経営の視点から考える「知財発想法」

これからのビジネスパーソンに求められる「知財発想法」について考える

効率よく稼ぐ企業

2008-06-30 | 新聞・雑誌記事を読む
 日経ヴェリタスの前号(2008.6.22号)になりますが、「キャッシュ創出、独自製品が左右」という記事が掲載されていました。投資額に対してどれだけ効率的にキャッシュフローを創出したかを示すキャッシュフロー投下資本収益率(CFROI)をランキングしたものです。要するに、「効率よく稼いでいる企業」のランキングです(因みに、1位から順にDeNA、ヤフー、日本オラクル、JT、任天堂、といった企業が並んでいます)。
 記事によると、このランキングで上位に入っている企業には、
①独自性の高い製品・サービスを提供して市場で大きな影響力を持つ企業(DeNA、ヤフー、任天堂etc.)
②有力な薬品をもつ製薬会社(武田、久光etc.)
③新興国の需要を取り込んで業績を拡大している企業(コマツ、日立建機etc.)
といった企業が目立つとのこと。「効率よく稼げている」理由を考えると、①はデファクトスタンダードの地位が参入障壁となり高収益を可能にしている、②は特許が参入障壁となり高収益を可能にしている、③は需給バランスの問題から需要者に対する供給者の地位が高くなって高収益を可能にしている、といったことが挙げられそうです。②では特許が教科書どおりに働いているわけですが、①や③のタイプの事業では、実質的な参入障壁を理解しながら、特許がどう効くか(効かない=必要ない、という可能性も含めて)を考えていかなければなりません。①ではデファクトスタンダード化を支える手段としての特許(意匠もありか)のあり方、③ではやがて来るであろう(しばらくは来ないか?)需給バランスの悪化を意識した権利の取得、みたいな視点が必要になってくるんでしょうか。

「会社をよくする」知財担当と「知財をよくする」知財担当

2008-06-23 | 知財一般
 X社の知財(特許)担当のAさん、Bさんは、X社の「知財をよくしたい」と思っている。
 同じくX社の知財(特許)担当のCさん、Dさんは、X社という「会社をよくしたい」と思っている。
 X社は、多くの特許出願を行ってきたものの、なかなか目に見える成果があがってこず、「余分な仕事に巻き込まないでくれ」と現場部門(発明者)の不満が鬱積してきている。
 A~Dのうち、最も「知財経営を実践する知財担当」と評価できるのは誰か。

 Aさんは、「彼らは知財の重要性がわかっていない」と嘆き、「発明者教育」を徹底させることにした。
 Bさんは、何とか成果をあげるべく「知財の質を向上させよう」と考えて、発明の質を精査して出願案件の厳選に努めることにした。
 Cさんは、自社の事業特性と特許の関係を今一度整理し、特許が有効という仮説が立ち得る分野を選別してその分野の発明者に仮説をぶつけて議論し、納得が得られた部門の仕事に集中することにした。
 Dさんは、会社の人材リソースの有効活用を考えると現場部門の負担を取り除くのが第一と考え、出願の推奨・促進を取りやめて、他社の問題特許への対処(早めのライセンス交渉等)に徹することにした。

知財の「具体的な成功例」を挙げることは有益か?

2008-06-20 | 企業経営と知的財産
 知財戦略関連のセミナーの依頼をいただく際に、よく「具体的な成功例を示して説明して欲しい」と言われます。いつもヘルシア緑茶ばかりというのも厳しいですし、これがなかなか悩ましい問題です。
 「ヒット商品を支えた知的財産権」というのもあるようですが、ビジネスパーソンの関心とはちょっと違うような気がします(「ヒット商品」というだけで収益への貢献が不明だからか、日用的に過ぎるからか、古い商品が多いからか、理由は説明しにくいですが・・・)。
 「世界一シンプルな投資戦略」という本(とてもオーソドックスで真面目な投資本です)に、「圧倒的な強さを持ち、高い参入障壁を築いている企業」に投資しよう、ということが書いてあります。具体例として、トヨタ、新日鉄、任天堂、資生堂、商船三井、ヤクルトなどを挙げてその参入障壁をわかりすく説明しているのですが、残念ながら特許の話は殆ど出てこない(新日鉄について「ミタルの20倍近い特許を持つ技術力、とあるくらい)。事業の強さというのは「特許があるから」とそんな単純なものであるはずがなく、特に参入障壁というのは年数を経て強固になればなるほど、組織や人材、企業文化といったところに昇華していき(トヨタの「カイゼン」とかヤクルトの「ヤクルトレディ」みたいなもの)、「特許による~」と説明しようとすると何だかウソっぽくなってきます。特許というのは、参入障壁の形成過程で細かく効かせていく(いろんな条件交渉を有利にするとか、回避のための負荷をかけるとか)ものであり、極端な話、使い捨てであっても参入障壁の形成過程で何らかの役に立てば意味があるわけで、無理してそこにスポットを当てて説明しようとすると、「ヒット商品~」みたいにちょっとレトロっぽかったり、妙にミクロな話になってしまったりする。そのような例を説明することが、リアルビジネスに本当に役立つのだろうか、と悩んでしまうわけです。
 やはりそうやって考えてみても、いい特許=質の高い特許=役に立つ特許、というのは、事業の参入障壁を固めていく工程にはまって何らかの作用をする特許のことであり、どのタイミングでどこに特許を配置しておくかが大切、と思う次第です。

