経営の視点から考える「知財発想法」

これからのビジネスパーソンに求められる「知財発想法」について考える

「知的財産のしくみ」と「知財2.0」

2007-01-30 | お知らせ
 明日発売予定ということで、<入門の入門>知的財産のしくみの宣伝です。
 
 入門書といえば普通の入門書なのですが、「知財」を制度面からだけでなく、いろいろな視点から多面的に「しくみ」として見れる仕上がりになったのではないか、と自分では勝手に思っています。「まえがき」の部分を、結構気合を入れて書きましたので、その一部を引用して本日のPRとさせていただきます。

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 本書を書き進めるにあたって意識したことは、次の2点です。

 1つは、「ビジネスパーソンの視点」を意識するということです。
 私たち知財の専門家は、どうしても法律の規定や制度論から「知財」を考えてしまいがちです。しかしながら、知財をビジネスの世界での成果に結びつけていくためには、ビジネスを行う側の視点から、制度をどのように利用するかという発想で考えていかなければなりません。同じ対象を見る場合であっても、例えば富士山を静岡、山梨のどちら側から見るかによって、随分と景色は違ってくるものです。私は約5年前まで、知財とは直接かかわりのない金融業界でベンチャーファイナンスに携わっていましたが、その頃の視点に今一度立ち返って、本書ではビジネスパーソンの求めている視点から知財を解説するように心がけました。

 もう1つは、全体の位置づけを意識しながら、できるだけわかりやすく解説するということです。
 ビジネスや研究開発の現場において知財を活かすという視点で考えると、個別の知的財産権に関する制度に精通するということよりも、まずは全体の「しくみ」をしっかりと理解することによって、知財の視点を加えた思考を身につけることが肝要です。そのような考えから、個別の制度について必要十分な解説を行うことよりも、全体を通してのわかりやすさを重視し、本書を通読することで「知的財産のしくみ」が理解できるよう心がけました。そのため、項目によっては制度の説明が十分でない箇所もあるかもしれませんが、本書のこのような意図をご理解いただけると幸いです。

 インターネットの世界では、誰もが自由に参加することが可能な、双方向型の利用形態である「Web2.0」への流れが加速しています。
 これを知財の世界になぞらえるならば、これまでは企業の知的財産部門や弁護士、弁理士などの外部の専門家に任せきりであった知財業務の領域に、多くのビジネスパーソンや研究者が双方向型で参加する、「知財2.0」とでもいうべき状況への転換が求められているところではないでしょうか。そのためには、知的財産部門や外部の専門家と企業の各部門との間で、「経営上の目標に向かって知財によって何をするか。」ということについての共通理解と、知的財産権に関する制度の基本的な知識の共有が欠かせません。
 本書では、全体を7つの章に分け、それぞれの章を2~4ページの独立した項目に分けることとして、確認したい項目を選んでお読みいただくことができるように構成しましたが、できれば一度、全体を通読することをお勧めします。そうすることによって、ビジネスパーソンや研究者に必要な知財の基礎知識の全体像と、ビジネスや研究開発の現場で活かしたい知財を意識した思考が身につくように、本書の各項目の構成について考慮しているためです。
 本書が、「知的財産のしくみ」を理解することに役立ち、知財の世界とビジネスや研究開発の現場を結び付ける橋渡しとして、「知財2.0」のステージに進む一助となれば幸いです。

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<入門の入門>知的財産のしくみ

日本実業出版社

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ロングテール型の株価チャート

2007-01-29 | 知的財産と投資
 今日の日経金融のマーケット面に、ジャスダックの新市場について説明されています。元々は新興市場のリーダー格であるジャスダックですが、最近は若くて勢いのあるミクシィなどのスター銘柄がマザーズを選ぶことが多いということもあって、「先端VB」のための新市場を創設して対抗するとのことです。
 新市場の上場基準を既存市場の基準と比べると、
① 黒字化の見通しが確認できれば赤字でもよい(既存市場は最終黒字or経常利益5億円以上)
② 純資産がゼロでもよい(既存市場は連結で2億円以上)
と緩和されている一方で、
③ 技術開発や事業開始から10年以内
④ 投資家向けIRを1年以上行わないと上場廃止
という要件が課されることになるそうです。
 ②は、すなわち会計上の資産が小さいということであり、③は何らかの知的資産が存在し、④は知的資産を評価するための機会を提供するというふうに読めますから、これは要すれば、
 オフバランスの知的資産に着目した新興市場
とでもいうことができるのではないでしょうか。
 と考えると、とても夢が膨らむ格好いい市場ですが、「オフバランスの知的資産の評価」は極めて難しい事柄です。「ロングテール」型の株価チャート(例)を見かける機会が増えるようなことにならなければよいですが・・・適正な株価形成がなされるように、④のIRの部分に期待したいものです。

