経営の視点から考える「知財発想法」

これからのビジネスパーソンに求められる「知財発想法」について考える

国際特許流通セミナーなど

2010-01-28 | 企業経営と知的財産
 月曜日の国際特許流通セミナーの「中小企業における知財経営」には、多くの皆様にご参加をいただき誠に有難うございました。お二人の社長様からは知財活動のハウツー的な事項に止まらず、経営哲学ともいえるような部分にまで踏み込んだお話を伺うことができました。その中でも、私が最も印象に残ったのは次の二点です。
(1) 特許は自立した企業だからこそ活かせるものである。(永井社長様)
 (以下、私の解釈ですが、)
 特許制度を有効に利用するためには、それをもって何をするかという企業の明確な意志・目的意識が必要。「特許をとったらいいことがあるかも」といった、特許に依存した意識で取り組んでも効果は期待できないだろう。
(2) 事業において強いものは特許より契約、それより強いものが顧客満足。(宮原社長様)
 (以下、私の解釈ですが、)
 強い特許も契約の穴によりビジネスモデルの強みが減じられることがある。さらに言えば、顧客満足こそがビジネスモデルの強みを確固たるものにするのに最も重要な要素である(=特許と契約で固めても顧客満足を得られなくては強い事業になり得ないし、逆に特許や契約に不十分なところがあっても顧客満足が高ければ事業を推進する上で大きな強みになる)。
 ‘知財’戦略、‘知財’活動だからといって、「知財の創造・保護・活用」といった知財からの見方に囚われず、「競争力強化」という視点から考えていくことが重要だと改めて考えさせられた次第です。

 さて、国際流通セミナーを終えたその足で、ある地方の中小企業を訪問して社長様にヒアリングをさせていただきました。知財に限った話ではありませんが、中小企業の支援人材に何を求めるか。
「私達のような中小企業の仕事に、本当に興味をもって、一生懸命動いてくれること。」
 大企業の仕事が減ったから今度は中小企業だ、みたいな供給者側の一方的な論理を耳にすることがありますが、シビアな経営環境を生き抜くタフな中小企業経営者に通用するはずがありません。中小企業の現実を見た上で本当に興味があるといえるのか、そして自分も一緒になって行動できるのか、机上の知識の問題ではなく、そこに尽きるのであろうと思います。
 創業の経緯をお聞きしたところ、創業者である現社長のお父様が戦地に赴いた際に、負傷した戦友を担いで逃げてその命を救った。終戦で日本に戻って職がなく生活に困っていたところ、助けた戦友がある会社のご子息で、手ほどきをするからうちの仕事を手伝ってみるかといって創めたのが今の会社であるとのこと。中小企業には、それぞれいろいろな歴史や思い、哲学が詰まっている。そういうことをわかっていれば、ちょっとハウツーを知っているからといって、‘指導’だなんだの軽々しく言えるはずがありません。知識やハウツーは必要条件でしょうが、十分条件ではないことを改めて思った次第です。

セミナー等のお知らせ

2010-01-21 | お知らせ
 1~3月は知財関連のイベントが多くなっていますが、本日はその中から参加予定のセミナー等の宣伝をさせていただきたいと思います。

1月25日 国際特許流通セミナー 【B2】中小企業における知財経営
 パネリストとして、㈱ナベルの永井社長様、㈱エルムの宮原社長様と登壇させていただきます。モデレーターは、私の師匠の鮫島弁護士です。
 お二人の社長様へのインタビューは「ここがポイント!知財戦略コンサルティング」に掲載されていますが、昨年度はそれぞれ広島、福岡でのセミナーのトークセッションにご登壇いただき、どちらも大変内容の濃いお話で、参加者の皆様からのアンケート結果では凄い数字が出ていました。私が言うのもなんですが、「このセッションは熱くなるよ!」と予告させていただきます。

2月1日(東京),2日(大阪) 日本知的財産協会・ネット/デジタル研修
 「ネットデジタル分野における経営と知財の役割」を担当します。経営と知財の役割・・・これは危ないビックワードです。プロの皆様を前にしてかなり危険なシチュエーションですが、あれこれ頭を悩ませながら準備しましたので、なんとか頑張りたいと思います。

2月9日 中部経済産業局 知的財産マネジメントシンポジウム
 基調講演「中小企業における知的財産経営の視点」を担当します。この中では、一昨日のエントリに書いたフレームワークを、事例を交えて紹介させていただく予定です。