超優良株で資産をつくる! 世界一シンプルな投資戦略―「本物の投資」こそが日本を浮上させる!
山田 勉
ダイヤモンド社

このアイテムの詳細を見る

「壊す」か「創る」か

2008-06-15 | 知財業界
 先週ある会食で某社の社長からお聞きした話。「新しい」という意味で一見同じように見える会社の中にも、「壊す」ことを得意とする会社と「創る」ことを得意とする会社があり、両者のメンタリティには大きな差があるということ。前者が「他社のこれまでの商品・サービスは~だったけど、わが社は・・・である。」という形で業界秩序を壊すことで差別化を図るのに対して、後者は「わが社ならではのスキルを生かすと○○○ができる」という提案型の商品・サービスを創っていくことで結果的に差別化されていく。どちらも最終的な商品やサービスの形が似たように見えているとしても、そこは違うんだと。
 どちらも社会的には有意な存在であることは間違いないですが、今ある商品やサービスとの違いがわかりやすいという意味では、前者のほうが商売としては立ち上がりやすいのでしょう。しかしながら、前者は既存の秩序が破壊されていくにつれてアイデンティティーが失われてしまいやすいのに比べて、後者は底力があるというか、長期的な視点でみると伸び代が大きいように思えます。
 確かに知財の世界を考えてみても、「アグレッシブだ」とか「あの組織(あの人)はちょっと違う」と言われる組織や人の中にも、両者のタイプがあるような気がします。「今の知財部は・・・」「今の特許事務所は・・・」といったネガティブな部分を「壊す」ことを目指すのか、「知財のスキルでこういう仕事をしていきたい」と「創る」ことを目指すのか。勿論、組織に属する限りは好むと好まざるとに関わらず前者の要素に関わっていかざるをえませんが、メンタリティがどちらにあるかという違いは確かにあるような気がします。異業種参入である自分としては、後者のメンタリティで結果的によいサービスを「創っていく」ことができればと思いますが。

特許部・知財部の延長線を超えた知財責任者

2008-06-12 | 企業経営と知的財産
 日経ビジネスの最新号に「CFOの時代~出よ!社長と歩む戦術家」という特集が組まれています。要すれば、今の時代に求められるCFOとは、財務部長や経理部長の肩書を変えた名ばかりのCFOではなく、ファイナンスという手段を使いこなしながら社長の描く戦略を実現していく参謀だということです。その役割は、財務部や経理部の実務の延長線上にあるものではなく、経営サイドに立ってそれらを使いこなせる人物ということになるのでしょう。
 CFOの役割について、この記事では図左に示したように、
〔青色部分〕銀行取引中心、対銀行への説明上事業の理解も求められた。(1970年代~)
〔黄色部分〕株式市場を活用、財務戦略に偏り事業をよく見なくなった。(1980年代後半~)
〔赤色部分〕投資家への説明責任が拡大、財務戦略と事業戦略を結び付けることが求められる。(現在~)
のように変化している、と説明されています。このような変化の捉え方は、特許部・知財部の延長線を超えた役割を求められる経営サイドにおける知財責任者にも当て嵌めることができそうです。
 というわけで、図右のように整理してみましたが、「知財戦略<=>事業戦略」はよしとして、「実務」の対極をどのように設定するかが難しいところです。CFOにとっての金融市場、投資家にあたるものですから、「責任者が真に向き合うべき現実」と捉えると、向き合うべき戦場は商品やサービスのマーケットであり、「事業環境の整備(参入障壁の形成、競争優位の確立)」とでも定義できるのではないでしょうか。この部分と向かい合いながら、知財戦略と事業戦略の融合、さらに具体的な実務の遂行を指揮していくことが、経営サイドにおいて求められる役割ではないかと思います。
 尚、この責任者をCIPOと称することもあるようですが、「C●O」がそんなにたくさんいても船頭多くして・・・という感がありますし、「C●O」とするには狭義の知財だけでは狭くなりすぎて組織の硬直化を招きかねないようにも思えます。記事には知財もCFOに期待するという例が紹介されていますが、そこは組織の規模や知財の重みに応じて違ってくるのでしょう。

正直、素晴らしい。

2008-06-08 | 知財一般
 泳ぐのは僕だ。
の北島康介が、「LZR RACER(R)」を着て日本新を出した後に、正直、素晴らしい。」とコメントしたというニュース。これぞ主役である選手を支える‘道具’のあり方、という感じです。
 
