経営の視点から考える「知財発想法」

これからのビジネスパーソンに求められる「知財発想法」について考える

知的財産の力で中小企業を活性化

2013-08-21 | 企業経営と知的財産
 日本知的財産協会さんの「知財管理」誌7月号に寄稿させていただいた論説、
知的財産の力で中小企業を活性化-中小企業のための知的財産戦略-
のPDFを こちらhttp://www.ipv.jp/images/archives/ipm1307.pdf) に公開させていただきました。

 「中小企業と知的財産」といったテーマになると、
・ 知財意識が不十分。知財リスクを伝える啓発活動が必要だ!
・ 資金の負担、専門知識の不足が課題。資金面の支援、専門人材の育成を推進すべきだ!
といった論調になりがちですが、おそらくそこばかりを頑張っても問題の解決にはなりません。本質は別のところにある、この論説にはそんなことを書かせていただきました。
 以下、「はじめに」の部分の抜粋です。

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 知的財産活動は,最先端の技術やデザイン,著名なブランドを扱う大企業が取り組むべき業務であり,中小企業には縁遠いもの。そのようなイメージをもたれやすいなか,中小企業において知的財産への取組みが後回しになりがちな理由として,権利の取得等にかかる資金面の負担,専門性を備えた人材の不足などを指摘されることが多い。
 では,中小企業向けに権利取得等のための助成金を設け,専門性を備えた人材を供給しさえすれば,中小企業の知的財産活動は促進されるのであろうか。答えはおそらく「否」である。
 筆者は,金融機関勤務時には6年半にわたりベンチャーファイナンスを担当し,多くの中小・ベンチャー企業をサポートした。また,弁理士として独立後は,特許庁の中小企業の知的財産戦略支援関連の事業に参加して,先進的な中小企業の事例調査にあたったほか,近年は各地の経済産業局や自治体の主催する事業で多くの中小企業に接してきている。こうした経験を踏まえていえるのは,中小企業の経営に役立つ活動として知的財産活動が定着するために必要なことは,予算や人材といった知的財産活動を推進するための「仕組み」に関する事項だけではない,ということである。より本質的な問題は,知的財産活動に取り組むことによって何を目指すのかという「目的」であって,これを本当の意味で十分に捉えきれていない企業が多いことが,多くの中小企業にとって知的財産活動が縁遠いものとなってしまっている大きな要因であろうと考えている。
 本稿では,そのように考える根拠の一部を示すとともに,中小企業が知的財産活動に取り組む「目的」を考えるためのヒントを示していくこととしたい。



お知らせ4件

2013-08-16 | お知らせ
 本日は、お知らせを4件。

 今年度もこの後、いくつかセミナーが予定されていますが、私が講師を担当させていただくセミナーは実務系ではなく、知財活動に取り組む意義や知財活動で成果を上げている企業の事例紹介をテーマにしたものが殆どです。こうしたセミナーは、参加者の皆様の目的や問題意識が比較的絞り込まれた実務系のセミナーと異なり、知財に対する考え方や現在の意識、さらにより根本的な問題として、各々の企業が取り扱う製品やサービスの特質、市場の特性やポジションが参加者によって様々であるため、「こうやればよい」という正解をズバリと示せるわけではありません。
 知財権を保有することに満足せず積極的に権利行使すべし! 休眠特許を流動化して資産効率を高めよう! といった威勢のいい話のほうがインパクトはあるのかもしれませんが(メディアは往々にしてそういう方向性でまとめたがりますが)、それは市場におけるポジションや抱えている経営課題についてある条件が調った企業(前者であれば、商品開発や市場開拓が順調にいっているものの模倣品によるシェアの低下や値崩れに悩まされているといった企業、後者であれば、開発の方向性と市場のトレンドに乖離が生じてしまったために業績が悪化、そうした中で新たな方向で開発を強化するために資金調達が必要といった企業)にとって有効な知財マネジメントということであって、どの企業もそうあるべきだ、と言えるような原理原則というわけではありません。そうした中で、多くの企業に当てはまる共通項を示そうとすると、「上から知財」のような抽象論に止まってしまわざるを得ないのですが、あくまで原則論として示すのはそうした共通項に止め、あとはできるだけ多くのパターンを示すための具体例を紹介することで、ご参加いただいた企業に近いケースをピックアップして参考にしていただく、これからもそういったスタンスでお話をさせていただきたいと考えています。