2月25日 四国経済産業局・21年度知財先進都市支援事業 知的財産戦略研修会
 「経営課題に応える知的財産活動のあり方」を担当します。ここでもまた、「ここがポイント!知財戦略コンサルティング」にご登場いただいた㈱シードの西岡社長様が、私の前に講演をされます。戦略的な経営者でありながら、知財の戦術・制度にまで詳しいスーパー社長ですので、ご講演が大変楽しみです。

その他に、
3月4日 名古屋商工会議所の勉強会で知財金融について
3月上~中旬 大阪、広島にて 中小企業の知財経営について
3月中旬 千葉にて ITベンチャーの知財戦略について
講演等が予定されていますので、後日また宣伝をさせていただくかもしれません。

知財活動・真の目的~5つのパターン

2010-01-19 | 企業経営と知的財産
 中小企業の知財支援に関して、昨年のいろいろな活動を通じてまとめてみたのがこの図です。先月のダイワベンチャーランドのコラムにも書きましたが、要するに、知財に取り組む目的を明確にし、その上で実際にワークし得る仕組みを作らないと、知財活動が企業活動の一部として定着し、経営上の成果に結びつけることは難しい。下側の一般的な知識を提供するだけでは単なる押し込み販売で、上側の各企業の実態にあわせた適用をやっていかないと、企業活動をサポートすることにはならない。その上で、左側のコンセプトを書くだけで右側の仕組みがないとかけ声倒れで終わるし、右側の仕組みを作っても左側の目的が不明確だと空回りしてしまう。極めてシンプル、そんなこと当たりまえでしょうといったフレームワークではありますが、いろんな企業の例をここに当てはめてみることで、知財活動が定着して成果に結びついている企業はどうやって回っているのか、逆に成果が十分でない企業はどこがネックになっているのか、わかりやすく整理することができるので、結構役に立ちそうな感じです。

 さて、その左上の「目的」の部分ですが、最近セミナーなどでお話をさせていただく際には、おそらくこれが全てではないと思いますが、私なりに見つけたいくつかの目的を4つに分けて説明しています。そこに先日、5つめに分類できそうなものを見つけたので、ここでは「知財活動・真の目的~5つのパターン」として整理しておきたいと思います。

① 参入障壁形成⇒収益力強化型
 差異化要素となる知財を知財権で固め、高シェア、高利益率を実現する、という最も典型的・教科書的なパターンです。
② 知財の可視化・権利化⇒財産形成型
 目に見えない技術やブランドを可視化し、知的財産権で括ることで企業の財産であることを明確にする。これをやらないと、人とともに知財も流出、という事態を避けられない。不動産に投資した場合であれば、登記して企業の資産であることを明らかにするのは当たり前のことです。
③ 縦方向の力関係規定型
 知的財産権というと対競合、という方向に考えてしまいがちですが、設備等の受注元や発注先との関係で、ボーダーラインにあるような知財を自社側に囲い込むことによって、交渉力を強化する。これは、販売先との価格交渉力の強化、外注コストの削減等に有効に働くものです。
④ 社内のレベルアップ型
 発明提案制度によって創意工夫を促し、社内を活性化する。特許出願で発明を特定する作業により、自らの生み出した技術を客観的に把握し、新製品の提案に結びつける。こうした社内の活性化・レベルアップを重視するパターンです。
⑤ 楔打ち込み型
 製品やサービスの差異が表現しにくい場合に、「特許」という楔を打ち込むことでその中から選ばれる理由を表現し、プロジェクト全体の受注に結びつける。どうも公共・公益系に比較的生じやすいパターンのようです。

 企業の抱えている課題に対して、どれか1つでも解決策になりそうなものがあれば、知財に力を入れてみる価値があるかもしれない。いずれも「これだけでは何のことやらわからん」って感じかもしれませんが、後日、できれば詳しく書いていきたいと思います。

利回り?

