経営の視点から考える「知財発想法」

これからのビジネスパーソンに求められる「知財発想法」について考える

頑張れ!老舗企業

2013-07-30 | その他
 先日、河北新報さん主催の「想いを繋ぐ」講演会にお招きをいただき、「元気な中小企業はここが違う!-知的財産から見た会社の強み-」と題してお話をさせていただきました。
 この会は、昨年10月から河北新報紙面に連載された「想いを繋ぐ」の企画記事http://www.kahoku.co.jp/tsunagu/)に登場された、地元の老舗企業の皆様の交流を目的に開催されたものです。この企画記事では、仙台を拠点にする流通、サービスなどの分野の老舗企業21社について、先代の経営者と新しい経営者、または経営者と現場の責任者の2名が登場して、自社に対する想いを語られています。
 商業都市として栄えてきた仙台も、全国チェーンの大手資本が進出して地元企業が押され気味の状況が続く中で、地域で頑張る老舗企業が繋ぐ想いを紙面を通して読者に伝え、さらにこれらの企業が連携して地域を引っ張る企業として頑張ってもらおう、というのが今回の企画の狙いだそうです。

 この企画記事に登場するのは、いずれも特許中心に知財の仕事しているとお話を伺える機会が少ないタイプの企業なので、各社の記事を大変興味深く読ませていただきました。業種は全く異なるのですが、
1. 事業の核となる創業者or先代の想いがしっかりと引き継がれている。
2. ただ引き継ぐだけでなく時代のニーズにあわせた変革・挑戦を続けている。
3. 地域とのつながりを大切にしている。
という3つの共通点が浮かび上がってきます。
 こうした共通点は、拙著「元気な中小企業はここが違う!」で紹介した中小企業の、自社の強み・オリジナリティを的確に把握している、ファンや応援団が惹き寄せられ社外の人のパワーも活かされている、といった特徴に通じるところがあり、そのあたりの話から、他との比較を通じて自社のオリジナリティを客観的に理解し、それを社内外に伝えることで、社員のプライドと当事者意識を育み、社外のファンや応援団を拡大していくことの重要性を強調させていただきました。知財を専門に扱う者だからといって、「商標登録をしないと危ないですよ」みたいな話になってしまっては、「『想いを繋ぐ』講演会」になりませんので・・・
 全くの余談ですが、初回に登場されている井ケ田製茶さんの「喜久福」、餡やクリームと一体化したような柔らかいお餅の皮の中に、抹茶クリームの風味が封じ込められ、めちゃくちゃ美味しいので仙台土産にお薦めです。

 帰路の新幹線では、河北新報の方から戴いた「河北新報のいちばん長い日 震災下の地元紙」を読んでいたのですが、涙腺が緩んでちょっとヤバい感じになってしまいました。この本を読んで、「想いを繋ぐ」というテーマは、実は河北新報さん自身の話でもあった、ということを理解した次第です。

河北新報のいちばん長い日 震災下の地元紙
クリエーター情報なし
文藝春秋

今年は‘非効率化’で。

2011-01-14 | その他
 毎年、年の最初にはいろいろ思うところを書いてきたので(20102009,2008,2007)、さて今年は何を書こかいな、なんて思っているうちに全く筆が進まず、月半ばとなってしまいました。

 昨年末に同業の友人数人とあった時に、「最近どういう方針でやってますか」みたいなことを尋ねられたのですが、「求められていることをする、ってところですか」なんて答えていました。昨年の初めには「価値を顕在化させるビジネスモデルを持たなければならない」なんてエラそうに書きながら言(書)行不一致も甚だしいですが、特に昨年後半くらいからそういう心境になっています。これは、取り扱う業務の性質や、個人で動くのか組織で動くのかによって違ってくると思うのですが、知財サービスというのは基本的に顧客からフィーをいただいて成り立つものだから、提供者側の戦略やビジネスモデル云々が表に出てくると、そこに提供者と顧客の利益が対峙しているように見えてしまいやすい。もちろんWin-Winであればいいのだけれども、知財サービスの成果というのは短期的には測りにくいものだし、そんなに簡単には結果が出ません。
 ビジネス感覚を持つべしとか、戦略的に考えるべしとかいうときに、それは顧客のビジネスについてのことなのか、それとも自らのビジネスについてのことなのか。知財人が‘ビジネス’を学ぶのは、顧客のビジネスのためなのか、自らのビジネスのためなのか。企業内にいればこうした矛盾は生じないのですが、業として知財を扱う場合には曖昧になってしまいがちです。これは知財に限ったことではなく、Win-Winとなるように顧客のビジネスと自らのビジネスを高次で融合させていけばいいわけですが、そこは言うは易し行うは難しで、自らのビジネスを考えているうちに、どうしても顧客のビジネスを自分の都合のいいように解釈してしまいやすい。
 繰り返しになりますが、これは個人で動くのか組織で動くのかによって異なるものであり、組織であればそれでも高次のWin-Winを追及しなければならない、それがビジネスというものなのですが、個人で動くのであれば、自らのビジネス云々はあまり考えず「求められる」方向に動くことによって、新たに生み出せるものがあるのではないか。多分に感覚的なものでうまく表現できないのですが、そんなところから出てきた「求められることをする」です。

