経営の視点から考える「知財発想法」

これからのビジネスパーソンに求められる「知財発想法」について考える

神は降りるか?

2009-07-29 | 書籍を読む
 WBC決勝ではイチローの前に降りてきた神ですが、先日の宮里藍の「これが私の初優勝の道だったと思う」というセリフ、まさにここにも神が降りてきた感じです。

 さて、先日ある方から「人生変わるぞ」って薦められ、「奇跡のリンゴ」を読みました。久々にちょっと震えがくるような本で、これもまさに「神が降りてくる」(≒本質が見えるようになる)種の話です。何だか宗教系っぽく怪しげになってきてしまいましたが・・・
 で、知財系のはずのブログで何でリンゴなのってところですが(種苗法の話を始めるわけではありません)、この話は職業人(特にプロ系・職人系)に対してとても重要な原則を示唆しているように思います。私如きがあれこれ書いても薄っぺらになってしまいそうなのですが、要するに、そこから読み取ったのは、
 事実を大切に、ありのままに見る。論理や技術はそこに付け加えていくもの。
ということ。言い換えれば、論理や技術に溺れるがために、あたかも自分の技で対象物をどうにかできるかのように錯覚し、対象物の本来のあるべき姿、本来の強さを損なってはいけない、ということです。勿論、論理や技術を身につけること、そのために勉強するのは大切なことなのだけれど、それを活かすためには事実をありのままに見るのを起点にすることが必要であって、論理や技術から物事を規定しようとしてはいけない
 知財の仕事についていえば、「知財権はこういう権利なんだから会社はこうすべきだ」って論理から規定してしまうのではなく、その会社をよく見た上で、その会社本来のよさが発揮されている会社の‘健康な姿’をしっかりイメージし、知財という技を使って、会社が健康になる手伝いをしていく。前回書いた「事業が知財を規定するのであって、知財が事業を規定するわけではない。」というのも、殆ど同じ意味です。「ここがポイント!知財戦略コンサルティング」のプロジェクトで、まさに‘健康な’企業の経営者の話を聞いてみたいと考えたのも、事実を見ないと理論だけで知財は語れないと思うからです。
 ・・・とまぁ、まだそのエッセンスがうまく説明できないのですが、「知財で会社に対して何ができるのか」という問いに向き合ってあれこれ悩まれている方には、この本の深さ、何となくわかっていただけるかもしれません。

奇跡のリンゴ―「絶対不可能」を覆した農家・木村秋則の記録
石川 拓治,NHK「プロフェッショナル仕事の流儀」制作班
幻冬舎

このアイテムの詳細を見る

事業が知財を規定するのであって、知財が事業を規定するわけではない。

2009-07-15 | 企業経営と知的財産
 最近よく感じることを、本日はとりあえず覚書的に。先日書いた「コツコツ系」にも通じますが、詳しくは後日ということで(これだけで「そうそう」って感じていただける方がいらっしゃるとちょっと嬉しいですが)。

<その1> 事業が知財を規定するのであって、知財が事業を規定するわけではない。

ex. オープンイノベーションというのは、知財の新しい考え方が事業のあり方を変えるというものではなく、事業の競争環境の変化によって技術の相互利用が必然となり、知財の形態も変わってくるというものである(と理解しています)。

<その2> 知財パーソンにも経営の知識が求められるのは、経営の意志に沿った知財活動を実践するため(アウトサイド→イン)であって、知財パーソンが経営に参加してどうこうして欲しい(インサイド→アウト)という話ではない。

経営に参加することを否定するものではないけれど、それは実務のプロフェッショナルのスキルアップやサービス向上とは次元が異なる話で、そこまでいくともはや‘知財パーソン’としてグルーピングされるものではない(と考えます)。