知財活動の成果

2007-01-25 | 企業経営と知的財産
 知財活動に多くの予算を割くようになると、経営側から「その成果を数字で説明せよ」という要求が知財部門に出されることが少なくないようです。
 知財活動の成果というのは数字で示すのが難しい性格のものなのですが、これを何とか定量化しようと、「知財経営××指標」的なものもいろいろ提案されるようになっています。
 ところが、こういった定量評価を行った指標を示して説明をすると、「本当にそうなのか?」「都合よく数字をいじっていないのか?」といった疑問を払拭できるかどうかが問題になることはないでしょうか。知財経営ランキング的には高いレベルだと言われても、結局のところ経営者にとっては、企業の価値をストレートに示す「株価」以外は実質的には意味がないものであり(知財指標が高いといっても、それが買収防衛策になるわけでも、株主還元になるわけでもありません)、経営者に知財活動の意味を実感してもらうには限界があるように思います。
 
 そこで、少し視点を変えて、経営陣にももっと感覚的にわかりやすい数値で、知財活動を捉えてもらう方法が考えられないでしょうか。例えば、知財活動に要しているコストを製品グループ毎に配分し、1製品あたりの知財活動コストを算出してみる。例えば、10万円で販売している商品に1個当たり1,000円の知財活動コストがかかっていたとして、その1,000円を支出しなかった場合に、価格競争がより厳しくなって1,000円以上値下がりすることはなかったか。或いは、ライセンス料の支払や設計変更などで1,000円以上原価が上昇することはなかったか。これらを数値として正確に算出して比較しようとすると難しいですが、知財活動にどの程度コストを使っているのか、それが意味のあるものであるかどうかを、経営者が感覚的につかみやすくなるのではないでしょうか。ビックカメラで「500円で1年間保証が付きますがどうしますか?」と問われるのと同じようなイメージで、経営者も実感をもって判断しやすくなるのではないかと思います。

「顧客の視点」系セミナー

2007-01-24 | イベント・セミナー
 本日は、ディーブレインコンサルティングさん主催のセミナーで、「知的財産業務支援の実践方法」についてお話をさせていただきました。昨日の「顧客知識」の記事と基本的には同じ意識で、今回のセミナーでは、「特許」「商標」といった「商品知識」からのアプローチだけでなく、「顧客の視点」から見て、こういう業種であればこういう視点から知財を考えるべき、といった解説を項目に加えてみました。
 例えば特許であれば、「商品」を提供する側から見ると、特許権とはこういうもので、どういう手続で効力はどうで・・・といった話になりますが、「顧客」の側から見ると、業種によってその使い方や位置付けも様々です。本日のセミナーはベンチャーを支援する金融機関やコンサルタントの方が対象だったので、投資先や顧問先へのアドバイスを行う場合に、こういう業種であればこういうポイントを中心にチェックすべきということを整理して説明させていただきました。
 知財関係のセミナーというと、「商品知識」に関するものか、抽象的な「戦略論」に関するものが多いように思いますが(私自身も後者を担当することが多いですが)、実用性ということを考えると今回のような切り口からの解説にもニーズがありそうな気がしますので、内容をもっとブラッシュアップしていきたいと思います。