 話は変わりますが、今週の日経ビジネスの特集が「‘非効率経営’の時代」でした。企業は効率化を追及することで戦ってきたが、‘効率化’の追及は結局のところ‘同質化’に結びつき、利益なき繁忙を生むだけで(『ビジネスで一番、大切なこと 消費者のこころを学ぶ授業』も同旨)、むしろ‘非効率化’にこそ‘差異化’の鍵がある。中国、アジアの成長が凄い、日本はダメだ、っていうけれども、いずれそれらの国々だって成長が限界に達し、低成長時代を迎えることになる。日本は先回りして、その先にある高次の経済に向かえばよい、って話です。これだけだと何のことかわからないかと思いますが、できれば今週号の特集のご一読をお勧めします(たとえば、昔懐かしいパナソニックの系列販売店が最近業績を伸ばしている、といった事例が紹介されています)。『お金の流れが変わった! (PHP新書)』を読んで暗い気分になってたところに、ちょっと光が見えた気がしました。そういえば、イチローさんのメッセージにも、「ムダなことを考えて、ムダなことをしないと、伸びません。」(『イチロー 262のメッセージ』No.51)とありました。‘非効率化’そのものが価値を生むわけではありませんが、‘非効率化’が新しい何かにつながる鍵になるのかもしれません。

見て感じること

2010-12-01 | その他
 本日は「7つの知財力」や「ココがポイント!知財戦略コンサルティング」で紹介させていただいた㈱エルムさんの新社屋落成・30周年記念式典に出席させていただきました。

 ところで、往きの飛行機の中で読んでいた「グロービスMBA事業開発マネジメント」に、こんなことが書いてありました。
 新事業を立上げ、成長させるにはビジョンが大切である。なぜならば、魅力的なビジョンは従業員、取引先、顧客を惹き付けるからだ、と。あまりビジョン、ビジョンと言われると、ビジョンだけでモノが売れますか、なんて言いたくなることもあったりしますが、そうやって説明されると確かにその通りかもしれません。
 などと思っていたら、本日の宮原社長のご挨拶の冒頭から「・・・良き社員、良きパートナー、良きお客様に恵まれ・・・」(正確ではないかもしれませんがそういったニュアンス)とのお話がありました。やっぱりビジョンは大切だ。以前に社長へのインタビューで「下請けをしない」「一流の技術者が一流の仕事をする場を鹿児島に作る」「鹿児島から世界を相手に仕事をする」のが創業から考えている夢だと語っていただきましたが、このビジョンがまさに人を惹き付けているのだなぁと。

 それともう一つ「グロービスMBA事業開発マネジメント」から。
 ビジョンはイメージ化することが有効である。なぜならば、イメージの特徴は包含し得る情報量の豊富さにあり、文字では伝えきれない情報まで表現し得るものだから、ということだそうです。
 これもまた宮原社長のご挨拶の中に、こんなお話がありました。エルムさんの本社は鹿児島から車でも小1時間はかかる薩摩半島でも先のほうに近い場所にあるのですが、どうして鹿児島市内や福岡、東京に拠点を移さないのか、ということをよく訊ねられるそうです(すみません、2年前に私もその質問をさせていただきました)。
「それにどう答えるかを考えるよりも、そういう質問をされないような社屋を建てようと思いました。どうでしょうか、この新社屋でおわかりいただけるのではないでしょうか?」
 小高い丘の上にある新社屋の社員食堂からは、吹上海浜公園などの木々の向こうに広く東シナ海が見渡せる、まさに絶景が広がっています(因みに、この地域の歴史的な位置付けを知ると、この景色のもつ重みをもっと感じずにはいられません)。さらに建物には、旧社屋から面積が2倍になった中で消費電力を80%に抑えるという目標の下、同社製品のLED電球や自社設計の地熱を活かした空調システム(夏場のエアコンの廃熱で地面を暖めそれを冬場の暖房に利用するという凄物)など、独自で最先端の環境対応技術が導入されています。これはイメージどころか、3Dでエルムさんがどういう会社かが伝わってきます。

