経営の視点から考える「知財発想法」

これからのビジネスパーソンに求められる「知財発想法」について考える

考える順序

2010-02-19 | 知財発想法
 物事を考える順序について、最近考えることをいくつか。

 前回のエントリに関連して。知財マネジメントシンポジウム(名古屋)で鍋屋バイテック会社・金田社長がポロッと最初にこうこぼされました。「これまで『知的財産』という観点で考えたことがなかったので・・・」(表現は正確ではないですが)。これはおそらく他の企業でも同じで、「知財の創造、活用」なんて頭でものを考える経営者はまずおられないでしょう(そういう話をされたとしても、それは相手が知財人だからそう言っているだけ)。「競争力を強化する」という手段の一つとして、有効であれば知財活動に取り組む。そういう順番です。

 これも根本的には同じ話だと思うのですが、昨年からお手伝いをさせていただいている横浜市の知財を活用した資金調達に関するプロジェクトで「知財情報の開示を資金調達に活かせないか」というテーマでいろいろ取り組んでいるのですが、そこでの経験から感じることは、資金調達をしたいのであれば「知財情報」から資料を作ってはいけない、ということです。融資や出資などのコーポレートファイナンスで資金を調達するのであれば、資金の出し手の関心は会社の事業計画であり、いくら価値のある知財を保有しているといったところで、それが事業計画、将来のキャッシュフロー(=返済原資)に結びつかなければ意味はない。逆にいえば、価値のある知財であれば、わざわざ別建てにして評価しなくても、そこからのキャッシュフローは事業計画に織り込まれているはずです。だから、まずは事業計画書を作る。その事業計画の中で知財(知財権)がどのような働きをするかを考え、事業計画の実現性を補強する材料として知財情報を織り込んでいく。事業計画が先、知財情報で補強するのであって、知財情報が先ではない。

 中小・ベンチャー企業の知財支援なんかもそうで、先日のエントリにも書いたように、中小企業向けにいい仕事をしたいと思えば、「中小企業に興味を持つこと、面白いと思うこと」が第一の条件である。中小企業やベンチャー企業に興味をもち、その実情を理解し、そこに自らの知財のスキルを適用して貢献する。それが物事の順序というものであって、「知財コンサルをやりたいけど大企業は難しいから中小・ベンチャー企業だ」っていうのは、たぶん順番が逆なんでしょう。だから、探求すべきは中小企業やベンチャー企業の何たるかであって、知財コンサルという手段ではない、ってことなんだと思います。

セミナー等のお知らせ

2010-02-19 | お知らせ
 これから3月にかけてのセミナー等の宣伝です。

2月25日 四国経済産業局・21年度知財先進都市支援事業 知的財産戦略研修会
 「経営課題に応える知的財産活動のあり方」を担当します。

3月5日 特許庁・中小企業のための知的財産経営シンポジウムin大阪
 基調講演「中小企業における知的財産経営の視点」と、パネルディスカッション「知財経営の定着に向けて」のモデレータを担当します。後者は、パネルディスカッションというより、昨年の同時期にも京都等で行ったトークセッションと同じ形式で、社長お一人ずつにご登壇いただき、インクタンク・ジャパンの塚越社長との熱いトークをお届けする予定です。

3月12日 特許庁・中小企業のための知的財産経営シンポジウムin広島
 基調講演「中小企業における知的財産経営の視点」と、パネルディスカッション「知財経営の定着に向けて」のモデレータを担当します。こちらのトークセッションでは、広島でご活躍の信末弁理士、広島ご出身の木戸弁理士が登場されます。私だけ地縁がなくて申し訳ありません(広島は土生の苗字が多いようではありますが・・・)。

3月18日 千葉市にて「ITベンチャーのための経営に役立つ知的財産入門~ソフトウェア特許を中心に~」について講演します。


知財って儲かりまっか?

