのがブランディングということで、中小企業には後者が適している、なぜならば、高度な市場分析にかかるコストは中小企業には負担が重い&中小企業はそれほど大きな市場をとる必要がないからだ、というのが著者の中川氏の考えです。その通りだと思います。
そして、この話から思い出したのが、2006年度の「地域中小企業知的財産戦略支援事業」でとりまとめた、標準的な中小企業向け知財コンサルティングのプロセス(「中小・ベンチャー企業知的財産戦略マニュアル2006」23p.)です。
ここに標準として示したプロセスでは、初めに自社と他社の特許をマッピングして、特許からみた攻めるべきポイントを分析する、としています。これはどちらかというとマーケティング(要するに「アウトサイド・イン」)に近い発想に基づくものですが、確かにやっておいたほうがよいし、実際に取り組んだモデル企業にも確かに有益な情報が得られたと喜んでいたのだけれども、これを標準のプロセスの一つとして必須のものと考えるべきなのでしょうか。実際多くの場合、時間や費用を考えると優先順位は劣後とならざるを得ないし、仮にコストの問題には目をつぶったとしても、これが理に適っているのは頭ではわかるのですが、何だかモヤモヤした感じを拭うことができませんでした。
結局そのモヤモヤの原因は何だったのかというと、事業というのは周囲の環境がどうであれ、まずは自らがやりたいと思うこと、やるべきだと信念をもって思えること、そこを基点に考えるのが第一である、その部分がちょっと見えていなかったということでした。特に中小企業というのは、多くの場合、大企業のように責任が分散されているわけではなく、会社のオーナーでもある社長が一人で責任を背負い、命を懸けてやっているものなので、「これをやりたい、やらねばならぬ」という強い意志に支えられていないと、とても続けられるものではないからです。だからこそ、中川氏の整理でいえば「ブランディング=自分起点」(要するに「インサイド・アウト」)を基本に考えるべきであり、知財についても、まずはその会社の強み、その会社にしかないもの(=知的財産)を見つけ出し、それを商品やサービスの中に的確に表現して顧客に伝える、そしてその顧客に伝えるルートを調える上で他社権利の確認や対処法を考える、そういう順序で進めていくべきと考えます。つまり、アウトサイド・インではなく、インサイド・アウトで考えるべきだ、ということです。
そういえば、先日読んだ「経営センスの論理」にも、面白いことが書いてありました。強い日本企業には専業メーカー(ダイキン、日本電産、コマツetc.)が多い、つまり、一つのことをコツコツとやり続ける(&そのことが長い時間軸での変化対応力にもつながっている)のが得意な「中小企業の国」であると。日本人には元々ポートフォリオという概念がないから、環境の変化に応じてスパッと事業を切り替える、GEやサムスンのようなやり方は得意でない。だから、専業をテコに競争力を高めている中小企業的な経営のほうが日本企業は力を発揮できるのではないか、とのことです。
確かにそのとおりで、環境によって事業構造を柔軟に切り替えるポートフォリオ経営で成功している日本企業というと、オリックスかソフトバンクくらいしか思い当りません。一方で、電機メーカーの中でも復活が早かった三菱電機や日立はどうかというと、アップルのようなビジネスモデルを実現したのではなく、本来の得意分野を基盤にした「中小企業的な経営」に回帰したのが功を奏したといえるのではないでしょうか。以前に読んだ「ビジネスで一番、大切なこと」には、他者との差異を意識してそこを埋めようとすると、結果的に同質化を招き、かえって競争力を失ってしまう(同質化=価格競争の泥沼に陥る)、といったことが書いてありましたが、やっぱり戦いの基本は、周りを見て自分の居場所を決めるのではなく、自分の強みをよく理解してその強みを活かして前に進んでいくことです。
ダラダラと書いてしまいましたが、「小さな会社の生きる道」は大事な考え方を改めて確認する、よいきっかけになりました。あと、この本には知財権についても少々言及があり(基本的には費用対効果を考えると優先順位は低いというスタンス)、そこはいろいろ考えてみたいところなのですが(「権利をとらないとリスクがありますよ」といった法律家にありがちな脅迫系のコメントではなく、費用対効果をどう考えるかについて-やはりまずは経営者の感じ方を真摯に受け止めるべきですので)、長くなってきたのでまたの機会にということにしておきます。
老舗を再生させた十三代が どうしても伝えたい 小さな会社の生きる道 | |
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阪急コミュニケーションズ |
おそらくどちらか一方だけで事業は成り立ち得ないので、
(1)おいしそうなマーケットを見つける→リソースを集める
(2)自社のリソースを確認する→マーケットを決める
という考え方の順序の違いになると思うのですが、貴社の場合、リソース(人材・情報・顧客基盤や調達ルート)を活かせる場所としてニッチマーケットにターゲットを絞る、という(2)になるのではないでしょうか。
尤も、Katayama社長はちょっと日本人離れしているところもあるので、オリックスやソフトバンクみたいなやり方もできたりするのかもしれません。