 うーん、あれこれ理屈を頭に叩き込むだけでなく、見て感じることはとても大切だと改めて感じた一日でした。

答えーや、坂本。

2010-11-18 | その他
 前回の龍馬伝で、龍馬が山内容堂に徳川幕府に大政奉還を建白するよう迫るシーンがありました。

山内容堂 「答えーや、坂本。武士も大名ものうなった世の中に、何が残る?」
坂本龍馬 「日本人です。異国と堂々と渡り合う、日本人が残るがです。」

*******************************************

現代の山内容堂 「答えーや、坂本。資格も専権業務ものうなった世の中に(注;「のうなり」はせんでしょうが・・・)、何が残る?」
現代の坂本龍馬 「ビジネス・パーソンです。顧客の事業に貢献する、ビジネス・パーソンが残るがです。」

なんて聞こえてしまうのは、ちょっと病気か(笑)。

白鳥精神

2010-08-21 | その他
 日経電子版・経営者ブログのTDK・沢部肇会長の記事をいつも楽しみにしているのですが、今日もまたいいことが書かれていました。「美しい利益」という記事です。
 沢部会長が若い頃に当時の社長から、次のように言われたそうです。

「沢部君、君はあほやから、何が正しいかを分かるのは難しかろう。ただ、君でも花や景色の美しさに感動する心はあるはずや。美しいものを求めなさい

 特に自分で商売をやっていると、いろいろとジャッジが必要になる場面が多くなりますが、あれこれ考えていると何が正解なんだかよくわからなくなってくることがあります。仕事の中味にしても、以前であれば強引に「俺のやり方・考え方が正しい」と思えたものが、不合理・非効率と思われるものにもそれなりに理由があることが見えてきたり、自分の見えていなかったところに気づくようになったりすると、何が正しいのかがよく分からなくなってきたりします。要するにあほなわけですが、そういうときには、美しいものを求めればよいのですね。
 経営者である沢部会長は、「美しい利益」、すなわち質の高い利益(近江商人の「三方よし」の理念に通じるものがありますが)をイメージして経営に当たっているとのことですが、それも業績が伴ってこその話であり、「会社というのは白鳥のようなもの」と喩えられています。見た目には優雅でも、水面下では必死に水をかいている。要するに、目の前の課題に懸命に取り組んでこそ、利益の質も高まるということだそうです。かなり前に、極められた技術が美しさを発する、なんて書いたことがありましたが、やはり必死に水をかいてこそ作られる美しさなのです。
 というわけで、夏バテ気味の体で実務をコツコツやるのは楽ではありませんが、白鳥精神で頑張りましょう。

点をとらなければ勝てない。

2010-06-07 | その他
 先週はシアトルマリナーズのグリフィーJr.が引退という、ファンにとってはかなりショックなニュースがあったのですが、結果的に最後の一発となった630号のホームランを目撃したことが(すっかり昨年で引退すると思っていたのでわざわざシアトルまで行ってライトスタンドで観戦していたら、目の前にホームランが飛び込んできました)、個人的にはプチ自慢のネタということになりました。ちなみに、あのIPS細胞の山中教授が高校の先輩にあたるということが、もう一つのプチ自慢ですが(笑)。
 そのシアトルマリナーズ、前評判も高く、ついに今年はプレーオフかと期待していたのが、開幕からひどい状況になってしまっています。投手陣を補強するとともに、守備の名手をずらりと揃え、守り勝つ野球でかなり強いと評価されていたのですが、蓋を開けてみるとあまりに打線が弱く、全く点をとれないうちに投手陣が力尽き、強力だったはずの守備も集中力が落ちてしまうのか随分エラーが目立ちます。
 これってまるでサッカーの日本代表のことを言っているみたいな話ですが(そもそも守備だって怪しい-セルジオ越後氏は「闘莉王の後にもDFを置け」なんて言っていましたが・・・)、とにかく最近痛感するのは、何だってそうですが、要するに、
点をとらなければ勝てない。
ということです。どんなに守りが堅くても、点をとれずに緊迫した状態が続くと、やがて守りも綻びをみせることになってしまう。人間のやることなので、攻めて、点をとって、盛り上がっていかないと、やっぱり気持ちがどこかで切れてしまう(or個人成績とかに走ってしまう)、ということなんだと思います。