2010-01-18 | 書籍を読む
 知財本にしては珍しく書店でメジャーな扱いになっている「知財の利回り」ですが、一応目を通しておきました。IVに関してネガティブなコメントをすると「だから知財屋は保守的で・・・」って意見が聞こえてきそう、というか、そもそもコメントするだけの正確な生情報を持たないので、あくまでこの本を読んでどうしても気になったことを、一点だけコメントしておきたいと思います。
 それは、ベンチャーキャピタルやプライベートエクイティを引き合いに出しながら(「最初はリスクが高いと敬遠されてもやがては市民権を得ていくもの」というのが共通点というニュアンスを醸し出しながら)、IVの新しいビジネスモデルを論じている点です。ベンチャーキャピタルやプライベートエクイティも新技術など知財絡みのネタが対象になることが多いので、その共通点からこれらを引き合いに出しているものと思いますが、そもそもベンチャーキャピタルやプライベートエクイティとIVとでは、投資の対象の性質が全く異なるものです。ベンチャーキャピタルやプライベートエクイティは企業の株式に投資しますが、株式には法律上の存続期間がないので、持続的な成長を前提に投資対象を評価することが可能であり、投資対象(=企業)の成長を促すことが投資成果の向上に結びつくという構造になっています。これに対して、IVの投資対象は法的な存続期間の定めがある特許権なので、知財の中味である技術そのものと混同してしまいそうですが、投資対象である特許権は持続的成長という概念には結びつきません。そういう意味では、ビジネススキームから考えてIVのビジネスモデルに近いのは、どちらかというと不動産の私募ファンドであると思います。投資対象の存続期間は有限であり、存続期間が近付いて減価するまでにバリューアップして回収を図る必要があるという意味で。発明の活性化、事業化を後押しするというコンセプトは否定しようもない崇高なものであると思いますが、真に新技術の事業化とその事業の成長が目的であるならば、事業の成長、事業から得られる果実を直接的に得られるように事業の主体である企業(=株式)に投資するのが本筋ではないのか。この本ではその点が全然詰められておらず、ずっと引っ掛かったままだったので、どうにも読後感がすっきりしませんでした。
 さらに、その違いをクリアにしないで「利回り」を論じているのも、ずいぶん乱暴な議論であると思います。投資対象である特許権は、残存期間が短くなるに従って減価する資産、どんなに優れた発明に関するものでも最後は必ず価値がゼロになる資産であり、その点が株式や債券とは決定的に違います。そのため、運用期間中の運用資産に対する配当の比率が高くならないとそもそも元本の回収が覚束なくなるはずであり、それを何度も「20%」という部分ばかり強調して論じられると、何やら(減価償却を考慮せず)表面的な利回りばかりを強調するマンション投資の勧誘みたいで、ちょっと引いてしまいます。
 とまぁ、ネガティブなことを書いてしまいましたが、IV自体はプロ中のプロが運営している組織であり、そんなことは十分に踏まえたうえでいろんなビジネスモデルを構築しているはずなので、これはあくまで「知財の利回り」に対する疑問点ということで。

知財の利回り
岸 宣仁
東洋経済新報社

このアイテムの詳細を見る

市場布知財

2010-01-10 | 新聞・雑誌記事を読む
 新年最初の出張先が岐阜だったので、仕事後に金華山に登ってきました(ロープウェイ乗り場近くには、あのO国際特許事務所の大きな看板が)。そう思ってみるからかもしれませんが、足下に長良川、その先には木曽川(私事ですが下流で合流する三角州には「木曽を容れ長良を入れて花の水」という祖父の句碑が建っています)、濃尾平野と伊勢平野が広く見渡せる風景は、普通に‘景色がよい’のとはちょっと違って見えたりします。この景色見て、信長は天下布武を心に誓ったのか。年の初めからいいものを見ることができました。

 さて、金華山にある岐阜城は断崖絶壁の上に建っていかにも難攻不落といった印象ですが、城の守りで思い出すといえば、天守閣=知財を守る堀や石垣=知財権、です(かなり強引な展開ですが・・・)。昨日の日経夕刊には、三菱重工の発電用風車がGEの特許侵害なしと米ITCが最終決定した、というニュースが一面に取り上げられていました。それは(知財的には)よかったですね、という話ですが、3面の関連記事によると、金融危機によって資金調達が困難になったことによる投資抑制に加えて、米国の電力会社が特許問題によって自らの発電事業に支障が出ることを懸念し、三菱重工への発注を手控え、今年度の受注は未だゼロということで、ビジネス的にはかなり深刻なダメージを受けているそうです。これで思い出したのが、以前にBlackBerryのResearch in Motionが特許侵害で差止命令を受けた話ですが、パテントトロールに612.5M$も支払うことになって大変な痛手を被りましたが、その紛争の間にもBlackBerryユーザはどんどん拡大していて、‘電子メールの利用に支障が出ることを懸念’といった影響はあまり(殆ど?)見られなかったようです。特許の内容そのものまで確認していないので一概には論じにくいのでしょうが、この違いからは、
■ 自己責任のエンドユーザに販売する商品より、顧客に責任を負う商品やサービスを提供する事業者に販売する商品を対象にするもののほうが、特許問題が威圧的な効果を発揮しやすい。
■ 対象市場が民間セクターより公共・公益セクターのほうが、特許問題が威圧的な効果を発揮しやすい。
なんてことが言えるもかもしれません。