‘知的資産’に関する問題意識

2009-07-05 | 企業経営と知的財産
 セミナーの宣伝の延長で、‘知的資産’に関する問題意識を少々。
 知的資産の代表例としてよく挙げられるのが、人材、組織力、企業理念などですが、こうした要素が企業にとって重要なのは、あらためて‘知的資産’なんて言われなくても当たりまえのことで、これまでも十分に考えられてきたテーマであると思います。(特にシビアな経営の現場にいる人ほど)言葉を換えて議論することに何の意味があるのか、と思われることも少なくないのではないでしょうか。
 それはおそらくある意味真実であり、知的資産を語ることそのものを目的化した活動は、経営の現場からするとお勉強の世界のヌルい話でしかないでしょう。要は、知的資産の概念を企業活動において合目的的に利用できるかどうか。そこが知的資産の考え方が、企業にとって意味のあるものになるかどうかを分けることになる。その際に重要になるのは、人材だ、ノウハウだと抽象的なレベルの話に止めるのではなく、より具体的なその企業に固有の要素をどこまで掘り進めていけるかということと、それに対して具体的なソリューションを提供できるかどうかだと思います。
 例えば、必要な融資を受けるために自社の信用力をアピールすることが必要な場面で、単に「人材が強み」というだけでなく、そうした人材が育つ理由となっている採用基準や人事制度を特定し(それを何と呼んでもいいけれども‘知的資産’という概念で捉えておく)、その強みが組織的に生み出されるものであることを説明できれば、それは企業にとって合目的的な活動といえるでしょう。
 また、セミナーのテーマであるソフトウェアベンダーであれば、競争力の強化に取り組むために、成績の上がるチームと成績の伸びないチームの差異がどこにあるかを特定し(それを何と呼んでもいいけれども‘知的資産’という概念で捉えておく)、その差異となる要素を他のチームにも展開していくことは合目的的な活動といえるでしょう。
 要は、先にあるのは企業にとっての合目的的な活動であり、そこで扱うある概念(=競争力のコアとなる要素)を便宜的に‘知的資産’として整理することに意味があるのであって、学術的に整理された‘知的資産’の概念を企業に当てはめてどうこうしようとするわけではない。私個人としては、知的資産という概念を用いる意味をそのように捉えています。尤も、合目的的な活動先にありきというのは、価値評価然り、知財信託然りで、知的資産に限った話ではないでしょうが。

※ 知的資産をどうように考えればよいかについては、立命館大学・中森先生の方法論御活動が大変参考になります。

セミナーのお知らせ

2009-07-03 | お知らせ
 セミナーの宣伝です。
 今月27日(月)に、日本IT特許組合主催で「知的資産で競争力を強化する~ソフトウェアベンダーの真の強みを経営に活かす方法論~」と題したセミナーを開催します。講師は私を含め、ICコラボレーションLLCのメンバーが務めさせていただきます。
 昨今流行り(?)の‘知的資産’については、情緒的に「我が社は人材こそが知的資産だ!」「長年積み重ねてきたノウハウこそが我が社にしかない知的資産だ!」とか言っているだけでは意味がなく、そこから具体的にどういうソリューションを提供できるかが重要であると思います。競争力の源泉となっている要因を具体的な要素まで掘り下げ、その要素を組織的に展開していくためにどのような方策があるのか(ジェネックスパートナーズのお2人の講師は、まさにそうした仕組みつくりのプロフェッショナルです)。このセミナーではソフトウェア業界にフォーカスして、「何が強みとなるのか」という視点からその強化策を検討し、その中で特許の位置付けについても考えていく予定です。

利益・効率性の追求が企業をダメにする?

2009-07-03 | その他
 昨年よい刺激になったので、IT Japan2009を聴講してきました(といっても初日の午前中だけですが)。

 今年の基調講演は田原総一郎氏で、キーメッセージはこんな感じでした。

「利益を追求すること」「効率性を高めること」、企業にとって当たりまえと思われるこれらの目的の追求が、実は企業をダメにしてしまうことがある。最も利益を得やすい大型車に注力し、効率性の観点から研究開発を抑制したGMがその好例で、企業は短期的な利益の追求にばかり走らず、研究開発で競争力を磨くことが肝要である。
 但し、競争力を磨くとはいっても、競争環境や事業の決定要因は時代によってシフトする。例えば、これからの自動車産業では、市場の重心は新興国=安い小型車にシフトするし、その先に電気自動車の時代が来ると、エンジンの競争力は役に立たず、モーターや電池が新たな決定要因に変化する。ITの世界でも、ソフトバンクの孫氏は、2018年にコンピュータが人間の頭脳を超え、考える存在になると予言している。そこで重要になるのが、未来を読んだ戦略性(特に標準化戦略)だ。

 まぁよく言われる種類の話ではありますが、日頃知財の世界に嵌り込んでいると、こういうテーマを考える人達の思考回路・考えるアプローチが全く異なることに気付かされます。知財の仕事の多くは、与えられた課題をルールを当てはめながら解いていくというものですが、自ら問題を設定して、関連のありそうな情報を集めて「それってどういうこと?」「これからどうなるの?」と思考を展開させていく。経営、事業を戦略的に考えるためには、そういう頭の使い方が必要になるはずですが、知財という位置にいるとその機会が少なくなりがちなので、同じセミナーの聴講に時間を使うなら、知財を離れて有識者の話を聞きにいくというのも悪くないものです。