経営の視点から考える「知財発想法」

これからのビジネスパーソンに求められる「知財発想法」について考える

数字の読み方

2008-07-28 | 新聞・雑誌記事を読む
 日経ビジネス最新号のビジネス世論のコーナーで、iPhoneに関する読者アンケートが掲載されています。①買う、②買う方向で検討、③買う予定はない、④興味なし、で読者アンケートをとったところ、①+②で約15%となり、「読者の興味はいま一つ」&「話題先行の感は否めず」、と評価されています。
 果たしてこの数字、この読み方でいいのでしょうか。
 ①、②は具体的に「買う」という行為について尋ねていて、「興味がある」人が15%だったわけではありません(ちなみに「興味なし」の④は25.8%)。もしランダムに選んだ人の15%が本当に購入したとすると、携帯電話機のメーカー別のシェアは1位のシャープが24.3%、2位のパナソニックが12.4%ということですから、何と一機種だけでいきなり2位に入ってきてしまうことになり、これを「興味はいま一つ」「話題先行」と評するのはちょっと違うんじゃないか、という気がしますが。まぁ、こうやってマスコミに世論が形成されていく話なんて、たくさんあるんでしょうね(「知的財産がぁ~」ってネタにもありがちですが・・・)。

MBAなんとか

2008-07-27 | その他
 パテント誌の最新号にPPMを断罪したコラムがあるとのことで目を通してみました。PPMのようなフレームワークについては、その位置付けを理解しておかないと、徒に負の側面が強調されて誤解が生じやすいように思います。
 
 ベンチャーキャピタルで仕事をしていた頃、あるベテランのコンサルタントと話をさせていただいた際に、こんなことを言われたことがあります。
君は、多くのベンチャー経営者と接して経営の実態を見てきているから、経営の実質的な部分がわかっているようだ。ただ、それを説明する言葉を持たない。ベンチャー企業の社長とサシで付き合うぶんにはそれでよいだろうが、大企業のように組織的な合意を形成していかなければならない場面ではそうはいかない。そういうときのために、フレームワークも勉強しといたほうがいい。MBAと大袈裟に考えなくても、本屋にある「MBAなんとか」という本を一度読んでみるといい。
 
 要するに、PPMのようなフレームワークは、情報の整理、関係者への説明や合意形成のために使う‘道具’であり、そもそもこれを機械的に適用して経営戦略を決定するために用意されているものではないということです。フレームワークを学ぶ際には、そこをしっかり理解しておくことが必要だと思います。
 経営の実情を知る前にフレームワークから先に頭に入ってくると、
① 最初は理屈に溺れて頭でっかちになり、
② 現実はもっと多様な要因に影響されることを知り、
③ そのうえでPPM等のフレームワークは情報の整理、他者への説明や合意形成のために有効な‘道具’であることを理解する。
といった順に理解が進んでいくことが多いのではないかと思いますが、①の段階で振り回しても空回りするだけでしょうが、②で切り捨ててしまうよりも、③のように使いこなせれば幅が広がる、フレームワークとはそういうものなのではないかと思います。

MBA経営戦略

ダイヤモンド社

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ゲット。

2008-07-25 | その他
 最近よく思うのですが、特許というのは「生活必需品」というより「贅沢品」みたいなものなのではないでしょうか。事業に必ず必要かって言うと、特許に頼らず隆々たる会社はいくらでもありますし、かといって力のある会社に特許を持ってうまくやられると、後続は一層厳しくなってくる。それ自体が生活のエンジンにはならないけど、エンジンがかかっているときにうまく使うと、最もその効果を発揮し得るのではないかと思います。
 贅沢品といえば・・・というか、そもそもこちらが言いたいことでこれまでの話は枕詞みたいなものだったのですが、ついにゲットしました。iPhone3G。ある友人は「まぁ、機能がどうこうってことじゃなく、ベンツに乗りたいかって話ですよ」と言ってましたが、さてこの贅沢品、使いこなせるか。

相対思考と絶対思考

2008-07-21 | 書籍を読む
 ITに関わるなら常識として知っておかないとまずいかということで「アップルとグーグル」を読んでます。※「俺が見る」、みたいなジョブスのエピソードがいろいろ刺激的ですが、意識しとかないとまずいな、と思ったのが「相対思考」か「絶対思考」かというものの見方です。
 アップルやグーグルの社員は、他社の製品やサービスに比べてどこが優れているかといった問題にはあまり興味を示さず、自社の製品やサービスでどんなことができるかを語ることが多いとのこと。相対思考でいる限りどんぐりの背比べを抜け出すことができないし、そこには思想も主張も表れない。斬新な製品やサービスは絶対思考からこそ生み出され、そこからは単なる機能の相違だけでなく、提供者の思想や主張を感じ取ることができるということでしょう。従来技術やら構成要件やら、もっぱら相対的な対比に追われることの多い知財人の思考は、ともすると相対思考に埋没しがちです。ビジネスの成功は、当然ながら新規性や進歩性で決まるわけではなく、二番煎じであってもしっかりした思想のあるものは強い。このあたりは、ビジネスの視点から考えるべき場面で、特に知財人は意識しておく必要があると思います。