 いきなり知財の話に移りますが、知財の仕事も、普通であれば‘守り’の仕事がベースになると思いますが、そうしているうちに攻めて、点をとらないと、何のために守っているのかよくわからなくなってしまう。だからといって、ディフェンダーが点を取りにいけ(=知財そのもので稼げ)という話ではなく、守りを固める前提としていかにして点をとって勝つかというシナリオ(=知財活動でどうやって事業の収益を押し上げていくかというシナリオ)をもっていないと、守りを固めて勝つという受動的な戦い方(=知財があれば儲かるだろうという期待先行の取組み)ではなかなかしんどい、ということかと思います。もちろん、点をとらないフォワードが悪いといって守りの側の責任逃れをしようというわけではなく、チームコンセプトをしっかりもつことが大事で、そのチームコンセプトは守りではなく攻めを基本にすべき(=知財戦略先にありきではなく、どうやって収益を得るかという事業計画をベースに知財のあり方を考えていくべき)、というのが、本日のエントリで言いたかったところです。

智、情、意

2010-05-11 | その他
 昨日書いた渋沢栄一の「論語と算盤」から、もう一つ。

 人の心には「智、情、意」の3つがあって、人間社会で活動して成果をあげるには、この3つが調和しなければならない、とのことです。
 「智」(知恵)ばかりで「情」(情愛)に欠ければ、自分の利益のためならば他人を蹴飛ばしてもかまわないとなってしまい(知恵があるだけに極端に走ってしまう)、それでうまくいくはずがない。
 かといって「情」(情愛)ばかりだと感情に流されてふらふらしてしまうので、強い「意」(意志)によるコントロールが必要である。
 一方で「意」(意志)ばかり強くて「智」(知恵)や「情」(情愛)が伴わないと、ただの頑固者になってしまう。
 だから、この3つのバランスがとれていないと社会の役には立てない、ということだそうです。

 では、知財活動で成果をあげる、知財活動をとおして会社(or顧客)の役に立つためには何が必要なのか。

 「智」にあたるのが実務面の知識やスキル(知財実務)、「意」にあたるのが戦略思考(知財戦略)であるとするならば、この2つについては、いろいろな情報が提供され、議論もされてきています。それでは「情」にあたるものとは、一体何なのでしょうか。
 論語と算盤では、「情」とはバランスを保つための一種の緩和剤と説明されていますが、これは「智」や「意」以上に抽象的で掴みにくいもので、実務や戦略のように他から学ぶことが難しく(知財業界でそこを伝えようとされているのは最近「コミュニケーション」を強調されている的場先生くらいではないでしょうか・・・)、個別性の高いものなのでしょう。最近このブログでも、止揚だ、審美眼だと抽象的なことを書いていますが、たぶん「情」の部分にあたる要素は‘知財’と名のつく情報の中には見つからず、自分でどこかから探してこなければならないのだろうと思います。

÷、+、さらに×

2010-03-19 | その他
 今日は知財とは関係のない独り言です。先ほどまであるIT企業の経営者の方の飲み会に参加させてもらっていたのですが、やっぱり経営者というのは考えていることが深く、哲学的で、本当にいい勉強&刺激になりました。

 仕事というものの捉え方について、これを割り算で考えようとする人達がいます。一定の量の仕事の存在を前提にして、頭数が何人だから自分に回ってくるのはいくら、これはいけそうだ、厳しくなってきた、みたいな発想です。市場分析としては理に適っているように見えるんだけれども、実際に戦っている当事者(特に経営者)はあまりそういう発想でものを考えません。そういう話を聞くと、その昔受験生だった頃「共通一次試験の全体の平均点がいくら」とニュースを耳にしたときに、「それがどうした」と言いたくなった感覚を思い出します。仕事というのは、割り算ではなく足し算で考えるもの割り当てられるものではなく積み上げていくものだと。これはおそらく、経営者か否かという立場の問題ではなく、自らが属する組織は個々人の積み上げによって支えている、という意識(=当事者意識)があるかどうかにつながるものであり、経営者に当事者意識が欠けていては話になりませんが、組織の強さというのはしっかりと当事者意識を持っている人がどれだけいるか、によってかなりの部分が決まってくるのかもしれません(少なくとも特許権が何件あるかということよりはるかに影響は大きい)。
 これが経営者ということになると、どうも足し算だけでは足りず、掛け算ができることが差になってくるようです。掛け算、すなわち人や組織、ネットワークを活かして相乗効果を生み出していくというか。こういう話って、掛け算ができる人(=ベテランの経営者)には「割り算ではなく足し算、さらに掛け算」だけで意味が通じてしまうので、おそろしい限りです。