経営の視点から考える「知財発想法」

これからのビジネスパーソンに求められる「知財発想法」について考える

スターバックスでiPhoneのスクリーンをタップする

2009-12-07 | 新聞・雑誌記事を読む
 特許などの知財権を操る知財戦略で、企業の収益にどのように貢献できるのか。その基本パターン・原則論を、
 競争力の源泉となる知的財産⇒知的財産権により保護⇒参入障壁の形成⇒価格決定力の強化⇒粗利率の向上
という流れでよく説明しています。確かに、医薬品をはじめ、オリジナリティの高い製品では今でもこの原則論が適用できるのですが、特にコモディティー化の進む分野では、開発成果を丹念に特許でカバーしていってもそんな美しいシナリオどおりにはならないことが多いのが現実です。この点について、戦略の欠如が原因だとか昨今いろいろ論じられることが多くなっていますが、‘知財を扱う者’にとって重要なことは、戦略の欠如云々を指摘して何となくわかったような気分になることではなく、原則論が通用しない中で知財屋として何ができるかを考えることであると思います。
 1ヶ月ほど前になりますが、日経ビジネスに「“モノ作り”作り直し」という記事が掲載されていました。モノ作りが提供する付加価値の中には‘機能的価値’と‘意味的価値’が含まれている。近年‘機能的価値’と価格の相関関係が崩れる一方で、‘意味的価値’による差異化の成功パターンが多くなっている。この‘意味的価値’を高める製品開発は、消費者の潜在ニーズに対して試行錯誤を繰り返さなければならないため、‘機能的価値’を高める製品開発より複雑で形式知化できない困難なものだ。ゆえに、価値が高く、模倣も容易でない、という話です。
 知財活動のうち特許に関する仕事は、この‘機能的価値’による差異化をサポートするものです。すなわち、競争の重心が‘機能的価値’から‘意味的価値’へと移行していくと、必然的に特許による差異化の価値も低下せざるを得ない。特許出願が急速に減少している要因として、単に景気の悪化ということだけでなく、こうした競争環境の変化も意識しておくべきなのではないでしょうか。じゃあ「‘意味的価値’⇒ブランド⇒意匠、商標の時代ですね!」なのか、っていうと、たぶんそんな単純な話ではない。単純な模倣でも追随されやすい‘機能的価値’に対して、デザインやロゴを真似たからといって‘意味的価値’を追随できるかというと、それはたぶん難しいと思うからです。デザインやロゴを真似てみたところで、スターバックスでiPhoneのスクリーンをタップする‘意味的価値’は、たぶん再現できないでしょう。そういう意味では、製品のもつ‘意味的価値’が顧客に訴求すれば、その時点で強力な参入障壁が得られるということなのかもしれません。
 話を特許に戻すと、では特許を扱う仕事はこうした環境変化にどのように対応していくべきなのか。それがわかれば誰も苦労しないよ、って話ですが、一つ言えることは、‘機能的価値’による差異化を追求するだけで今まで以上の成果を期待するのは難しいということです。特許が‘意味的価値’による差異化を直接的にサポートできるわけではありませんが、‘意味的価値’が訴求すること自体が参入障壁としてはたらくのであれば、その‘意味的価値’の形成過程に特許の持つ効果を何らかの形で活かしていくことはできないか。具体的なアイデアはまだまだですが(ビジネスモデル系の分野ではそういうアプローチで取り組んできましたが・・・)、方向としてはそんな感じではないかと思っています。


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