(1) プロダクトデザイナー・大口二郎氏が上梓された「稼ぐデザイン力!2.0」(Kindle版)の145-149p.に、「知的財産とは」を寄稿させていただきました。大口氏の前作、「稼ぐデザイン力」にはデザインの本質が事例をあげながらわかり易く解説されており(「原理原則は『知財だから』というわけではなく。」のエントリ参照)、私もこれから読ませていただきますが、大変楽しみです。

(2) 9月6日(金)、浜松地域イノベーション推進機構・第42回知財問題研究部会及び知財経営研究部会合同部会(@浜松市)において、「中小企業の成功事例に見る!~会社を元気にする知的財産の使い方~」と題して講演をさせていただきます。

(3) 9月17日(火)、秋田県発明協会・知財セミナー(@秋田市)で、「知的財産で引き出す会社の底力」と題して講演をさせていただきます。秋田では、昨年もほぼ同じ時期に知財セミナーの講師を担当させていただきましたが、今年は事例を補強してお話させていただく予定です。

(4) 11月11日(月)、日本知的財産協会・臨時研修会(@名古屋市)で、「経営に貢献する知財活動の実践と事例紹介」の講師を担当させていただきます。今年の1月にはほぼ同内容の研修を広島で担当させていただきましたが、名古屋地区の企業の皆様にお会いできるのを楽しみにしております。

稼ぐデザイン力!2.0 (稼ぐ「デザイン力!」)
大口 二郎
POD

NOMOと老典座

2013-08-12 | プロフェッショナル
 仕事には直接関係のない話を少々。
 昨日はMLBファンにとっては、ドジャースタジアムでの野茂の始球式、ケン・グリフィーJr.のマリナーズ殿堂入りセレモニー、という大イベントが重なった日でしたが(ケン・グリフィーJr.のキャリア最後の630号HRがライトスタンドに飛び込むのを目の前で見たのがプチ自慢の私は後者のネット中継に噛り付いていましたが・・・)、野茂についてこんな記事を見つけました。
 野茂が始球式を行った試合に先発したMLB屈指の好投手のザック・グリンキーは、野茂のキャリア最終年のチームメートでもあり、野茂についてこんなエピソードを語ったそうです。

 「彼は40歳近い年齢だったのに、2時間にわたる打撃練習でもずっと球拾いをしていた球拾いをやめて中に入ってはどうかと声を掛けても他の選手と一緒にずっと球拾いをしていた。彼がキャリアでどれだけのことを成し遂げてきたかは誰もが知っていたけれど、彼は決してそれを鼻にかけるようなことはしなかった。ああいう一面を僕も見習いたいと思った」

 このエピソードで思い出したのが、いきなり仏教の世界に飛んでしまいますが、道元の典座教訓に出てくる老典座の話です。
 どんな話かは、こちら→「道元禅師と典座教訓」に紹介されていますが、要するに、食事の準備に汗を流す年老いた典座(=食事の用意を担当する僧侶)に、そんなことは若い人に任せて坐禅や仏法の勉強をしたらどうですか、と若き日の道元が尋ねたところ、今やっているこの典座の仕事こそが大事だ、と返され、道元が修行の何たるかを知った、という話です。
 華やかな仕事だけでなく、目の前にある目立たなくても大事な仕事をしっかりとこなすことこそが修行である、ということです。

 というわけで、この酷暑の中、お盆休みは溜まった仕事を片付けるだけだよ、という皆さん(含む自分)。FBを開けるとちょっとイラッときてしまったりするかもしれませんが(笑)、NOMO精神、老典座精神で頑張りましょう。