顧客知識

2007-01-23 | 書籍を読む
 田坂広志氏の新刊、「これから何が起こるのか」を読んでいます。前作の「使える弁証法」に続き、目からウロコの良書です。
 この本では、Web2.0によって起こる「75の変化」について解説されているのですが、例えば、
 「商品知識」よりも「顧客知識」が重要になる (第38の変化)
などは、知財の世界でも参考になる視点なのではないでしょうか。
 その背景として、顧客が様々な商品情報を容易に取得できるようになり、生産者主導の商品販売→消費者主導の購買支援への移行が進んでいくという考え方があるのですが、販売する商品についての詳細な知識より、顧客のことをどれだけ理解しているか、が問われることになるという考え方です。ここでいう「顧客知識」とは、自社の商品の視点で見た「顧客ニーズ」のことではなく、顧客の視点で見た「顧客ニーズ」が重要になるということです。
 例えば、特許事務所の提供する出願代理という商品(サービス)であれば、前者の視点で見た顧客ニーズは、「代理人報酬が安いこと」「クレームがよく練られていること」「納期が早いこと」といったことになるでしょう。これを後者の視点で見ると、顧客が求めていることは「どうやったら自社技術の優位なポジションを築けるか」ということであり、そういったニーズに応えることを考えると、サービスの提供の仕方も違ったものになってくるかもしれません。「特許事務所にそこまで要求していないよ」という声も聞こえてきそうですが、「顧客知識」というのは知財業界ではあまり意識されていないがゆえに、重要な視点になってくるように思います。

「そのまんま東」超え

2007-01-22 | 新聞・雑誌記事を読む
 本日の日経1面は、なんと「そのまんま東」を押しのけて特許ネタがトップ記事です。産業再生法に、他社の知財を買い取って事業化する場合の設備投資に対して減税等を行う政策支援が追加されるそうです。
 この制度の目的は、休眠特許を買い取っての事業化を促進することにあるそうですが、具体的な施策は、設備投資の特別償却、新会社を設立する場合の登録免許税や不動産取得税の軽減など、「知財」の活用を目的にする制度である割には、直接的に知財の取得を支援するものではないようです。おそらく、知財の取得費用だけが対象では、減税といっても金額的にインパクトがないためでしょう(そういう意味では、はやりの「知財」の名を借りた、という印象が拭えなくもないですが・・・)。
 他社の休眠特許のみを買い取り、それを事業化するために新たな設備投資をするというパターンであれば、この政策趣旨にも沿ったものになりそうですが、記事によると「知財を取り込むことを目的とした企業や事業の買収を支援する」とのことです。特に事業を買収するのであれば、この場合の特許は「休眠特許」にはならないように思うので、休眠特許の事業化という趣旨とはちょっと違ってきそうです。特に技術移転が主な目的というわけではないM&Aの場合にも、「えっ、特許持ってたの?じゃあ減税になるからラッキー」といった使われ方がしてしまったりはしないでしょうか。ひどい場合は、M&Aの話が出てから慌てて何でもいいから特許出願をする、なんてケースも出てくるかもしれません。本来の趣旨に沿って政策効果を発揮できるよう、制度設計や運用に工夫をして欲しいものです。

知的財産も不動産も想像力。

2007-01-20 | イベント・セミナー
 一昨日の特許流通シンポジウム2007in大阪があった西梅田地区(オオサカガーデンシティ)ですが、ビル街になってすっかり変わっていたのには驚きました。前職の銀行勤務時代に、バブルの真っ盛りに大阪で「知的財産」ではなく「不動産」融資の担当をしていたのですが、その頃に計画の図面なんかを見ながらあれこれ想像していたことが形になっているのを見て、ちょっと感慨に浸ってしまいました。

 不動産に比べると知的財産はちょっと見えにくいというのはありますが、自分が多少なりとも関わったものが形になった姿を見るのは、仕事の大きな喜びの一つであると思います。やってる最中はしんどいですが、将来の姿にどれだけ想像力を働かせながら取り組めるかが、楽しく仕事できるかの鍵になるのではないでしょうか。

 それにしても、大阪モード学園・コンピュータ総合学園HALのビル、初めてみるとちょっとビックリです。

アカンずきん。

2007-01-18 | イベント・セミナー
 本日は、特許流通シンポジウム2007in大阪で「企業価値を高める知的財産戦略」についてお話をさせていただきました。ご参加いただきました皆さま、お忙しい中ありがとうございました。
 私の持ち時間は40分だったのですが、40分というのは「プレゼンテーション」には長く、「講義・講演」には短く、なかなか難しい時間です。今日のところは、
① 「知財」といった場合の、「知的財産」と「知的財産権」のそれぞれの意味と役割
② 事業会社の「知財」の成果は、ライセンス収支よりも「粗利」に表れるはず
③ 「知的財産権」は「本質」ではなく「道具」なので、どう使うかが重要
という3つのポイントが、お伝えしたかったところです。

 ところで、大阪は中学・高校・社会人2~3年目を過ごした町なので、どこを歩いても懐かしく、何か嬉しくなってきます。こんなポスター、東京ではまずありえへんしな、って感じで。

ペコちゃんを救え!