 商品を作るのは僕だ。事業をやるのは私だ。特許なんて関係ねぇ。
という現場のプレイヤーから、どうやったら「正直、素晴らしい。」という支持を受けることができるか。LZR RACER(R)は、着心地の良さという価値観を捨てて速さを生むための機能に徹したとのことですが、従来からある「特許はこういうもの」という固定観念を捨てて、どうしたら「特許が役立つか」というところをゼロから考えていく必要があるのだと思います。そして、北島康介が「見ての結果の通りですよね。僕は何も言う必要はないと思います。」と言っているように、最後はやっぱり‘結果’しかないんですよね。

どういう道具をどのように揃えるか

2008-06-07 | 知財一般
 特許権をはじめとする知的財産権を「道具」と捉えるならば、
② 道具をどう作るか
③ 道具をどう使うか
について考える必要があり、②が権利化業務、③が活用業務、と言われたりしているようです(どっちもゴツゴツしていてクールな呼び方じゃないですが・・・)。特許事務所業界では②の将来性が?であるため、これからは③だとか、さらには位置づけが不明確なまま突発的に価値評価だ、なんて意見が出てきたりするわけですが、その前にもっと大事な工程があるのではないか。それはすなわち、
① どういう道具をどのように揃えるか
ということです。これは②の前段階にあって、
 ①どういう道具を揃え、⇒ ②その道具をどう作り、⇒ ③作った道具をどう使うか
と進行していくものであると思います。
 この①の工程は、大企業であれば知財部が担っていて外部には出にくい部分だとは思いますが、何も悩みや課題がないわけではないのではないでしょうか。また、知財部組織を持たない中小・ベンチャー企業等であれば、限られた経営資源(ヒト、カネ)の中でどういう揃え方があるのか、ここが一番悩ましい部分であることが多いと思います。
 ①をソリューションの中核に据え、
 ②は幅広い分野で優れた作り手とのネットワークを張り巡らし、
 ③は権利行使だけに囚われない幅広い使い方の選択肢を持つ、
流行りものを断片的につまみ食いするのではなく、こんな感じで統一感をもった次世代知財サービスを提供できるといいんですが。

知財の成功モデル

2008-06-04 | 新聞・雑誌記事を読む
 日経ビジネスを読まれている方の目に止まっていることかと思いますが、最新号の
  岡村製作所~いすの背にも知財あり
の記事に、同社の製品が知的財産権で固められ、高収益を実現しているという例が紹介されています。象徴的なのが「コンテッサ」という商品で、1脚14~18万円台もする商品が(1万台売れれば御の字と言われる中で)既に20万脚も売れているそうです。この商品は、約60件の特許と意匠で保護されているとのこと。「知的財産権が効いている」典型例として使えそうな話ですね。知財部門の開発会議に参加して対象をしっかり拾い上げるという、まさに「源流に入れ」を実行していることが成功要因だそうです。
 この分野は門外漢なので、実質的な参入障壁として知的財産権がどう働いているのかはわかりませんが(BtoBなので営業網とかも大きい気がしますが)、60件もあると競合はその検討だけでも結構なコストを割かなければならないので、きっと厄介な相手になっているのでしょう。

知的財産権の本質

2008-06-03 | 知財一般
 ブログの世界でも話題になり始めているようなので、読まれた方も多いかもしれませんが、

中山信弘氏の情熱

 著作権、特に政策的な議論について私はフォローしていないので詳しいことはわからないのですが、特に「著作権法は経済的権利を守る法律であって、リスペクトなどというものは関係ない。」というところには、「他人の知的財産は『尊重』しなければならない。」とのあたかも知的財産権が自然法に基づくものであるかのような主張に日頃から違和感を感じる者としては、大いに共感します。知的財産権の保護は人権保護なんかとは違い、基本的には経済の問題であり、利害調整のルールであると(だから子供に教えるような性質のものではない)。いろいろ御意見あるかと思いますが、これは是非ご一読を。


固定したイメージ

2008-06-02 | 新聞・雑誌記事を読む
 最新号の発売日になってしまいましたが、日経ビジネスの前号(5月26日号)からもう一つ。知財関連のニュースでもよく話題になった「ほっかほっか亭」と「ほっともっと」に関する記事です。総本部とプレナスの間で権利関係に関する争いはいろいろあったようですが、分裂が決定的になってからは、加盟店からみると「知名度の高い総本部の屋号(ブランド)をとるか、プレナスの商品開発力(ノウハウ)をとるか」という選択になったそうです。一方で、実はこれが大きいのではないかと思いますが、知名度の高い「ほっかほっか亭」もブランド力が低下し、「脂っこい」とか「ボリューム重視」といったイメージが新規顧客の開拓の邪魔になっているとのこと。それならば、「ほっともっと」(重なるのは「ほっ」だけですが何か似たイメージを感じます)より、もっと劇的に違った店舗名にしてしまってもよかったのではないでしょうか。
 それにしても、固定したイメージが新規顧客の開拓の邪魔になるというのは、何か他人事ではないような気がします・・・