2010-02-10 | 知財発想法
 知財をやったら(「知財活動に取り組んだら」の意)儲かるのか、利益につながるのか。
 こういう根源的な問いに対して最近よく思うのが、中間の重要な要素をすっ飛ばして議論がされていないか、ということです。その要素とは、「(企業の)競争力を強化する」、というものなのですが、
 知財活動に取り組む ⇒ 競争力が強化される ⇒ 利益に結びつく
のであって、この中間をすっ飛ばして、知財活動そのものが利益に結びつくかどうかを議論すると、もっと‘活用’すべきだ、ライセンス料はいくらとれてるのか、訴訟をやらなきゃ、と話が妙な方に向かってしまいます。競争力強化という視点で考えるなら、例えば、特許訴訟に勝ったとしても争いの過程で嫌気をさした顧客が離れていけば競争力は低下するし、知財を囲い込まず開放して協力者を増やしていったほうが自らのポジションを押し上げていくことになるかもしれない。つまり、知財が利益につながるかどうかを論ずる手前の部分で、競争力を高めるためにどうしたらよいか、をよく考えるべきということになるかと思います。

 この点について、昨日の知財マネジメントシンポジウム(名古屋)での鍋屋バイテック・金田社長様のお話は、大変示唆に富んだものでした。社長様曰く、
企業の競争力とは、顧客との結びつきを強める力である
と。つまり、知財を‘活用’することが、顧客(+提携先など社外の協力者も含む)との結びつきにマイナスに作用するようなものであっては、短期的な数字に貢献したとしても、それは「競争力の強化→企業の持続的な成長」につながるものではない。私自身、これまでは「知財活動→参入障壁の強化→収益力の向上」というシナリオに目が行き過ぎていたか、と反省させられることの多い今日この頃です。知財は深い、そして難しい。

焼き鳥からうどんへ

2010-02-08 | 企業経営と知的財産
 今朝のテレ東のE morningに‘丸亀製麺’で急成長しているトリドールの粟田社長が出演されていました。霞ヶ関コモンゲートにも出店しているので時々利用することがありますが、確かに悪くない店なので急成長しているのも頷けます。この不況下でさらに出店を加速させているとのことですが、社長曰く「参入障壁の低い=真似されやすい業態なので、早く市場を抑えてしまうことが重要だ」とのこと。経済状況が悪いと、出店に適した物件を手に入れやすく、さらに即戦力となる優秀な人材も確保しやすい。出店が速やかに進み、経験豊富な人材を投入できるから、業績好調のまま店舗展開が加速する。そういう好循環でどんどん突き進み、市場を制圧していくことが、まさに参入障壁になるだろう、という話です。
 知財屋からすると、これぞ知的資産経営だ(∵知財権に頼らなくても人材とノウハウの強みを経営に活かしている)、ブランド戦略だ(∵‘丸亀製麺’ブランドの浸透で経営の基盤を固めている)、なんて言いたくなりそうなところですが、それってなにか後付けっぽい。経営者からすると、経済環境の悪さを逆にチャンス(=良質な経営資源が低コストで手に入る)と捉え、将来性を見出した市場(麺類の市場は外食産業の中でもチェーン化が著しく遅れているそうです)に勇気をもって投資する、というシンプルな経営戦略を遂行している、という捉え方に過ぎないのではないかと思います。サムソンなんかもよく例に挙げられる戦略ですが、後から聞くと「そら成功するわ」というとてもシンプルな話なのですが、どうして誰にでもできるものではないのか。それはたぶん、
(1) 普通の人には、不況下で投資を積極化するような勇気がない
(2) 普通の人は、将来性のある市場を見間違えてしまう
ということなのではないかと思います。(1)などは、実際に自分も独立して商売をしてみると、それがどんなにハードルの高いことかよくわかります。(2)については、固定観念を抜きにして‘将来性’を考えることがなかなか難しく、どうしても将来性のある市場を現在自分が取り組んでいる領域に結び付けてしまおうとするところが厄介であると思います。あえて例は挙げませんが、たぶん知財の分野でもよくある話です。トリドールが上場したときは、確か焼き鳥屋さんであったかと思いますが、鳥以外のところに将来性を見出して経営資源をシフトさせた。シンプルですが、やはり誰にでもできる話ではありません。