2007-01-16 | 知的財産と投資
 不二家のニュースが世間をにぎわせています。
 食品に関する不祥事といえば、不二家の内部文書にもあったように雪印の件が記憶に新しいところですが、「知財」的には雪印事件とはちょっと違った様相をみせてきているようです。
 雪印事件の場合、不祥事の発生とともに「雪印」のブランド価値はどんどん毀損し、牛乳などからは「雪印」のブランドが消失してしまうことになりました。ところが不二家の場合、「ペコちゃん焼」は逆に人が押し寄せて大変だったようで、「不二家」のブランドはともかく、「ペコちゃん」のブランドは殆ど毀損していないようです(むしろ「ペコちゃん可愛そう」という状況かもしれません)。
 この現象は、要するに、「ペコちゃん」というブランドは組織とは分離された価値を持つようになっているということです。組織と一体化しているブランドの場合は、結局のところその価値は組織の信用力に比例しますが、同じブランドとはいっても、随分性質の違うものだといえるでしょう。このような知的財産であるならば、担保にもなり得るし、資産計上しても実態を反映したものになるのではないでしょうか。

「知的財産」とは何か?

2007-01-14 | 知財発想法
 前回の記事では、松下の中期経営計画の席で語られたという「技術・知的財産に活用する」とは何かについて書きましたが、「知的財産」という言葉が実際のところは一義的でないことが、この意味をわかりにくくしているように思います。
 「知的財産」の語は、大きく分けて次の3つの意味で用いられているように思います。

① 特許権・商標権等の知的財産権により独占権の保証された発明・商標等
② 特許権・商標権等の知的財産権の対象になる可能性がある発明・商標等
③ 発明などの知的創作物や商標などの営業標識

 これらは、①<②<③ の順で、対象が広くなっていきます。知的財産基本法では②であると定義されていますが、「財産」という言葉自体が多義的ですし、どれも広く使われている言い方なので、どれが正しくどれが間違いというわけではなさそうです(因みに、yahoo!辞書では「知的財産」としてはヒットしません)。
 私の印象では、一般的に、知的財産権の実務に携わる人は①の意味で、他の分野の一般的なビジネスパーソンは③の意味で捉えていることが多いように感じます(②のように説明する人は、この部分を論じることに結構こだわりのある人であるように思います)。

 独占権が保証できないものが「財産」と言えるのか、と考えると①が最も矛盾がなくなりますし、「知的財産権」=「知的財産」という関係で捉えられるという意味でもすっきりする考え方です。しかしながら、この説で行くと「知的財産の創造」とは「特許権を取得する手続」のことであるといった話になってきて、「知的創造サイクル」の意味を説明することができません。また、この考え方だと「権利先にありき」の発想になりがちなので、権利を抑えないとビジネスとして成立しない製薬系などであればこの考え方でOKでしょうが、知的財産権でビジネスの成否が決まるわけではない(知的財産権は優位性の一要素)ようなケースでは、ことの優先順位を見誤るリスクが生じやすいように思います。
 ③の場合、まずは何らかの価値のある発明等が生み出され、それをできるだけ権利として括っていくというビジネスの実態にあった考え方であるように思いますが、属人的なノウハウや曖昧なイメージなども含めて「知的財産」と表現して、あたかも会社の「財産」であるかのような錯覚を与えてしまうリスクがあります。このような曖昧なものは、人の異動やイメージの変化によって簡単に消失してしまうものであるため、会社の「財産」とは区別して考えるべきでしょう。また、これらを含めたものを「知的資産」と呼んで、区別することも可能になっています(「資産」と呼んでいいのか、という同じような疑問がなくはありませんが)。
 そうなると、知的財産基本法にある②の考え方が最も妥当である、ということになりそうです。但し、この考え方の問題点は、ある程度の知的財産法に関する知識がないと、無形の資産のうち「知的財産」に当たるものとそうでないものの区別がつきにくく、議論が面倒になりやすいということでしょう。

 尤も、重要なことは議論の相手との間でその意味が正確に伝わることなので、その考え方が正しいかということよりも、「知的財産」について議論する場合に、どの考え方に従って定義するのかを明確にしておくよう留意することが肝要であるように思います。因みに、拙著においては、「知的財産の分析手法」では③、「知的財産のしくみ」では②の意味で、「知的財産」を説明しています。