※ Macの先代のアップルⅡ開発時に「基板が美しくない」とつき返したジョブスにエンジニアが「誰が中の基板なんか見るんだ」と言ったところ、ジョブスは「俺が見る」と答えたそうです。


アップルとグーグル 日本に迫るネット革命の覇者
小川 浩,林 信行
インプレスR&D

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マイIP革命

2008-07-17 | 知財一般
 ここのところ細かな代理人業務に埋没気味ですが、「もっと知財でこんなことができるはずだ」「知財の仕事はもっとこうあるべきだ」なんて思いながら、日常的にはごくフツーの仕事に追われている、という知財人の方が少なくないんではないでしょうか(特に、このブログを覗きにきていただている方には・・・)。
 そんなときには、某若手社長のこのブログのエントリがおススメです。

 いわば我々はITゲリラであり、その活動資源として零細企業を経営している、と考えると解りやすいと思います。基本的に生存が第一で、しかしなぜ生存するかと言えば、それは何時の日か自分たちの力でマイIT革命を起こすためだと。ここにドグマはないのです。凄ければなんでもいい。それが結局のところ、科学の発展と人類の進化に貢献するということなのだと思います。

 この「マイIT革命」の部分を「マイIP革命」と読み替えてみると、凄くよくわかる。そうなんです、そんな方々はたぶん「IPゲリラ」であり、その活動資源としてコツコツと実務に勤しんでいるわけです。
 「知財立国」云々のドグマは個々人からするとある意味タテマエの部分があって、実際のところは「オッ、凄いやん」て言われるような仕事をやっていきたい。それもウチワの知財ムラの世界でなく、経済社会の中でアッといわせるような実績を見せてみたいわけです。そのためには、発明の進歩性やら商標の類似やらを論じて「なんか、シアワセ♪」という世界における「幸福」を「再定義」することが必要になってくる。それをこんな感じで再定義してみたりもしてるわけですが、IPゲリラの道なお険し、といったところでしょうか。

夢への指標!

2008-07-10 | お知らせ
 東京中小企業投資育成さんのWebサイトに、「経営に求められる「参入障壁」という視点」を寄稿させていただきました。「夢への指標」という美しきコラムのタイトルにちょっとビビッてしまいましたが、何とか最後のほうで頑張って「夢」の話につなげてみました。知財をネタにして、ベンチャー経営者やキャピタリストに「なんか、マニアックで関係なさそ~」と思われないように、っていうのもなかなか悩ましかったです。
 このサイトは、キャピタリストがどんな見方でベンチャー企業に投資するかなど、リアリティのある情報がいろいろ掲載されていますので、ベンチャー投資の世界に興味のある方は一度ご覧いただくと参考になるのではないかと思います。

控えめに言ってみたい。

2008-07-08 | プロフェッショナル
 今年もイチローのMLBオールスター出場が決まりましたが、記者会見ではこんなコメントがあったみたいです。
 「客観的に見て、グラウンドにそのメンバーが立っている時にさまになっているかどうかという問題は大きい、成績以外にね。だから、(自分は)そうありたいと思う。今回のメンバーを見れば僕はそう。控えめに言ってもそう」
 まぁ、ファンでない方にとってみればただの傲慢な発言にしか聞こえないかもしれませんが、これってやっぱり事実なので何も言えません。これくらい公の場で言えるくらい、実績を重ねたいものですね。
 「客観的に見て、ビジネスにそのメンバーが絡んでいる時にさまになっているかどうかという問題は大きい、肩書以外にね。だから、(自分は)そうありたいと思う。今回のメンバーを見れば僕はそう。控えめに言ってもそう

