経営の視点から考える「知財発想法」

これからのビジネスパーソンに求められる「知財発想法」について考える

粗利率

2006-04-30 | 知財発想法
「どうして特許が必要か」という問いに対するもう1つの回答として、「粗利率(売上総利益率)」を考えるという視点について説明したいと思います。

 粗利率とは、
 (売上高-売上原価)÷売上高
により計算される利益率のことです。

 経営指標の中で特に注視する利益というと、銀行時代であれば営業利益か経常利益、VC時代には1株利益のベースになる純利益を第一に考えていました。
 しかしながら、知財の仕事に関わるようになってから、
 「実は、粗利(&粗利率)が、とても重要な指標なのだ。
と考えるようになっています。
 粗利率というのは、平たく言うと、いくらで作った商品をいくらで売れたかという、
 「商品のそのものの力
をシンプルに示す指標です。わかり易く言えば、「粗利率が高いほど、言い値に近い値段で商品が売れている」ということで、さらに言い換えると、粗利率の高い商品は、
 「価格決定力を備えている
商品であると言えると思います。勿論、企業経営において最終的に重視されるのは経常利益や純利益ですが、粗利率が低い場合、いくら販売の効率化や財務体質の改善を進めたところで、増やせる利益の程度には限界があります。これに対して、粗利率の違いは、リストラ等による増益に比べて相当に大きな金額として効いてくるのが通常です。

 「商品そのものの力」「価格決定力」が粗利率を決定する要因であるとすると、特許権というのは、実はこの要因に深く関与してくるものなのです。特許戦略が効果的に機能した場合に本来現れるべき事象は、競合や顧客に対する立場が有利になり、価格決定力が強化されるということです。その結果は、粗利率に現れてくるはずです。特許権によって得られる利益というと、ライセンス収入云々が言われることが一般的ですが、普通の事業会社にとってライセンスによる利益は付帯的な利益に過ぎず、本業において特許権が有効に機能した場合、それが現れる指標は「粗利率」なのではないか、と思うのです。
 この考え方は、私の知財業務に対する考え方のベースとなっているものなので、今後の記事においても随時触れていきたいと思います。

企業の資産

2006-04-26 | 知財発想法
 「どうして特許が必要か」という問いに対して。特に経営者向けのものとして、2つの回答を用意しているのですが、そのうちの1つを紹介します。

 前職でベンチャー企業への融資を担当していたときのことなのですが、「技術力がある」と注目された企業で内紛が起こり、コアとなる技術者がいなくなってしまった、というケースに何度か直面しました。その時に痛感したのが、
 「いったい、技術力はどこにあったのだろう?」
ということです。技術者が去った後、会社の性格は全く別のものとなってしまい、投資した資金はどこへ消えてしまったのやら。実は、「技術力がある会社」というのは表面的なものに過ぎなくて、技術力は人に属していて会社のものではなかったのです。これは、投資家にとっては極めて深刻な問題です。投資した資金で設備投資をすれば、その設備は当然に企業の資産になります。それに対して、研究開発資金への投資はどうなるのか。そのときに気付かされたのが、
 「研究開発の成果をできる限り企業の資産であることを明確にできるよう努めるべきである。」
ということです。特許を出願する(勿論、企業を出願人として)というのは、そのための最もわかり易い形式で、ノウハウとして秘匿する場合であっても、企業の営業秘密として保護されるようにマネージメントすることは、技術開発の成果を「企業の資産」として固定させる上で、極めて重要なプロセスであると思います。

 企業の経営者と特許について話をするときに、私は独占云々の前に、まずはこの話をさせていただいています。上場企業(上場を目指す企業も含む)の経営者にとって、投資した資金をどのような形で企業の資産として蓄積しているかを説明できるかということは、とても重要な問題であることは間違いないと思います。

脅迫系と勧誘系

2006-04-25 | 知財発想法
 「知財」を経営に活かすということで、最初に出てくるテーマの一つが特許出願でしょう。今日は、「どうして特許を出願するのか」という問題について考えてみます。

 特許出願を行うべき理由を尋ねると、「特許権を取得すると事業が独占できますよ」、「特許権を侵害すると事業ができなくなりますよ」という2つの側面からの説明が、判で押したように返ってきます。この説明が、ビジネスをバリバリやってきた人からするとどうもピンとこないところで、実際のビジネスというのはもっと多様なパラメータが関係してくるものであって、「独占」も「廃業」もそんなに単純なメカニズムで起こるものではありません。どうも特許の重要性という話になると、「独占すると儲かりますよ」という怪しげな勧誘系、「侵害したら事業ができないですよ」という強面の脅迫系の2つに限られてしまっていて、これが一般のビジネスパーソンの感覚的な取っ付きを悪くしてしまっているように思います。医薬品などの物質特許の世界ではそういうことが起こりますが、他の分野では本当に特許で事業を独占したという話はあまり聞かないし、少なくとも私は特許侵害で会社が潰れたという話を聞いたこともありません。

 かといって、勿論「特許なんて必要ない」という話ではありません(だったら、私こそ早々に廃業しなければなりません)。大事なことは、普通の経営感覚に訴えられるように、「どうして特許が必要なのか」というセオリーを用意して、説得的に説明できるようにしておくことだと思います。で、どういうセオリーが考えられるかについては、追って説明していきたいと思います。
 とりあえず、今日はこの辺で。

2006-04-24 | 知財発想法
 筆者は5年ほど前、ベンチャーキャピタルという異業種から知財ムラに越してきました。こちらの世界にやってきて痛感しているのは、普通のビジネスパーソンの世界と知財ムラの世界とでは、プロトコルが相当異なっているために、お互いの世界から誤解されていることが非常に多い、ということです。

 今の時代において、ビジネスパーソンにとって「知財」の重要性が増していることは、恐らく疑いのないところでしょう。というわけで、様々な「知財本」や「知財セミナー」が登場するようになっていますが、多くは「知的財産権」という制度の解説に止まってしまっているように思います。しかしながら、ビジネスパーソンに求められているのは、特許制度や個別の事件などに関する「知識」ではなく、ビジネス上の発想に役立つ「知財センス」であるはずだと思います。では、発想レベルで要求される「知財センス」とはどういうものなのでしょうか。
 逆に、知財分野の専門家にも「ビジネスセンス」が求められる場面が増えてきましたが、何も知財人にMBAレベルの経営知識を駆使することが求められているわけではないと思います。本来の得意分野である「知財」と切り離された経営知識では実際に活かしようがなく、自らの得意とする「知財」を切り口にして、「知財」が「ビジネス」の中でどのように活きるのかをビジネスパーソンの視点で見る「センス」こそが、必要とされているのではないでしょうか。
 こういった問題意識から、ビジネス、そして知財をどのような切り口で考える「発想法」が有効であるのか、これからこのブログであれこれ考えていきたいと思います。

※ 来月より某月刊誌で、「知財発想法」についての連載を開始します。このブログはその裏番組という感じで、雑誌記事よりは柔らかく書いていきたいと思います。

※ 実は少し前まで、匿名であるブログを書いていたのですが、更新のプレッシャーから疲弊して、終了する羽目となってしまいました。今回はその教訓も踏まえ、無理ないペースで更新していきたいと思います。