知識創造のプロセスと知財活動

2013-08-11 | 書籍を読む
 知財を専門に扱う者の守備範囲は、どこからどこまでなのか。
 拙著「元気な中小企業はここが違う!」の整理でいえば、開発等によって創り出された知的財産に「かたちをつける」ことがメインで、時として「外部にはたらかせる」ことにも関与することがある。公式の分類に従えば、創造された知的財産を「保護」するのがメインで、「活用」に関与することもある。そういった捉え方になるかと思います。
 しかしながら、この範囲にいてできることにはやはり限界があり、知財の仕事をしているとそのことを度々痛感させられます。ビジネスの成功要因として「創造」と「保護」のどちらがより重要かといえば、それはいうまでもなく「創造」のほうです。「創造が○、保護が×」でも力技で何とかなってしまうケースがある一方で、「創造が×、保護が○」で成功するというケースはおよそ考え難いからです。脱デフレ、国際的な産業競争力の強化といった課題に対処するためにも、知的財産の「保護」や「活用」を論ずる以前に根本的に必要とされているのは、優れた知的財産を「創造」することです。ゆえに、現在は「保護」が中心のいわゆる「知財の仕事」のウィングをどのように広げられるかを考える場合、権利行使やライセンス、流動化といった「活用」の領域より、開発力がアップするような「創造」の領域にどのように関与できるか、そこにより関心があります。
 この点について、「元気な中小企業はここが違う!」や「経営に効く7つの知財力」では、知財活動によって他との違いを「見える化」することの意義を説明し、それが開発力の強化(=「創造」の促進)に繋がり得ることにも言及しています。「見える化」とは何ぞやを理解するために、以前に「見える化-強い企業をつくる『見える』仕組み」は読みましたが(この本の「見える化」は隠れた問題を発見するという意味での「見える化」が中心なので、他との違いや自社の強みを「見える化」とはちょっとニュアンスが異なります)、この領域についてもっとしっかりと考えてみたいということで、今さらながらでお恥ずかしい限りですが、知識創造に関する名著である「知識創造企業」を読みました。さすがに長く読み続けられているだけあって、内容は非常に濃く、読む際には蛍光ペンが手離せません。この後も繰り返し読むことになりそうな書籍です。

 まだまだモヤモヤした部分が多いし、この本の理解が不十分であるところもあるかもしれませんが、自分用の覚書きという意味も込めて、少し整理しておきたいと思います。
 この本は、組織的な知識創造のプロセスを明確に整理し、知識創造を促進するための組織構造やマネジメント形態を提言するものですが、知識創造のプロセスについての基本的な考え方は次のとおりです(と私は理解しています)。

 まず、知識を創り出す主体は、組織でなく個人である。個人を抜きにして知識の創造はあり得ない。しかし、その知識が組織として共有・増幅されなければ、知識が高度化していくことはない。
 では、個人の創り出した知識がどのように高度化されていくかというと、それは図に示したように、
(1) 暗黙知の共同化(暗黙知⇒暗黙知)
(2) 暗黙知の表出化(暗黙知⇒形式知)
(3) 形式知の連結化(形式知⇒形式知)
(4) 形式知の内面化(形式知⇒暗黙知)
というスパイラル状に進化していくものである。
 つまり、個人の中にあった知識(暗黙知)が、共同作業やディスカッションを通じて共有可能な知識(形式知)として表出化され、それらの表出化された知識(形式知)が連結されることで新しい技術や製品を生み出し、それらの知識や体験が個人に蓄積されることで新たな知識(暗黙知)を生み出すという、暗黙知と形式知の相互作用が新たな知識の創造、知識の拡大を生む、ということなのです。
 そしてこのプロセスについて、
知識創造プロセスのうち最も重要なのは、暗黙知が形式知に変換されるときである。・・・我々の勘、知覚、メンタル・モデル、信念、体験が、形式的・体系的な言語で伝達できるなにものかに変換されるのである。・・・」
と述べられているように、(2)の暗黙知の表出化=「見える化」のプロセスは、非常に重要な位置づけにあるのです。

 知財活動において主要な部分を占めている、発明の発掘~特許出願や営業秘密管理までのプロセスは、まさにこの(2)のプロセスに当てはまるものであり、さらに細かくいえば、発明者との対話は(1)の共同化のプロセスに当てはまるともいえるでしょう。商標だって、調査や出願だけを見るとこのプロセスに位置づけるのは難しいですが、自社の製品やサービスを通じて何を表現し、顧客に何を伝えたいかを論じ、それを商品名やマークとして表出化させるところに踏み込めれば、明らかに(1)や(2)のプロセスに該当します。
 そして、現在の知財活動であまりできていないと思われるのが、(3)や(4)のプロセスです。つまり、表出化された形式知を連結化させ、さらにそれらの形式知を個人に内面化させること。
 ここで思い当たる事例が、「元気な中小企業はここが違う!」で紹介したオーティスさんが作成されている「特許マップ」(p.63-66)や、しのはらプレスサービスさんが「知識集約型」として作成を進めている作業マニュアル(p.78-80)です。
 見える化した知財情報を整理し、社員にフィードバックする。知財活動が断片的な取組みに止まるのではなく、スパイラルの一部として知識創造のプロセスに貢献していくためには、こうした活動がキーになってくるのではないでしょうか。

知識創造企業
クリエーター情報なし
東洋経済新報社


見える化-強い企業をつくる「見える」仕組み
クリエーター情報なし
東洋経済新報社