コッテリした連載

2008-07-07 | お知らせ
 近代セールス(金融機関向けの雑誌です)に「渉外担当者のための特許入門」の連載を開始しました。金融機関(主に銀行)の融資担当者向けに、取引先の特許のどのような部分に注目すればよいかをわかりやすく解説しよう、という企画です。
 第1回は「なぜ特許に注目するのか?」と題して、特許が事業計画に影響する仮想事例を中心に解説しました。第2回は特許制度の概要ということで、一般にビジネスパーソンに誤解されやすいポイントを中心に基礎知識を解説します。第3回は、どのような場面で特許を取得すべきか、事業分野によって実際のところ特許はどのように効いてくるのかという話を、第4回では、金融機関の融資担当者が特許とどのように向き合っていくべきかという提言を中心に書かせていただく予定です。金融機関の方に「なんか、我々には関係ない話だね」と言われてしまうことないように工夫したつもりですが、第1回の記事を読むとまだまだ堅苦しくて特許のコッテリした感じが抜けてないような気もします・・・

近代セールス 2008年 7/15号 [雑誌]

近代セールス社

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企業の強みと歴史的・文化的背景

2008-07-06 | 企業経営と知的財産
 IT Japan2008 で印象に残った話をさらにもう一つ。同じく中谷巌氏の基調講演からですが、「企業のブランド力」は固有の歴史や文化がその基礎を形成しており、日・米・欧ではその基礎を異にしているということ。以下、私の解釈も含まれていて、あまり正確に再現できていないかもしれませんが、
 米国企業は普遍性を基礎にしており、特殊な文化を排除して共通の基盤を形成していくのが得意である。マイクロソフト、コカ・コーラ、マクドナルド、いずれも同じパターン。先日のエントリとの関係でいえば、オペレーションレベルは現地化されているのでしょうが、その強みは「世界中で同じように使える、飲める、食べれる」ことにあり、そこに「文化」の色彩はあまりない。
 欧州企業は普遍化しにくい固有文明を基礎にしており、固有の文明の中で形成された商品のブランド力を強みとするものが多い。ルイ・ヴィトンしかり、ベンツ、BMWしかり。まさに「文化」の産物である。
 これに対して日本企業は、独自のこだわりの文化を強みにすることが多い。トヨタに代表されるモノ作りによく表れている。
 独自文化・固有文化をバックグランドとする日・欧の企業から普遍化した商品・サービスが生まれにくいのはこうした文化的な背景が影響しており、世界標準となっている商品やサービスを生み出すのは、他民族国家で特殊な文化を排除してきた米国が最も得意とするところである、といった話です。
 具体的な企業を考えてみると確かに納得させられる話で、そうすると普遍性の高い商品を世界展開する米国企業が最も知的財産権をうまくハンドリングしているというのも、ある意味、歴史的・文化的必然であるように思えます。(言い方はちょっと悪くなりますが)ある意味、文化的な深みのない商品やサービスは模倣が容易であり、それを画一的に展開するには法律的なバックアップがどうしても必要になる。それに対して、こだわり続けて簡単には真似できないような技術が蓄積された日本企業や、独創的かつ歴史的蓄積を裏付けとする欧州企業は、そもそも普遍性がないものだから、(偽ブランドみたいは話は別にして、その本質的な強みは)法律の保護に頼らなくても簡単に追随されるものではない。だから、日本企業では特許に対する思い入れみたいなものが米国企業より弱くても、それは歴史的・文化的必然で、まぁしょうがないことなのかもしれません。
 そこからまだ結論的なものが導けているわけではないのですが、日本企業の特許との付き合い方を考える上で、何か重要なポイントになりそうな話のように思えます。

最近のイケてるベンチャー

2008-07-03 | 書籍を読む
 どこかのWebサイトに注目度No.1ベンチャーにランキングされていたエニグモに関する本、時代に鈍感になるとまずいので読んでおきました。で、読み始めてみたところ、何か7~8年前のITベンチャー、ビジネスモデルブームを思い出させるような少々レトロな物語で、ちょっと意外感がありました。それにしても、多くがポシャっていった業態で、注目度No.1の成長を続けているのだから凄いです。この本を読む限りでは、ニーズを見誤っていないこと(確かにプレスブログなんかは「なるほど」と思うサービスです)を前提に、コンセプトだけでなく仕組みつくりをコツコツやっている部分が強いんだと思います。
 さて、これからは世界を目指していくとのこと、2月の特許流通シンポジウムで中小・ベンチャーの勝ちパターンの一つは、国内市場で次々と商品を投入するより、強い商品を世界に展開していくことだ、という話がありましたが、製造業の場合は特許が海外で「この指止まれ」と協力者を集める材料になり得るとのこと。エニグモのようなビジネスモデル系は、どうやって海外での基盤を作っていくのか。日本の有力ネットベンチャーはドメスティック型がほとんどだけに、どういう闘い方をしていくのか注目です。

謎の会社、世界を変える。―エニグモの挑戦
須田 将啓,田中 禎人
ミシマ社

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