 最近の記事で気になったものをもう一つ。日経ビジネスの「隠れた世界企業」のコーナーで、1月4日号で紹介されていた㈱モルフォに関する記事です。同社は画像処理関連のベンチャーで、携帯電話用カメラの手ぶれ補正ソフトで急成長しているとのこと。デジカメではジャイロセンサーなどの装置を使っている手ぶれ補正を、映像を連写してノイズを消すというソフト処理によって携帯用にハードなしで実現した、ということなので、いかにもソフトウェア特許に馴染みそうな話だなぁと読んでいたところ、やっぱり出している(これまでに10件程度出願して既に2件は登録されている)そうです。ソフトウェアの分野で、特許を固めることによってオンリーワンであり続けることができるかどうか、これからの動向に注目です。

‘身をもって’理解する

2010-01-07 | 知財発想法
 年頭にあたり、みたいなことを書こうとすると筆が進まなくなってしまいますが、年の初めには毎年あれこれ書いてきたようですので(2009,2008,2007)、最近よく考えることを2つほど書き記しておきたいと思います。

 その1。
 商品にしろサービスにしろ、質的向上に勤め、差異化を図るだけでは、経済価値には結びつかない
 要するに、いい物を作れば、腕を磨けば、だけでは足りないということ。質的優位も、適切なビジネスモデルに当てはめることによって、初めてそれが経済価値に結びつく。「オープンビジネスモデル」(ヘンリー・チェスブロウ著)の54p.に「テクノロジー自身に固有の価値はなく、市場に投入するビジネスモデルがその価値を決定する」とあるように、特に最近よく言われている話なので何を今さらという感じではありますが、それを意識して実践できるかというとなかなか難しく、日々の雑務に追われていると、かなり頭を使ったつもりでも質的な差異化を図ることのレベルに止まっていることが多い。しっかりと実績を出している経営者やプロフェショナルにお話を伺うと、そこを本当に意識して実践できているという点が、たぶん普通の人と大きく違う部分なんだろうと思います。
 「情報やノウハウの価値が理解されない(=カネを払ってくれない)」なんて嘆きを耳にすることがありますが、それはこの大事な原則がわかっていないことの証であり、価値を理解しない文化や社会が悪いのではなく、その質的に優れたはずの情報やノウハウの価値を具現化するビジネスモデルを持たない自らの問題である、と認識したほうがいい。「知的財産の重要性が理解されない」なんて嘆きについても、これまた価値が理解されていないのではなく、その質的に優れたはずの知的財産の価値を具現化するビジネスモデルを持たないから価値が顕在化していない(顕在化していないゆえに理解されるはずもない)のである。ビジネスモデルを構想することそのものは知財人のミッションを超えているということが多いでしょうが、少なくとも問題の所在をそのように認識しておくことで、様々な判断が違ってくるはずであると思います。
 その2。
 そのビジネスモデルについて、構想する力以上に重要なのが、ビジネスモデルの実行力、さらにはそれを支える精神力である。
 アイデアをあれこれ考えるだけであれば、意識さえしっかり持っていればさほど難しい話ではなく、ところがそれがなかなか結果に結びつかないのは、リアルワールドで行動する力、トラブルが生じても、結果が出なくてもメゲずにやり続ける精神力、そこが一番の原因であるように思います。身を張って起業しようと決意するような人であれば、何らかの構想、ビジネスモデルをもってスタートするのは当たりまえの話ですが、実際にスタートしてみると、現実に生じる諸問題をクリアしていくことが必要であり、実行力や精神力が構想力以上に結果を大きく左右しているように思います。
 これもまた、「指一本の執念が勝負を決める」などで言われている話ではありますが、こうした各所で語られているビジネスの成否を決めるポイントを、頭でわかったような気になることと、身をもって理解することは全然違う。ここが重要なところで、だからこそ‘経験’が意味を持つのであり、その経験を積むためにも、やはり実行力(+精神力)が問われるということです。ウォーレンバフェットの言によると「ほとんどの場合、人は行動が遅い」とのことで、さらに「バフェット・コード」の解説では、素早く行動するためには日頃からの(心も含めた)準備が大切である、と。
 その1、その2ともに、今さらそんなレベルの話かよ、って感もありますが、これを「身をもって理解した(つもりの)こと」として記しておきたいと思います。とりあえずはそんなところで。